エピローグ
エピローグ
湖面が夕暮れ時の橙色の陽の光を反射して、小さな宝石を散りばめたようにきらきらと輝いている。遠くの空には斜陽の光に包まれながら、鳥が群れをなして飛んでいる。先頭の一羽がほとんど誰の目にも見えてさえいない隔離空間の壁を通り抜ける。
「鳥はなにも感じないんだね」
湖畔の芝生の上に佇む少女が小さく呟いた。
彼女は雪のように白く長い髪を、風で崩れないように押さえ、眼前の車椅子に座るブロンドの少女に視線を落とした。彼女に対して口を開きかけたその時――
「フロレンツィア」
名前を呼ばれ、フロレンツィアは振り向く。
「ヘレナ、イレーネ」
「出発するから挨拶に来た」イレーネが軽やかに笑って言った。
「本当に行くのですか?」
「隔離空間は再生成されて安定しているし、外からの手出しはないと思うけどさ」ヘレナが答える。「外の人間がどう動くのかは分かっておく必要はあるでしょう?皆、人間の侵攻を忘れてしまってるんだから、私たちだけは警戒心を持っておかないと」
「ナノは連れて行かないのですね?」
「顔を知られすぎている。結構粘られたけど、ようやく納得してくれたよ。なりより、あの兵器に乗せられていた人たちの面倒とかナノにはナノのすべきことがある」
「それに、いざとなったらすぐに逃げられるけど」イレーネが付け加える。「不用意に危険に晒されることもない。チセもナノには穏やかに暮して欲しいと願っているだろうしさ」
イレーネはそう言って、フロレンツィアの後ろの車椅子に視線を向けた。そこに座る少女は遠くの空を茫然と見つめていた。
「フロレンツィア、あまり思いつめないでね」
イレーネはそう言ってフロレンツィアと抱擁を交わした。
「元気で」
ヘレナもまた同じくフロレンツィアと抱擁を交わすと、イレーネの手を取った。
刹那、二人は文字通りその場から消えた。
フロレンツィアは車椅子へ向き直ると、再度そこに座る少女――チセへと視線を落とした。それからチセの青い瞳に映るものと同じ景色を見ようとするかのように夕焼けに染まった空を見上げた。涙が頬を伝い、芝生の上に落ちる。
時間が緩やかに流れる。
山の向こうに隠れる前の夕日の光が二人を包み込む。
フロレンツィアは目元を拭い、手押しハンドルを握った。
その時、彼女はその手が優しい温もりに包まれるのを感じた。視線を落とす。
チセがフロレンツィアの手の上に自らの手を重ねていた。
フロレンツィアは目を見張った。そして彼女を見上げるチセの顔を見た。
フロレンツィアの頬から涙が消え、そこには穏やかな微笑みが浮かんでいた。
ウィッチハンターウィッチ 森山ナリ @moriyama_nari
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