5-3 白い鳥

 チセが意識を失ってからもゴーストは消えることなく、エスペランサのコックピットのスクリーンを通して外を見続けていた。前方の魔女の群勢から刃が放たれた際も、彼女は回避のためにエスペランサの操縦を試みたが、上手くいなかなった。幸い被弾した三本の刃には、内部の魔女を貫く程の威力はなかったが、次に同等の攻撃がなされれば、このままでは対処しきれないことは明らかであった。

 ゴーストは再度、先刻放ったのと同様の光線を前方の魔女の群勢に向かって発射させた。光が群勢の半数を飲み込み、消し去る。

 光線の範囲外にいたことで生き残った魔女のさらに半数が、一切の動揺すらなく、機械のように一斉にエスペランサへと刃を放つ。ゴーストは操縦席から立ち上がると、コックピットの壁をすり抜け、さらに前のキューブからも抜け出て、迫りくる刃の前に出た。彼女はエスペランサを全身で守るように両の手を広げる。刹那、隔離空間の光の壁から彼女に向かって、薄緑の光が流れ込んできた。その光は彼女とその背後のエスペランサを球形に囲い込む。

 ゴーストの眼前まで迫っていた刃はその光の膜と衝突すると同時に消滅した。

 ゴーストはエスペランサの周囲の光の膜を維持したまま、地上へと降下して行く。

 地上ではナノとフロレンツィアが、空の魔女の群勢から放たれた刃を、魔力の膜を張って防ぎつつ、浮遊魔法で宙を舞いながら、攻撃の勢いが薄い場所へと逃げ続けていた。エスペランサからの砲撃により魔女の数が半減し、さらにそのうち半数がエスペランサに注意を割かれていることもあり、二人はなんとか猛攻の間隙をつく形で生き延びていたが、これ以上長くは持ちそうにもなかった。

 二人の元に降りていくゴーストもまた長くはなかった。

 ゴーストを形作っている魔力の光が段々と希薄になっていっていた。彼女を構成する光はチセからではなく隔離空間から流れてきていたが、今はその勢いもほとんど無いに等しい程であった。

 ゴーストは刃の雨をすり抜けながら、フロレンツィアの背後まで到達した。フロレンツィアがその気配を感じ取ったかのように背後を振り向きかけた時、ゴーストの手が彼女の背を触れた。

 フロレンツィアの動きが止まった。すぐそこまで刃が迫ってきているにも関わらず、別の何かに意識を持っていかれたかのように茫然と立ち尽くしていた。

「フロレンツィア!」

 ナノの必死な叫び声にも一切呼応することなく固まっていた。

 ナノがフロレンツィアへと飛び込んで来るのとほとんど同時に、ゴーストが俄かに宙へ溶けるように光の粒子となり、虚空に消えた。直後、ゴーストを構成していた光がフロレンツィアとナノを囲い込むように半球状に広がり、二人に迫っていた刃の全てを弾き飛ばした。

 弾かれ、宙を舞う刃に驚きの目を向けたのはナノだけであった。フロレンツィアは周囲を見向きすらせず、ナノの手を素早くとった。

 ナノはフロレンツィアに握られた右手に視線を落とす。フロレンツィアの白い手に包まれた手、その先には焼け焦げた地面があった。しかし次の瞬間には、背の低い雑草の緑が彼女の目に飛び込んできた。ナノは顔を上げる。周囲に生茂る木々と空を見上げるフロレンツィアの姿が目に入る。

「これはどういうこと?」ナノの口からは自然と疑問の言葉がこぼれていた。

「私は……隔離空間にアクセスした」

 フロレンツィアは自分の手のひらへと視線を落とし、ナノの問いかけに答えるというより、自分の中にある混雑した情報を整理するかのように呟いた。

「隔離空間にアクセス?だからイレーネの能力が使えたの?」

「わからない……でもやり方がわかった……やらなければならないと感じた。隔離空間はその防衛機能を暴走させている。不安定になってもいる」

フロレンツィアはナノを見ることすらなく、一人で小さく呟き続けていた。

「フロレンツィア!」

ナノが彼女の肩を強く掴む。

「ナノ……」

フロレンツィアははっとしたように顔を上げる。「あまりここに長居できない。早く戻らなければ、チセが……死んでしまう!」

「さっきフロレンツィアはイレーネの能力を使ったよね。もう一度使えるの?」

「おそらくは。でもあの兵器の内側には飛べない。何かに遮られている感覚があるから」

「とりあえずチセが居るあの場所までは戻れるということだね?問題はあの魔女の群勢をどうするか……」

「かつて魔女の能力の働き自体を強める能力を持った魔女が居たと聞いたことがあります。その能力にアクセスできれば、あるいは……ナノの能力を強めることができるかもしれません」

「なるほど。やってみよう」


・ ・ ・・・・・・………─────────────────………・・・・・・ ・ ・


 フロレンンツィアとナノが俄かにエスペランサのすぐ前に出現した。魔女の群勢はエスペランサを取り囲んで攻撃を続けていたが、その周囲に展開された球状の魔力の膜は破壊されておらず、先刻のままそこにあり続けてあった。

「ナノ、お願い!」

「わかってる!」

ナノは言うが早いか両手を前に突き出し、魔力膜を周囲の魔女全てを飲み込むほど広域に展開させた。突如として攻撃が止む。

「フロレンツィア……能力を強化しても、これだけの数を押さえ込むのは、結構きつい。長くは持ちそうにない」

「わかりました」

フロレンツィアはナノからエスペランサへと体を向けると、その兵器に右手をかざした。集中するように目を閉じる。

 彼女はエスペランサの中を探るために、その内部へと魔力を流し込もうと試みた。しかし、中にいる魔女の無意識の妨害により、内部へと流し込もうとした魔力は拡散し、さらにエスペランサの存在を脅かす外敵を排除するかのように、中の魔女の様々な思念がフロレンツィアの頭に強烈に流れ込んでくる。

「ああっ!!」

「どうしたの!?」

「大丈夫……です。ナノは、とにかく周囲の人たちを止めておいて」

 フロレンツィアは頭が割れそうな痛みに耐えながら言った。頭の中をかき回されているような強烈な痛みと不快さとに精神が支配される。

(痛い…苦しい…)

エスペランサの中の魔女の思念に飲み込まれていく。

 記憶の断片が流れ込んでくる。

 多くの子どもたちが血を流し、横たわる食堂。

 薄暗い部屋の中、凍りついたような無表情で一様にスクリーンを見つめる子どもたち。

 子どもたち全員が魔女への憎悪を同じように叫ぶ。

 ついては消える電球のように、誰のものかも分からない種々の記憶がフロレンツィアの頭の中を明滅する。

 気がつくと、彼女は穏やかな湖畔の景色の中に居た。

 鳥が囀っている。湖の向かい側の畔に二人の女の子が並んで座っているのが見えた。遠くにいるはずなのに、二人が何をしているのかがはっきりと見え、何を話しているのかさえもはっきりと聞こえた。

 その女の子たちは、チセと、彼女の友人らしかったエリザという少女であった。二人ともまだ5、6歳程に見えた。

「あの子……」

 先刻見た子どもたちとは正反対のエリザの屈託ない子供らしい笑顔のために、フロレンツィアは僅かに顔を歪めた。とその時、エリザが彼女の居る方向を指差した。

「白い鳥だよ!」

エリザがチセの肩を興奮して揺らす。

「見て、見て、白い鳥!」

「ああ、美しいな」

そう答えたチセにはその容姿からは想像できないほど大人びた落ち着きがあった。

「チセ、あの絵本はもう描かないの?」

「描かない」

「どうして?」

「白い鳥は少女の元には帰れないし、少女は白い鳥には絶対会えないからだ」

「なんで?お話なんだからどうとでもすればいいじゃない」

「そんなの馬鹿らしいじゃないか」

チセはひどく疲れたような、全てに絶望したかのような気力に欠けた表情をしていた。

 フロレンツィアはチセの居る畔へと無意識に手を伸ばしていた。直後、それに答えるように背後からチセの声が聞こえた。

「私は、私に優しくしてくれた人に優しくありたかった」

 フロレンツィアが後ろを振り返る。そこには見慣れた学校の制服姿のチセが立っていた。だが、その表情は湖の向こうに居た幼い彼女と同じ悲しみに沈んでいるように見えた。

「それなのにやったことは全てをかき乱しただけだ。生まれる前からずっと」

「そんなことない!あなたは……!」

「私は過去に生きた。君は未来に生きろ。過去は私が、私と一緒に連れていく」

チセがそう言った刹那、辺りの景色がいびつな鏡に映されたようにぐにゃりと歪み、チセの姿も消えた。

 直後、フロレンツィアは何者かに背を押されるのを感じた。慌てて振り返る。先刻目の前に居たチセの姿と、さらにその後ろの湖の向こうにエリザと共に居る幼いチセの姿とが見えた。どちらも悲しげで、それでいて優しい目をしていた。

 フロレンツィアの意識は闇の底に落ちた。

「フロレンツィア!」

 ナノの声によって彼女は現実に引き戻された。

「あれ!」

フロレンツィアはナノを振り返り、そして彼女が指差す方向を見た。何十機もの戦闘機が、日の落ちた空の果てから彼女達の居る所に向かってきていた。機銃の弾丸がエスペランサを取り囲む魔女の体を引き裂いていく。

「催眠を解く」ナノが言った。

「でも……」

フロレンツィアは後ろにあるエスペランサを見た。彼女はその中のチセだけを案じていた。

「このままじゃこの人たちも殺されてしまう」

ナノが言うが早いか、催眠を解かれた魔女たちが動き始めた。今度はエスペランサにではなく、向かってくる戦闘機に対してである。しかし、何かを仕掛ける間もなく、その多くが無残な肉塊と化していく。

「もう魔力が残っていないんだ」

ナノは再度、魔力の膜を周囲に広げた。機銃の的にされている魔女を飲み込んでいく。

「こっち!こっちに来て!」

 ナノの声に従うように魔女たちが、エスペランサの周囲に展開されている球体の魔力膜の中に入ってくる。戦闘機が放った弾は全てその膜に弾かれる。

「ナノ!なにをやっているの!」

フロレンツィアがナノの肩をひっぱり自身の方に体を向けさせる。

「助けたんだよ!」

「あの戦闘機の注意の全てがここに向いてしまう!」

「なら見殺しにしとけっていうの!」

「これ以上、ここを危険にさらしてはいけない!チセにこれ以上力を使わせてはいけないの!」

「なら私たちで対処すれば良いでしょ!」

「私にはもう魔力がほとんど残っていない。チセをすぐに回復させられるだけは残しておかないといけないし……魔力の残存量はあなただって同じようなものでしょ?」

「じゃあどうするの?」

「この人たちに注意を引いてもらって、そのうちにチセをここから引っ張り出して逃げるのよ!」

「本気で言っているの?この人たちは隔離空間に操られてるだけなんだよ?」

「そうしないと、チセを助けられない!」

「わかった」

ナノはフロレンツィアの手を肩から払いのけると、戦闘機が向かってきている方を振り向いた。「なら、私が行く。奴らの注意を引いて、数を減らす―――その程度の魔力は残っているから」

「ダメ!」

「他の魔女に行かせても、ただ無駄死にさせるだけでしょ。この人たちが死んだらどっちみちこっちに注意が向くよ」

「ならイレーネを待ちましょう。彼女が戻ってくれば、あなたの力を最大限活かせる立ち回りができるはずです」

 フロレンツィアがナノの右手を掴んで縋るように言った。直後、4機の戦闘機からミサイルが発射された。ミサイルはエスペランサの周囲に貼られた魔力の膜に直撃し、爆裂する。魔力膜はその爆風さえも通さなかった。

「チセに力をこれ以上使わせたらいけないんでしょ。私がチセを守る。フロレンツィアはチセを助けて」

ナノはフロレンツィアの手を振り解くと、魔力膜の外に出て一番近くの戦闘機向かって飛んで行った。

「ナノ!」


・ ・ ・・・・・・………─────────────────………・・・・・・ ・ ・


 戦闘機へと近づいていくナノへと機銃の弾丸が絶えず放たれる。ナノは高速で宙を舞いながら、それらを避けつつ、一機の戦闘機の下に潜るように滑空していく。攻撃が僅かに緩まった地上近くで、槍状の魔力の塊を作り出し、それを上空の戦闘機に放った。

 魔力の槍は見事に狙った戦闘機を貫き、撃墜し、直後に球状に魔力を拡散させた。魔力の球体がその近くを通る戦闘機1機を囲い込む。ナノが能力を発動させるべく上空に右手をかざした―――その瞬間、空にかざしたその右腕の半分が文字通り弾け飛んだ。赤い血と、右腕だった肉塊が宙に舞う。

「あああああああ!」

 ナノは反射的に蹲った。苦痛に歪んだ顔を上げる。

 遠くの瓦礫の向こうに装甲車とその近くの比較的平らな地面の上に対物ライフルの陰が見えた。すぐに第二撃が飛んでくる。ナノはそう予感し、死を覚悟した。

 彼女の予感通りに二発目の弾丸はすぐに飛んできた。ナノの体を吹き飛ばす―――その直前、彼女の周囲にエスペランサの周りに張られてあるのと同様の魔力の障壁が出現した。弾丸が弾かれる。

「ダメだ……」

ナノが薄れかかった意識の中で呟く。「ダメだ、チセ……」


・ ・ ・・・・・・………─────────────────………・・・・・・ ・ ・


 フロレンツィアはエスペランサの中に居るチセをそこから引っ張り出すため、その兵器と向かい合っていた。エスペランサを傷つけようとすれば、中に居る魔女が反射的にそれを妨害しようとしてくる。そのため、彼女はまず中に居る魔女の意識を奪おうと、その内側へと魔力を流そうと試みたが、上手くいかなかった。

 強い焦りからフロレンツィアがエスペランサの装甲を無理やりにでも剥がす強硬手段を取ろうとしたその時であった。彼女は脳に直接響くような声を聞いた。

「みんなみんな死んだ。ウルリヒさんも、エリザも、みんな、みんな!」

チセの声であった。

「お前たちのせいだ!」

 その時、フロレンツィアはエスペランサの向こう側を飛んでいた戦闘機が俄かにコントロールを失ったように墜落していくのを見た。続いて右手側を飛んでいた戦闘機が落ちていく。

「だめ、チセ!これ以上やってはあなたが死んでしまう」

フロレンツィアは魔力で短剣を作り出し、それをエスペランサの装甲に突きつけた。しかし、装甲を破るどころかその手前に薄く張られた魔力膜を壊せさえしない。

 フロレンツィアは何かにすがるように空を見上げた。その時、上空から薄緑の光が、緩やかな川の水の流れに沿っていくような動きで地上へと降り注ぐ光景を見た。

「何…あの光?」

その光は空を飛ぶ戦闘機を包み込み、操縦を狂わせ、地上へと落としていき、地上の装甲車や戦車、人間の兵士の動きの全てを止めた。

 フロレンツィアは視線をエスペランサに戻す。

「チセお願い、やめて!チセ!」

 フロレンツィアは遮二無二、短剣をエスペランサに突き立てる。

「私はあなたがいないと未来に生きられない!」

縋るようにエスペランサの装甲に手をつけ、俯いた彼女の瞳から一粒の滴が地面に向かって落ちていく。

「ずっとここに縛られ続ける!だから……!」

「ごめんな」

フロレンツィアの脳裏に響くその声はとても悲しみに満ちていながら優しげであった。

「ナノを頼む」

 チセの言葉の終わりと共に全てが光の中に飲み込まれた。フロレンツィアはその眩しさに目を瞑る。


・ ・ ・・・・・・………─────────────────………・・・・・・ ・ ・


 フロレンツィアが次に目を開けた時にはあたりの景色は一変していた。

 空の戦闘機も、地上の装甲車や兵士も脅威は全て消え去っていた。空に浮かぶフロレンツィアの薄紅色の瞳に最初に飛び込んできたのは、遮るものが何も無い満天の星空であった。先ほどまでの死に溢れた光景の全てが夢であったかのように静かで、穏やかな輝きが夜空を満たしていた。

 地上へと視線を下ろす。破壊し尽くされていたはずの大地は草花で覆われていた。それらの草花は星や月の光を吸収しているかのように発光しており、夜闇の中でもはっきりとその存在を視認できた。視界の端、草花の中にエスペランサが横たわっているのが見えた。フロレンツィアは急いで降下していく。

 エスペランサの周囲には多くの魔女が横たわっていた。フロレンツィアはその中にナノを見つけた。急いで駆け寄り、彼女へと屈み込む。

「ナノ……!」

ナノの服の右袖は腕ごと吹き飛ばされたかのように不自然になくなっていたが、どこにも外傷は見られなかった。意識がないだけで、呼吸もはっきりとしている。

 フロレンツィアは立ち上がると、エスペランサへと走った。チセがどのキューブの中に居るのかも不思議と感じ取れた。

 エスペランサの上面へと浮遊し、短剣を生み出すと、その中心に位置するキューブの端に突き立てる。今度は何の抵抗もなく刺さった。装甲を剥がし、取り去り、そしてキューブ内部を顕にする。

 キューブの内側からの熱風とその中の光景に、フロレンツィアは息を飲み、言葉を失った。

 高熱で溶けたただれた椅子の上にチセは居た。

 彼女の体もまた熱で溶けており、服と皮膚、体と椅子との輪郭が曖昧になっていた。意識はなかったが、僅かに息はあった。

 フロレンツィアは急いでチセへと手をかざし、キューブ内を自身の魔力で覆った。祈るように目を閉じる。

 椅子と半ば一体化したチセの腕や背中がその輪郭を取り戻し始める。焼けた顔がゆっくりと治っていく。チセの体が緩やかに元の姿を取り戻す。

 チセの体の大部分を再生したところで、フロレンツィアは彼女の体を椅子から浮かせ、そのままキューブの外に出し、エスペランサの上から降りて、草花の上に横たわらせた。

 体は戻った。後はその意識だけだ。フロレンツィアは必死に呼びかける。

「チセ!返事をして!」

 草花の明かりに照らされたフロレンツィアの頬を、一筋の涙がゆっくりと流れていく。

「お願い、目を覚まして……」

涙の滴が静かにチセの額へと落ちていく。とその時、チセがゆっくりと目を開いた。

「チセ……!」

 チセは数度瞬きをし、それからフロレンツィアに向かって手を伸ばした。フロレンツィアの表情が安堵と喜びに輝く。彼女はチセの手を取ろうとした。しかし、続くチセの言葉で固まった。

「白い鳥……綺麗だなぁ」

チセの顔はフロレンツィアを向いていたが、その瞳に彼女は映っていなかった。

「眩しいなあ……眩しい……」

「あ……」

フロレンツィアの口から震えた声が漏れる。

 チセが穏やかな微笑みを浮かべる。

「やっぱり綺麗だぁ」

学校の雑木林の中で初めてフロレンツィアに見せたような純粋な笑顔だった。むしろそれよりももっと無邪気であった。

「チセ……」

フロレンツィアはゆっくりと起き上がるチセを優しく抱きしめた。チセから嬉しそうな小さな笑い声が漏れる。

「あったかい」

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