桟橋と浜簪

第38話 入道雲と海の家


 青い空、広い海。


 お決まりの海の代名詞がよく似合う今日はき日。



 景色けしき一面は青に白のコントラストで眩しく光り、

入道雲が水平線からもくもく天高く立ちのぼ


 その雲よりも白い太陽は、まだ昇り切っていないというのに

顔と腕をジリジリと灼き、潮風がそれをやさしく撫でていった。



 さざ波の音と共に運ばれる磯の香りが妙に心地よく感じる。



そう、本日は晴天である。

そして自分は盲点であった。






 「まさか、瑠璃音ちゃんも海に来てたなんてびっくりしたよ」


 「そだね・・・」



 水着姿の七瀬瑠璃音と、海の家の砂がざらつく畳の上で

二人きりで荷物番をすることになってしまっていたのであった。




 七瀬瑠璃音―――

 まちで見かけようものなら、

誰もがそのまなこ

追わずにはいられない非の打ちどころ無い美人である。


 そして元カノでもある。


 童顔にミルキーブロンドのセミロング、

圧倒的プロモーションと破格のバストを持つ彼女。

 身長が低めなこともあって、

正面からでもその谷間をうっかり覗けてしまう機会が度々あった。


 だが今日はうっかりなんてところではない。


 純白のビキニに薄いジップアップパーカーを羽織っており、

ジッパーをほぼ全開に開けている。


 その為、どの角度からでもその峰を拝むことが出来てしまったのであった。


 隣で膝を抱え時折海を眺める彼女。


 それを横目に言葉の切れ端から

どうにか会話を続けようとしたが、

彼女との過去のやり取りを思い出しては、言葉に詰まるだけだった。



 そして体育座りのようになってる姿勢からみえる

ビキニの上に少しだけ乗ったお肉が

無防備なイメージに拍車をかけ、

詰まった言葉はゴクリと喉を鳴らして胃に落ちていく。



 大学でも人気な彼女が水着姿で隣に座っているなんて、

普通なら胸が弾むような思いなのに、

 今はなんとも気まずい状況。


 会話は全く弾まず

浜辺でボールを弾ませる若い衆の楽しげな声が

虚しく響くだけだった。



「みんな遅いね。

な、なんか買ってこようか?飲みたいのある!?」



 あまりの気まずさに耐えられず席を離れる口実がてら提言してみるも

「いらない」の一言に居心地の悪さがより一層加速するだけであった。



 こちらを見るわけでもなくスマホに操作しながらのぼやくような冷たい一言。


 つーっと顎をつたう汗が、暑さのせいか冷や汗なのか分からなかった。


 『気まず過ぎる・・・

絶対怒ってるって避けられると思ってたのになんで

❝かーくんと一緒に荷物番するのぉ❞

なんて言ったんだぁ!!』


 頬の肉を指で引きずり落としながら苦悩に顔を歪ませても

答えは出てこない。


 

 「ねぇかーくん?」



 波に消えそうな小さな彼女の声に、

驚きながら手を即座にピシッと膝元に戻した。

 


「ま、なんでしょう・・・?」



 膝元に置いた手の上にスッと柔らかく温かい手が重なってきた。


 他の誰でもない瑠璃音本人の手だ。



 「今日良かったらさ、一緒に泊まっていかない?」

 


 さざ波が再び騒ぎ始めたのを耳元で感じながら

静かに息を飲んだ。




 海に二人きりで海の家にいる経緯は紆余曲折あり、

事の始まりは1時間前までさかのぼる。



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