第27話 優艶と遊園

【デート】


 それは互いの私的時間領域プライベートを譲渡し合い、

互いの干渉不可権利プライバシーを共有する


いわば男女交流化学反応ケミストリーストーリーである。


普段の社会生活では垣間見る事さえ出来ない。

互いの内面を第三者に干渉されることなくなることで


二人だけの共有された時間は、

時に二人だけの秘密事となり、


時にかけがいのない思い出の1ページとなる。


だが、形はどうあれ【初デート】ともなれば

話は少し違ってくる。


男側は当然試される、社交性エスコート力。


女性の求められる期待値に届かなければ、

その日限りの付き合いになりかねず、

最悪の場合、不合格判定を開始数分で喰らうことになり

男はその夜、枕を濡らすことになる。


男にとってデートとは就職面接ならぬ就恋面接なのである。






そしてデート当日


付き合ってもおらず、片思いでもない二人は

海に面した遊園地内で顔を合わせる事となった。


◆◆◆






「す、すまん待たせた」


「女の子を外で待たせるなんて・・・

こういうのってご法度って言うんじゃないかしら」


「いや遊園地で集合って聞いたら

普通は外とか駅前で落ち合って一緒に中に入るだろっ!

何で先に中に入ってるんだよ!」



ラインで場所と時間は待ち合わせしていたのにも関わらず

二人が顔を合わせたのは約束の時間より30分も過ぎた後。


 天気は快晴。

気温こそ高いが潮風を肌に感じる涼しさが相まってちょうどいい気候。



 ばっちり集合時間に間に合わなかった。



 旭川は不満げな腕組みに首を傾げ、

その仕草に長い黒髪がそよ風に揺れる。



「なんで俺が悪いみたいになってんだっ

何度もラインしただろ!」


ラインでは


«最寄り駅降りたけどどこにいる?»


«私も今中にいる»




«中じゃわからん。なにが見える?»


«人列車に乗っていくのが見える»




«他には?»


«子供達が乗物から沢山降りてきたけど»



 とやり取りがあった為、

駅内にいると思いくまなく駅中を探してしまったが、

彼女のいう列車はテーマパークのアトラクションの一つ

[ゴーゴーSL君]の事だった。



「次からは電話にしましょう」


「賢明な・・・はぁ、判断だな」



 駅からここに来るまで走った為に、

息を整えながら返事をした。


 荒れた呼吸の最中、聞き落としていた言葉に気付く



『今って言わなかったか・・・?」



 言葉の真意を確認しようと思ったが、それはすぐに辞めた。


 旭川はそわそわと辺りを見渡し、

アトラクションや、パークの装飾に目移りしている。


 身振り少し揺れる黒いフレアスカート、

五分袖のトップスが潮風に膨らみ、彼女の普段の凛とした姿とは一線を画して

可愛らしく見えてしまったからだ。


 黒のヒールも上品ながらもその可愛らしさを際立たせ、

手荷物のミニバッグもアクセントとなり


 彼女の綺麗さに更に愛らしさを添える。


全体的に黒を基調とした服装は落ち着いたイメージにピッタリだ。






実はここに来るまでに友達の山下と河野に[デートの極意]を聞いていた。


 聞いた、と言っても二人の半ば強引なもので

女の子と出掛ける時の服装を聞いただけだったのに、


 不必要な知識の押し売りと、

どこで使うかわからない口説き文句の数々を雄弁に語られた。


 それでも有益なものもいくつかあった。


 それは



「今日の服っ」


「え?・・・服がどうかした?」



 スカートの広がりが収まった。



 「えーっと、その・・・

良く似合っていると思うよ」



 彼女の身だしなみを褒める事。

男が女性に会って最初にするべきことだと河野も言っていたし

自分もそれはするべきだと思った。


 実際のところ、お世辞ではなくよく似合っている。


 だが女性の服装を褒めることに慣れていない上に、

旭川の身だしなみに触れたことなどなかった為、

ぎこちない言い方になってしまった。 



「ありがとう、自分ではどういう服を着たらいいか分からなくて、

友達にいろいろ教えてもらったんだけど。変じゃないならよかった。」


『一緒だ、俺も友達に聞いたし』



 彼女はスカートを掴んで身だしなみを確認する。


 その仕草はまるで欧州の淑女のご挨拶カーテシーのように上品。






「行きましょう。出来るだけ多くのアトラクションを回りたいわ」



 そういって前髪の分け目を少し気にしながら隣に歩み寄って来ると、

パークマップを両手でバサッと広げて見せてきた。


 彼女のひんやりとした二の腕がこちらの手に当たり、すこし驚いてしまったが

向こうは何の気なしに計画を進める。



「前もってパンフレットを貰ってきていたの」


「めちゃくちゃ楽しみにしてたじゃん」


「・・・小説の参考にする為よ」 



 語尾が少し上がったがが表情はいつもの無表情。



 「その割には随分とマップに書き込みがされているが・・・」



 マップには効率の良い順路を赤ペンでルート付けされ、

余白には所々犬らしき生き物が書かれていた。

相変わらず可哀そうな画力で描かれている。


 今回は所々お花の絵も書かれていた。


 花の絵は犬とは違いデッサンで芸術的に描かれている。

その為、画力の差に犬が余計に違和感を残していた。



 「初めは入口入ってそばの海賊船バイキングね」



 旭川はそう言ってマップを丁寧に折りたたむと

一人でに歩き出してしまった。



「おおい!勝手に行くな、また迷子になるぞ!」



慌てて後を追う中で思いが巡る。



『旭川に本気で彼女だと思ってデートしてほしいって言われた答え、

考えとくって言ったままだけどたけどいいのかな』



 旭川に頼まれたことを「考えておく」

と曖昧な返事をしてしまっていた為に、

今日の在り方を話しておこうかと思ったが

身長制限のマスコットキャラクターを見ながらメモを取っている旭川を見て

今日は恋人のように接する事より、


『彼女の仕事の助手として隣を歩くことが正解だな』と判断した。



「そんなところをメモするな!早く並ばないと回りきらんぞ」


「このマスコットキャラクター、ここの観覧車をモチーフにしているそうよ」


「へぇ、動物じゃないんだなてっきりライオンかなんかだと思ったけど

ってそれは後!並ぶぞ!もう人が増えてきた」



人混みの勢いも日差しも強くなってきた遊園地入口


 高層ビルと海に囲まれた園内で少女のように溌剌はつらつ

歩く彼女と肩を並べて歩く。


幼少の頃以来、大型連休が始まった気がした。





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