第15話 壊れていたモノ

 「手伝うって・・・それに同じ境遇ってどういうこと?。

追いかけてくる意味もよくわかってないけど・・・」



 六畳一間の一室で座卓を挟み向かい合う。


 「追いかけた意味はさっきも言ったけれど

私、近くにいながら何も出来なかったし、

その後向かいの席に席にいても

何も言ってあげられなかったから、

私なりに少し責任を感じているのよ」


「責任って・・・あれは俺の問題だし、

何かしようとしてくれたなら、気持ちだけで十分だよ」



 笑顔で彼女の親切に断りを入れた。


 昨晩あったばかりの人に迷惑はかけられない。


 『夜の一件は最悪だったけど彼女なりに気を使っているのか。』


 彼女との朝を迎えてからというもの、

お風呂をわざわざ自分の為に用意してくれたり、

洗濯機を回してくれていたりと、

親切に身の回りのことをしてくれていた。


 確かめるように彼女がいた台所の方を見ると、

使ってそのままにしていた食器が

綺麗に水切り台に並べられている。


確信した。

【彼女は極度の御人好おひとよし】なのだ。


 ドライヤーの音で起こさないように

俺が起きるのを待ってくれていたのもそうだ。


 何から何まで、人に気を使ってくれていたことに

今気が付いた。


 それならなおの事、

親切な女性に迷惑をかけるわけにはいかない。


 「気持ちなんていらないわ」

 「いや、言い方ッ!」



 「貴方を追いかけたときは一言だけ言って帰るつもりだったのよ。

でも結果としてこうも迷惑をかけてしまったわけだし、

私にも一宿一飯いっしゅくいっぱんの恩義ってものがあるわ。」



 彼女は真剣な顔で一歩も引かない。



 「一宿一飯の恩義ってそんな大層な・・・

そもそも飯なんて食べさせてないし」


 「食べたわ、冷蔵庫にあった唐揚げ。

ごめんなさい、昨日から何も食べてなくてつい魔が差して

・・・まぁ刺したのは爪楊枝つまようじだけど」


 申し訳なさそうにするでもなく、

凛とした顔で供述された。


 確かに彼女は昨晩の飲み会で何も口にしてない。

それは吐かれたときに否が応でも確認させられた。

すきっ腹にお酒を飲んでいたのだ。


 「いや箸でもなんでもいいよ。

ちなみにさっきの一言だけ言って帰るつもりだったって

何を言おうとしたんだ?」




 「ドンマイよ」




 部屋の空気が止まった。



 「え?それだけ?」


 「・・・それだけって何よ、

私なりの精いっぱいの気遣いなんだけど」



 少し彼女の声が小さくなった。



 「それを言いに追いかけて俺に吐いたの!?」


 「えぇ」


 さっきまでの凛とした姿はどこへやら、

肩を少しすぼめ下唇を隠しそわそわし始めた。



「そ!そんなことより!」



 急に大きな声。



 「手伝うって話だけど。もう修復できそうにないの?」


 「聞いてたんだろ・・・もう粉々、大玉砕、修復なんて無理だよ」


 「そう・・・残念ね。

でもいきなりあんな風に言われたら、

誰だって精神的に来るものもあるし、

たまたま運が悪かっただけって、

今はポジティブに考えるしかないんじゃないかしら。」



 励ましてくれてくれてるのか、

叱咤されているのか。



 「同じ境遇って言ってたもんな、旭川さんも修復しようとした過去があったの?」


 「・・・あったわ、気づいた時には手遅れだったけど」



 こんな美人を振るような男をがいるとは驚きだ。

彼女の少し悲しげな表情に視線を離せないでいた。



 「先月ね・・・大事にしていたつもりだったんだけど」


 「最近か・・・」


 「でも使い込んだものだったけど

私のはすぐ新しいのに切り替えたから

今は平気よ」



 耳を疑った。


 『使い込んだって何だ?

さっきまで悲壮感漂う感じだったけど!

切り替えるって、とっかえひっかえってこと?

男の換えはストック済みってこと?』



 「へぇ、結構大胆なんだね・・・」



 清楚系に見えて実は清楚系〇ッチなのではと思考が散漫する。



 「行動あるのみよ。

なんなら試しに今日、一緒にお店に行きましょうか?」


 「お店!?」



 急なお誘い。

頭に浮かんだのはピンクでホットな建物。



 「無理無理!

それに彼氏に申し訳ないとか思わないのか?」


 「・・・なんの話?彼氏なんていないけど」


 『セ〇レってこと!?これが女子大学生の実態ってこと!?』



 混乱に混乱が重なり、いよいよ思考がままならない。


 当然、童貞には男女の営みの場、【ラブホテル】など行ったことはない。

免疫のない情報や矢継ぎ早に飛び込んできて、

まともに彼女のことも見れなくなってしまった。



 「一晩泊めてくれたお礼もしたいし、

現物を見て相談しましょう」


『試しにって何?現物って何!?』


 目が血走り頭がパンクし、

旭川の現物に目が行ってしまう。


 黒いシャツの文字を歪めるような程よく膨らんだ胸部。

ステテコパンツから覗く滑らかな素足が、

先ほどまで平気だった目に毒と変わった。



 「そ、そもそもお店に何をもって行けばいいのか・・・」


「お金だけあればいいんじゃないかしら、私も手ぶらでいくし―――」

「手ブラはまずいだろ!!あっ!」


『彼女の下着は今洗濯機の中だ!下着がないからってそういうこと?』



「さ、そうと決まれば行きましょう」

「ほ、本当に行くのか・・・」


『ケータイショップ』

『ラブホテル』

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