第7話 兎達の行方

兎作戦オペレーションラビット


 女性陣が来る前に蒼汰から説明された作戦名である。

話は数分前にさかのぼ



 「いいか、よく聞いてくれ・・・

今回の合コンは可愛い子ばかりだという情報が私の耳に入った!

可愛い子が多いということは戦場は熾烈しれつを極める可能性が高い。

タイプの子がかぶる可能性があるからだ!」


 

男三人を座らせ机の向こうで仁王立ちに腕を組む蒼汰。


 『えらい気合入ってるな。』


 「諸君等にはここを前線拠点のキャンプ地とし、心して任務にあたってほしい!」


 「いいから早く言えー」



 河野の野次が右から左に飛んでゆく。


 こうして慰めの場を作ってくれたのはありがたいが、

もったいぶっているドヤ顔に少し腹が立つ。



 「・・・今、このテーブルに何がある?」


 「えーと。箸と、お冷と、メニューと、おしぼりでありますッ」


  軍兵のような問いに山下が素直に答えた。


 「惜しいな山下少尉!この居酒屋は昔から割り箸を使っていない。

なぜなら箸置きを昔から使っているからだ!」


 空を切り裂くように人差し指が一閃し、その閃光の先には

箸を背中に乗せ、ちょこんと座る陶器で出来た白兎がいた。


 「見たまえ、人間に理不尽に虐げられ、その背に箸という名の罰を与えられた無垢なるウサギの姿を!」


「ただの箸置きだろ、いちいち大げさだ」



この男はなんでも誇張表現する癖がある。



 「甘いぞ樺月!この箸置きウサちゃんこそが、

我らが夜戦の明星あけぼしと心得よ!」


 その後も蒼汰はスケールを大きくし長々と話していたが、内容は単純なものだ。


 居酒屋で事前に用意されている箸置き、

ここでは動物をモチーフとした古風な陶器とうきの箸置きが人数分並べられ

男性側の席に4匹、女性側の席に4匹の兎の箸置きが、うつ伏せに寝そべっている。


 基本的に、男女向かい合わせに座るのが飲み会の主流であるのを利用して

好みの子がいたら、その子の方向に兎の頭を向けるというシンプルなものである。


 そうすることで、男側は会話をせずとも意思疎通いしそつうが可能となり、

紳士的に対応しながら有意義な飲み会をすることができる。


 さらに、男同士で席を立つ事で怪しまれる≪お手洗い連れション≫


 通称【生理現象隠蔽会議トイレミーティング】の必要も無くなる。


 好みの相手が被った場合は、廊下側の人間を優先するというルールを設けることで

トラブルは極限まで回避可能となった。


 今作戦は、さながらスパイ映画のように場の雰囲気に一切干渉せず、

互いの利益のために協力できるのである。


 一通りの説明を受け、

散々もったいぶったクセになんとくだらないのだ、と思いながらも有効な手段には、

感心せずにはいられなかった。


 「説明は以上だ!今夜は個人種目じゃない、チーム戦、団体種目だ!

夜の個人戦に向けて精一杯、樺月を慰めようじゃないか!」


 「今思い出して取って付けたろ・・・」


 そして男たちは、無事団結し今に至る。




 自分の兎は廊下を向き、女性陣とは全く違う方向を見ていた。


 同時に他3人の迷えるウサギ達を素早く確認する。

既に三人は任務完了済ミッションコンプリート


 山下は目の前に座る篠原、河野は櫻井、蒼汰は柴。

うさぎたちそれぞれは、迷いもぶれもなく正面の女性を向いており、

前かがみで臨戦態勢。


 『なんだよ、あんなに大層な作戦会議までしておいて被りも無しか。

席の移動も無くていいなら変に怪しまれることもないし。とりあえず作戦大成功か』


 あまりのあっけなさに変な笑いと、謎の安堵にため息が出た。


「みんなそれぞれ決まってるんだな」


「まぁ、なんていうか今回はいい意味で消去法って感じだ」


「どういう意味?」


周囲に怪しまれないように会話に相槌を打ちながら山下と話を進めた。


「旭川さんって子すげー美人だろ?他の子たちも可愛いけど

頭一つ抜けて綺麗っていうか・・・」


「まぁ確かに」


「でも高嶺の花過ぎて俺も河野も敷居が高すぎるんだよ。

蒼汰は初めから柴さんに決めてたみたいで即断即決だったけど・・・」


蒼汰の方に目を滑らせると、滑らない話に盛り上がる饒舌な横顔が見えた。


「実際前の二人も可愛いし、だからいい意味で消去法って感じ」


「いい意味・・・ね」



言葉の意味を深く考えないようにしながら、

三人の邪魔をしないように自分の兎は正面の旭川に向けた。


 特に旭川とどうなりたいとかは、全く考えていない。

目標とする人は被らない方が、作戦上都合がいいから選んだだけだ。



 ジョッキに残ったビールを飲み干し、サポートに徹しようと心に決めた。

せっかく用意してくれた場だけど、みんなが楽しければ今日はおんの字だ。



 「ビールおかわりする?」



 すかさず篠原が気を利かせてくれる。

「ありがとう」と返事をすると、周りの空のグラスを確かめて注文してくれた。








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