8月
第21話
けっきょく、あの日以降に僕が見たものは幻だったのか、分からない。
とにかく八月は狂った季節だということは確かだ。
そして、そのなかで何をやろうとも狂気が保障してくれると思った。
だから僕は、那由多と離れることはなかった。
僕たち二人はいろんなところへ出かけた。
見たこともないような読んだこともないような本を、古本市を冷かして大量に買い込んだり、山に出かけたり。
知らない自販機を見つけるためだけに、遠くの街に繰り出したりもした。
「なんだろうな、これ、高校生、やることなのかな、ははは」
それは那由多にだけこもっていた特別な感慨で、僕たちだけの世界がある、ということを仄めかし、誇りにしている言葉だった。
だけど僕は、彼に黙って、裏切り行為を重ねていた。
◇
ひとつ言い訳をしておくと、その頃は裏切りだなんて思っちゃいなかった。
何度も言うが、相手にあこがれることは、相手になることだ。
だから僕は、僕の世界を押し広げて、そこに、(那由多以外の)他者を招き入れることを、ようやく、よしとした。
つまりは、友人だ。
僕には友人ができた。
一緒に話して、帰宅して、カラオケに行ったり、ファミレスに行ったりするような間柄のことを世間ではそう呼ぶ。
知らないうちにできていた。
僕は僕たちになり、那由多と会わない日は、彼らと会った。
別に、やましいことをしているわけではない。
彼と彼らはべつものだ。互いに干渉しあうわけでは断じてない。
……ここまで考えて、僕は少し立ち止まる。
僕は、何をおそれている。
何に対して、申し訳なく思っている……?
――那由多。
――なんだよ。
――君って、どれだけ友達いるんだっけ。
――忘れた。数えてない。
――だよな。
――なんだよ。
――なんでもないよ。
――なんだよ、気になるじゃねぇか。
――なんでもないったら。
僕の傍らで、彼が笑う。
知っているのか。
僕の「友人」のことを。
そうだ、僕は、彼に嘘をついているわけでもないのに、そうしている気にさせられている。後ろめたいきもち。
彼だって僕にかつて、同じ思いをさせていたというのに。
――世界を、二人じめに。
……君が言ったことじゃないか。
僕は裏切らないよ。ぜったいに。
セミの声が、うるさくひびく。
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