砂漠の熱は冷めやらぬ

「あー、魔力使ったら腹減ったなー」


「まず言うのがそこなの!?」


 船に乗り、脱出した私とヴァンだったが、乗り込んでホッとした瞬間に空腹を訴える彼にはちょっと呆れる。でも緊迫感は私だけのもので、ヴァンは最初から最後まで、まだ力が余ってるというように、飄々とした雰囲気だった。力の差を感じる……。


「えーと……助けに来てくれてありがとう」


 私はとりあえずお礼を言う。私の細剣を投げてくれたから、けっこう前から見ていたはずなのに、何故遅かったのかと尋ねる前にヴァンが遅くなって、悪かったなと言った。


「どうしたの?」


 ジャラッと懐から大量の金貨の袋が出てきた。こ……これは!?


「換金してた」

 

「ちょっとおおおお!?ま、まさかとは思うけど、私とサンドワームの戦いに賭けてたの!?」


「さすがに戦闘魔道士バトルメイジなら、サンドワームごときにやられないだろ?これはチャンスだと思って、賭けといた。借金の足しになるだろ?砂漠の国で商売にもならなかったし、良かっただろ?」


「良かっただろ?じゃないわよっ!どこかで、見ている気はしたのに遅いと思っていたのよっ!」


 介入してこないと思ったら、そんなことをしていたヴァンだった。いや、確かに途中で、私もちらっと賭けておけば良かったとは思いましたよ!?でもかよわい乙女のピンチにヴァンは何してるのよ!?


 思わず半眼になる私だったが、ヴァンは得意げに笑う。


「でも本当のピンチには駆けつけただろ?」


「いや、そうなんだけど!?なんか納得できないのはなぜ!?」


「気のせいだろ?あー、腹へったー。なんか食堂で食べてこようぜー。お金も手に入ったことだしな!」


 海風がザアッと船上を通り過ぎる。カモメが陸から遠ざかると減っていく。

 

 私とヴァンは食事をしようと船内に入ると、呼び止める人がいた。


「アリシアさ〜ん!荷物の確認してください」


「はぁ?」


 船員の言葉にヴァンが間の抜けた声をあげた。


「はいはーい!」


 私の荷物はかなりの大きさだった。ヴァンがまさか!?と言う。そのまさかである。


「これなんだよ!?商品なのか!?」


「そうよ。発注しておいて、商工会の船に載せといてもらえるように頼んでおいたのよ!砂漠の国の品は珍しくて売れるのよ〜」


「アリシアの商人魂がすげーよ……あの短期間でよくもここまで……」


「新商品を見たかったけど、捕まっちゃって時間がなかったのは惜しかったわ。でも、またリベンジよ!」


 ヴァンが、凄すぎると呟く。天才戦闘魔道士バトルメイジにここまで称賛(!?)される私は実はなかなかなのかもしれない!



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