サンドワームを攻略せよ

「それでは!おまたせしました。サンドワーム、解放準備!」


 どこかでガシャンと音がした。なにかが解き放たれる音。グッと足の裏に私は力を入れる。


 ザアアアッと砂の中から現れた巨大ミミズ!?口を大きく開ける。小さな刃のような歯が並んでる。


 動きが……ちょっと生理的に受け付けない感じがする。私は気持ち悪いうねうね感に半眼になった。


 突然、ドンッと体を前に倒してきた。ギャアアアと潰されそうになり、腰を抜かしている人がいる。


「やれ!やれー!」


「潰してしまえー!」


「おい!腰抜けかよ!戦えよー!」


 嘲笑混じりの野次が飛び交う。なんて悪趣味なショー!私はキッと観客を睨みつける。


 生理的に受け付けないとからと言って、サンドワームを呑気に眺めている場合ではない。倒さなくては!


「皆、壁際へ逃げて、身を伏せていて!」


 私の言葉に『何言ってるんだ?この小娘』的な空気を感じるが、なんでも良いから、すがりたい心境らしく、素直に応じてくれる。これで心置きなく………魔法を発動させられる。


 ブンッと体を真横に振る。私は姿勢を低くし、くぐり抜ける。頭上に風がビュッと通り過ぎる感覚。


 パリッと手に雷の魔法が帯びてきた。発動させようとすると、サンドワームが砂の中へ潜る。


「なんだ!?あの奴隷の娘は!?」


「何をするつもりだ!?」


 コロシアムの場内が、いつもと違う雰囲気に気づいて、ざわめきだす。


 サンドワームはどこから出てくる!?私は低い姿勢のまま、地面の音を聞く。……私の足元!?ザザザッと音がして、足元が揺らぐ、私の体がサンドワームに弾かれて、空中に飛ばされる。


 落ちてゆくと同時に私は術をすばやく切り替える。風圧を起こし、地面にふわりと着地する。二度、すばやく術を切り替える。次は雷の術が解き放たれる。


 パリパリパリ!という音と共にサンドワームの体を痺れさせ、動きを止めた。しかし、これは一時的だろう。魔力増幅の細剣がない私なんて……魔法の威力が足りない!


 それでも観客を驚かせるには十分で、何者だ!?奴隷が戦っているぞ!と騒ぐ声がする。


 私に、よそ見をする余裕はない。怒り狂ったサンドワームはゴオオオオオと息を吸い込む。マズイ!砂嵐を起こすつもりだ!あの口に……と思ったときだった。ヒュンと細剣が私の足元に落ちてきて、突き刺さる。 


 私の剣!?すごい良いタイミングなんだけど……でも考えるのは後にしなくちゃ。すぐに抜いて術を剣に込める。


 サンドワームが砂嵐を吐き出すと同時に私の剣が口の大穴の中に吸い込まれて消える。カッ!と燃えるような白い炎がサンドワームを包む。


 キエエエエエという甲高い声とともにサンドワームは地面に倒れ、動かなくなる。白い炎はその身が無くなるまで、燃え続ける。


 シーンと静まる場内。アナウンスがだいぶ立ってから流れた。


「ど、奴隷の勝利!」


 あり得ない光景に観客がザワザワとしている。……と、一番良い席で見ている御簾の中から声がした。


「なんだ?これはおもしろくない。行って、奴隷を殺せ!」


 その御簾のそばにいた3人のサソリの紋章がついた制服を着ている者達が観客席の壁をやすやすとのりこえて、ストッとコロシアムの中へ降り立った。


 まさかこの三人は?戦闘魔道士バトルメイジ?身のこなしが軽やかなだけでなく、決定的な物があった。半袖の制服から出ている腕には蛇が巻き付く焼き印があったのだった。

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