売られたアリシア
ここは嫌なことを思い出させる。目覚めた私はゆっくりと現実を把握する。石の造りの収容所のような場所で、少しかび臭い。様々な人がいたが、どの人も若く、その中には子どももいる。
子どもは互いに体を寄せ合い、若い人たちは壁にくっついて震えている。戦闘魔道士の施設を思い出した私は冷や汗が出てきた。まず、どういう場所か把握したい。
ふと気づくと、私の足は裸足になっていて、もちろん荷物は見当たら無い。頭が痛くて触ってみるとコブができていた。
これは悔しすぎる。この借りは返したい!コブに触れて、そっと治癒魔法をかけてゆくと、痛みが薄れていった。上から物でも落とされたのだろう。
「あの……ここってどういう所なんですか?」
小声で傍にいた女性に尋ねると、ビクッと身を震わせる。なぜ私のことを怖がっているのだろう?そういえば……さっきから他の人とも目が合わないし、私の周りには誰もいなくて避けられている気がした。
「奴隷の収容所よ!あなた、なんなの?何者なのよ!?あなたを連れてきた人たちは……皇帝陛下に仕えてる証のサソリの紋章をつけてたわよ!」
皇帝陛下に仕える紋章!?そういえば……意識を失う前に言っていた。捕まったのは私だけど、狙いはヴァンのようだった。
ヴァンを釣るための餌。私は餌……。
餌になってたまるかーーっ!
ここから脱出しよう!そうしよう!私は立ち上がる。周囲の目が私に向かう。
そこで、ハッと気づく。ここの人達はどうしたらいいの!?見捨てていくにも寝覚めが悪い。
「おい!時間だぞ!」
悩んでいると、部屋に響き渡る声。すすり泣く声がいっそう大きくなる。時間……って?
「いやああああ!助けてー!」
「餌になりたくない!」
どういうこと!?えっ!?リアル餌なの!?
キョロキョロとする私にさっきの女性が涙声で言う。
「知らないの!?ここの皇帝は奴隷を集めてコロシアムで楽しむのよ!」
「そこ!喋ってないでさっさと出ろ!」
部屋に居た人達をすべて光の射す方へ連れ出していく。出た瞬間、周りにワアアアアと歓声を上げる人々がいた。暗闇から突然出た眩しさに目が慣れず、パチパチと瞬きし、周囲を見回す。
劇場のような造りで、ぐるりと石壁に囲まれていて、高い所に観客席があり、見下されている。足元は熱い砂が敷かれている。裸足の足に熱が伝わる。
私はどういう趣向なのか、少しずつ気づいてきた。震えて、私を含めた奴隷たちが壁際に身を寄せ合う。
「本日も開催!皆々様、どうぞご覧あれ!勝つのは人なのかサンドワームなのか!?あなたの懐の賭け金はまだ眠ってませんか?賭けるなら今が最終でーす!」
賭けられてる……これ、もしかして勝てば大穴で大金持ち?私の商人魂が、賭けておけばよかったと……いや、落ち着いて!そうじゃない。そんな場合じゃない!
餌になりかけてるのは私じゃないの!ヴァンを釣るための餌じゃなくて、リアルに餌にされるわけ!?
相手はサンドワーム。私の知識を寄せ集める。砂の中に生息し、口から砂嵐を巻き起こす。その口の牙には毒性がある。こんな感じ……だったかな。
「怖いよ!助けてー!」
子供たちが叫ぶ。丸腰の私達が勝てるわけない。皆、粗末な服で、裸足にさせられている。サンドワームが勝つことが前提だ。ただ、残酷なシーンが見たいだけのショー。
助けてほしい。私も何度も戦闘魔道士の訓練施設で思ったことだった。
私にはヴァンが居てくれたおかげで、ずいぶん救われていた。ここは私がみんなを助ける!やってやろうじゃないの!
三流戦闘魔道士の力でも……たぶん大丈夫だよね?
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