砂漠の中のオアシスの街

 冷たい石の床に寝転がっていた。あれ?なんでここにいるんだっけ?私は重い瞼を開けれず、記憶を辿ってみる。


 ザクッと黄金色の砂を踏みしめた。砂漠の地へとやってきている。私は初めての地だった。


「オレはこの国に来たことがある」


「ほんと?何しに来てたの?どんな国なの?」


 私の質問攻めにヴァンは苦笑しつつ、答えてくれる。


戦闘魔道士バトルメイジとしてきていた。仕事内容は言いたくない……ってところで、綺麗な仕事では無いと察してくれ。この国は砂漠のオアシスに都がある。奴隷の売買が盛んだ。奴隷商に気をつけろよ?まあ、戦闘魔道士バトルメイジが捕まることなんてめったにないけどな」


 綺麗な仕事では無いと言うことは、これ以上聞かない方がいいだろう。以前、雷に撃たれた王がいたことを思い出す。ヴァンは自分がしたのかしていないのかは口にしない。それを私に聞いてほしくはないことは雰囲気でわかる。


 砂漠の国の気温はどんどん上がってくる。オアシスの中にある都は美しかった。湖面に映し出される砂漠の中の緑、ラクダがポクポク街の中を歩く。

 

 露天商の並ぶ街の中で、私はワクワクしながら、物を見ていた。


 首につける大振りのネックレス、細かい刺繍がある絨毯、暑さよけの麦わら帽子や麻の帽子のデザインも豊富。暑いからサンダルにしようかな?色は………と、ヴァンの視線を背後から感じる。


「ごめんなさい、つい夢中になっちゃったわ。ヴァン、つまらないでしょう?別行動しましょう」


「いや、別にオレはそんな見たいものがあるわけじゃないが?」


「じゃあ、美味しいものでも食べてきたら?私、この辺をウロウロして買い物しているわ」


 人の買い物を見ても退屈だろうなと思うので、すすめると、美味しいものか……と呟いて、興味が沸いたようだった。


「ちょっと見てくるか……」


 そう言って、人混みに消えてゆく。私は心ゆくまでゆっくり買い物をすることにした。


 この時、私もヴァンも油断していた。ダリルがせっかく忠告してくれていたのに……。


 嫌な気配に気づいたのはしばらくしてからだった。狙いは私?絡みつくような視線。私はわざとゆっくり歩いたり、露天商の物を興味があるふりをしてのぞいたりする。


 やはりついてくる気配。私に地の利はない点で逃げることは不利である。だけど、人目のつくところで騒ぎは起こしたくない。私はクルッと体の向きを唐突に横にし、ダッシュした。


 細い路地をいくつか抜ける。薄暗い家々の少し開けた場所で、私は樽の後ろに体を潜めた。腰の細剣に手をかける。


 誰もこないようだ……撒いたかな?なんだったのかしら。私になにか用があるとしても、尾行されるのは良い気分がしない。


 パタパタと私はズボンの砂を払って立ち上がる。その瞬間、上から降ってきた。黒い塊が。え?と見上げるよりはやく、私は倒れた。


「ヴァレリウスをこれでおびき寄せれるだろう」


「おもしろいショーを見れそうだな」


 ……しまったっ!一人じゃなかったのね。私はヴァンの足枷になるわけにはいかないのよっ!と体を必死に起こそうとするが、頭が揺れるようで、立ち上がれず、そのまま意識は途絶えたのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る