悪夢は終わらず
「ヴァレリウス!おまえの死に場所はここだ!」
「この心のない
……これは!?待って!?終わったんじゃないの?ヴァンは自由になったじゃない!もう大丈夫だと思っていた。
群衆が石を投げたり罵倒したりする。ヴァレリウスは繋がれたまま無言で項垂れていた。血が滲んでいる。
夢。これは夢!目を覚ましたい。見たくない!
やはり同じ。処刑台に登らされる。だめ!やめて!私が叫ぶが誰もこちらを見ない。
パチッと爆ぜる焚き火の炎の音でハッと目が覚めると、目の前に私を覗き込んでいる黒い目があった。
私はびっしょり汗をかいて、息を切らせていた。
「おい!?大丈夫か?悪い夢でも見てたのか?……呼んでも起きないし、大丈夫なのかよ?」
「ヴァ………ンっ………うっ……え……」
私は思わず、泣き出してしまう。ヴァンが無言のまま、自分に抱き寄せる。ヴァンの胸の中でしばらく泣いていた。生きているヴァンが目の前にいたことで、泣いてしまった不甲斐ない私だと思う。でも温かくて生きてるヴァンに心底ホッとする。ぎゅっとヴァンの服を掴み………。
パチンとまた焚き火の火が爆ぜる音がした。その瞬間、ハッ!と我にかえる!
わわわわわわたしーーー!?何してるのーーーーっ!?
「ご、ごごごめんね!」
ヴァンから、サッと離れる。私は顔が赤くなるが、きっと焚き火の赤色の明かりが誤魔化してくれるはずだ!
優しいヴァンに動揺する。こっちのほうが夢なんじゃないのー!?さっきの悪夢の後味の悪さが吹っ飛ぶくらいの出来事だった。
「なんの夢だ?大丈夫なのか?」
黒髪をかきあげて、眉をひそめる。
「まさか、
パタパタと私は熱くなった顔を鎮めている。
「聞いてますっ!いきなり抱きしめるからびっくりしたのよ!なんでヴァンは平然としてるのよ!?」
「いや……泣いてるし、どうやって泣き止ませたらいいかわからねーし……」
……戸惑っていたらしい。
「なんの夢だったんだ?」
「あの……えっと……」
言いかけて私は言葉が止まった。
今なら言っても信じてくれる?私の未来を視る力について……どう思う?虚言癖だと思う?人の気を引きたいだけだろうとか嘘つきだとか言われたことを私は思い出す。いつしか、この未来の夢は他人には言わなくなった。商売の役には立つ能力ではある。でもヴァンはこんな私のことをどう思うだろうか?
グッと拳を握る。……やめよう。この夢は私だけ知っていれば良い。ヴァンを私が守れば良いだけなんだから。何があっても守ればいいのだから。
せっかくこうやって、一緒に旅して来れたのに、ここで拒絶されたり、嘘つきだと軽蔑されたら辛い。そっちのほうが怖い。ましてや自分が死ぬかもしれない未来を聞かされるなんて……絶対に理解されない。それに未来を視る力を信じてほしいとか無理よ。
「おい?顔色悪いぞ?」
「ごめんなさい。なんでもないわ……うん、そう。昔の夢……時々見るの」
やっぱりなとヴァンが嘆息した。カバンから水を出して持ってきてくれる。
「ほら、水飲んでから寝ろ」
「ありがとう……ヴァン……」
私に関する記憶が無くても、こういう優しいところは昔から変わらないんだわと思って、私は微笑む。
まだヴァンに降りかかる災厄は振り払えてなかったようだ。そうだわと思い出した。ダリルが言っていた。ヴァレリウスを欲しい国や組織は山程あると。またどこかに所属するのかしら?どうしたら救えるの?ヴァンは今のところは
頭の中で色んなことが思い浮かんでは消える。答えをくれる人はいない。カタカタとコップを持つ手が震えている。ヴァンがストンと私の横に座った。
「な、なに!?」
「しばらく落ち着くまで、横に居てやるよ」
その言葉に新たな涙が出そうになった。辛うじて水を飲んで、気持ちを切り替え、我慢した。
終わらない悪夢はいつ断ち切れるのだろう?
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