ヴァンの自称ライバルさん

 グランドシープの毛や角の薬を手にした私とヴァンの活躍は噂になった。地元商工会に顔を出して、私が細かい手続きをしていると、外から騒ぐ声がした。


「今まで、こっちの仕事を邪魔して邪魔して邪魔しまくったくせに!おまえは何、平和に女とイチャコラしながら旅をしてんだよおおお」


「イチャコラはしてねーよ。なんだよ。追ってきたのか?」


「偶然だ。たまたま出会った」


「んなわけねーだろ?やるか?」


 だんだん殺気立っていくヴァンの気配を感じて、私は慌てて外に飛び出して止めようとする。短髪の赤毛にガラの悪そうな人相の男がジロッと私を見た。ヴァンが敵だと短い言葉で言う。敵じゃない!と相手は言っているが……。


「街中で戦うのは止めてよね。戦闘魔道士バトルメイジ同士が戦うとなると、被害甚大になるわ」

 

「ふーん、こいつかー。ヴァレリウスを堕落させたお嬢さんは!」


「堕落?どういうことなの?そして誰?」


「オレもさっきから、こいつの言ってることが、よくわからない。ダリルというやつで、他国の戦闘魔道士バトルメイジだ」


 ダリルと呼ばれた戦闘魔道士バトルメイジはヴァレリウス、冗談通じないなと首をすくめた。


「ま、隠しても仕方ないことだから、はっきり言う。俺の主人が、ヴァレリウスが自由になったようだから、様子を見てこいと言うんだ……おまえ、他の国や組織から目をつけられているぞ。おまえの力を欲しい奴らは山といるようだ。身辺に気をつけろよ」


「わざわざ忠告するために姿を現してくれたのか?」


「コソコソ影から見るのは性に合わないし、別に主人からは話しかけてはいけないと命令されてないからな!」

  

 あれ?良い人っぽい?ヴァンのことを心配しているような?


「そうか。じゃーな!」

 

 あっさり挨拶して、さっさと去ろうとするヴァン。慌てるダリル。


「おいっ!まてまて!それだけか!?こっちは良きライバルにわざわざ忠告してやってるっていうのに!?」


「誰と誰がライバルなんだよ?さっさと自分の居るべきところへ帰れ」


 冷たくそうあしらわれて、寂しそうなダリル。


「チッ……ヴァレリウスの能力は一人でいるからこそ冴え渡る。つまらん女に捕まるなよ!次会ったらまさか結婚しているとか家庭を持ってて、ほのぼのしてるのか、やめてくれよっ!」

  

 そう言い捨てていく。私とヴァンの関係を完璧に誤解しているダリルだった。


「あいつ、大丈夫か?」


 ヴァンは去っていった方向を見て、そう言ったのだった。でもヴァンを心配してくれていたのは間違いないだろう。また会いそうな人ねと私もその背中を見送った。

 


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