挨拶に来いと言うけれど
絹張りのソファに天井から重そうにぶら下がるシャンデリア。美術品並の価値ある高価な絵画が壁に並ぶ。いつきても壮観な王宮である。
ヴァンと私は静かに座っている。メイドが運んできてくれたお茶をたまに飲む。
「アリシア!わざわざ会いに来てくれるなんて心の底から嬉しいです!」
扉が開いたと思ったら、にこやかに現れたのはケイト殿下。私は立ち上がり、一礼する。
「お久しぶりです。先日はお願いを聞いてくださり感謝します。……会いに来いと言ったのは殿下でしょう?」
オカッパ頭で中性的な美しい彼はフフッと笑う。
「そうでも言わないとアリシアは来てくれないでしょう?……で、借金した理由の彼がヴァレリウス君ですか。あの天才
じっとヴァンを見る殿下。
「……なんだよ?」
ヴァンのムッととした言葉をプイッと無視して、私に向き合うと、手をとる。ふわりととした柔らかな笑顔を見せる。
「アリシア、ロキにも伝えましたけど、僕の后になってくれたら、借金は帳消しにしてあげますよ?簡単で良いでしょう?」
「また、その話ですか!?ふざけすぎです。ちゃんと返します!それにもう何人も后候補がいるって聞きましたけど!?」
「アリシアは特別大事にしますよ?贅沢も約束しますし……どうです?」
ハイハイ……皆にそのセリフ言ってるんでしょと私は半眼になった。
「ケイト殿下、面白がるのはやめてください。美しくて優雅な淑女のお嬢様や姫君の中に、私のような者を混ぜてみて楽しみたいだけでしょう!?もうその考えが見えてますよ!」
白鳥の中に猿を放り込むようなもんでしょ!?自分でイメージして、ちょっとせつなくなる。
面白いこと、楽しいことで暇つぶしをしたいというケイト殿下の昔からの悪い癖である。しかし、今回の殿下は私が断ってもしつこかった。
ズイッと前出てきて、顔を近づける。……まつげが長く、私より綺麗な肌だと思って見てしまった。
「……おい。近づきすぎだ。いつまで手を握ってんだよ」
ヴァンが低い声を出し、パシッとケイト殿下の手を払いのけて、私の身体をヒョイッと後ろへ退かせる。
ケイト殿下はおやおやと言って、余裕である。
「怖い護衛を買ったものですねぇ」
「えーと……買ってません。ヴァンがやりたいことみつかるまで、私に着いてきてくれてるんです。借金は地道に返しますから、しばらく待ってください」
「へぇ。期間限定の護衛なんですね。……よかった!アリシア、忘れないでください。僕はアリシアのことが本気で好きです。旅が嫌になったらいつでも待ってます!借金はいつでもいいですよ。返せない時は……約束をしましたよね?君自身を貰うまでですからね?」
「それだけは無いように頑張るわ」
ヴァンはギロッと睨みつけている。その表情を楽しむようにケイト殿下は見てから、ヴァンに向かって微笑む。その笑みはどこか挑発的ですらある。
「そろそろ殿下もお忙しいでしょうから、お暇させてもらいます」
私は、殿下の暇つぶしに付き合うのも飽きてきてので、失礼しますと丁寧に挨拶する。
「えー、寂しいですね。でもまた会うことになります。愛しいアリシア」
軽く私は聞き流して営業スマイルをして終わらせる。
城から出ると、ヴァンがいきなり、ガスッと木をニ、三回蹴飛ばした。
「なにしてんの!?」
「いや、なんか……ムカついた」
………何に?私は首を傾げる。
「そんな変なことしてないで、仕事よ!行きましょう!ヴァンとなら……大物狙いに行けるかもね」
「よしっ!さっさと借金を返すぞ!」
「え?なに?やけに気合いはいってるわね」
別に良いだろっ!と何故かムキになって怒る。さっきから変なヴァンだわ……と私はその理由が、まったくわからないのだった。
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