自由に生きていくということは!?
「ちょっと待てええええーーーっ!」
しばらくして、我に返ったらしくヴァンがすごい勢いで走ってきた。私は涙を慌てて拭いて振り返った。
ちょっ、ちょっと!?感動の別れのシーンがだいなしじゃない!?
「オレを買ったんだ!ちゃんと面倒みろよ!?」
「面倒見ろ!?ってなんなの!?自由になればいいじゃない!?好きなことして生きなさいよっ!」
「好きなことってなんだよ!?オレの好きなことなんて何一つ思い浮かばない!」
今まで自由に未来を思い描くことのなかったヴァンはいきなり訪れた自由にとまどっている?……ようだ。
「なんでもいいからしてみたら?パン屋でも農場でも……好きなことを探してしてみたら?」
「誰に言ってるんだよ!?天才
「は!?私に着いてくるのーーっ!?愛する彼女を置いて行けないでしょ!?ジュリアさん、どうするの!?」
「なんのことだよ!?あれは同僚だ。いつからそんな愛するなんちゃらになったんだよ!?」
私とヴァンはしばらく無言で見つめ合う。路上に行き交う人達がチラチラこちらを見ている。
「やーねー、痴話喧嘩?」
「浮気男なのかしら?」
ヒソヒソと街の人の声が聞こえる。私の顔が赤くなった。
「場所が悪いわ……とりあえず、この場所から動きましょう」
「ああ……そのようだな……」
私とヴァンは並んで歩き出した。
「そういえば、陛下の心をどうやって掴んだんだよ?いきなり恩赦だ!と叫んで牢屋にいたやつらを解放してたぞ」
「思い出のオルゴールを差し上げたのよ。あれは陛下が人質時代に他国に持っていき、大切にしていたのに性格悪いやつに壊されて奪われて売られてしまったっていう悲しい物よ」
「そんなオルゴール1つで、あの王が?」
「元々、陛下は第二王子でしょう?体の弱い兄が亡くなり、帰ってくることになった。それまでは辛い思いをされてたみたいよ。自分は必要のない子だと……でもオルゴールにはお母様の愛と共に陛下の名前が刻んであった。それを見たのよ……今になってね」
なるほどなぁとヴァンは言う。
「きっかけがいつ訪れるかなんてわからないな。オレもまさか自分が生きてる間に自由になるなんて思わなかったよ……ありがとうと礼を言うべきだろうと思うが、なぜここまでしてくれるんだよ?」
「……ほんとに覚えてないの?
あそこでか……と呟き、ヴァンは静かになる。眉をひそめている。
「記憶にないんだ。嘘は言っていない。辛い訓練しか思い出せないんだが?関わった子どもはいたが、アリシアという子は………」
たくさんいたから?いや……その数多くの子どもたちがいた中でも私とヴァンは親密であった。どうも私のことを知らないふりをしていたわけではなく、本当に記憶を失っている?私のことだけ抜けてるの?なぜなの?確かに私は覚えてる。私はその謎を今は知る由もなかったし、追求する気になれなかったのだ。
だって………。
自由になったヴァンとこうやって隣り合って、ただ歩く。今、この瞬間、そんなささいなことが嬉しくてたまらなかったのだ。
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