望まれる物、売りたい物
「先日は良いプレゼントを持ってきてくれたこと、感謝します」
王妃様、直々のお褒めの言葉に、私はありがとうございますと笑う。
「故郷の海を見たくなりました。あれから毎日、泳ぐ魚たちに心を穏やかにさせられてますよ。本日はどんな品を持ってきてくれたのか楽しみでした。見せてくれますか?」
「はい。では………」
私はテキパキと商品を並べ出す。誕生日プレゼントで王妃様の心を掴んだらしく、呼び出された。
「この青い鱗は?」
「シードラゴンの青銀色の鱗でこざいます。アクセサリーを作ることもできますよ」
「それは素敵ですね。宝石はたくさん持っていますから、たまには違うものにします。これをアクセサリーに加工してくれますか?」
「かしこまりました」
王妃様が私の傍に来て、誰にも聞こえない様にささやく。
「戦を回避できたこと……あなたのおかげです。陛下に話す勇気が持てました」
「もったいないお言葉です。私はただ、陛下にプレゼントを頼まれただけなのです」
それでもありがとうと言ってから王妃様は離れる。他の人達の目がある。メイド達と言えど……あまり不審にならないようにしなくてはならない。
「また心を掴む物をご用意できればと思います」
私はそう言って、退室した。広い廊下を歩いていると、陛下がお付きの人達を従えて前からやってきた。私は慌ててサッと廊下の端へより、頭を下げ、通り過ぎるのを待った。
ピタッと足が止まった。
「そこの商人。戦に使用できる良い武器などないか?」
私……よね?私は顔をあげた。ラジャスター王の目と合う。その後ろに控えるようにいる従者達の中にはヴァンもいた。黒い目が私を捉えていた。
「申し訳ありません。私は武器を取り扱っていません」
「あのように探してくることは可能であろう。驚くような物を用意できると言う話を聞いた」
「私は人を幸せにできる物しか売りたくは無いのです」
王の頬がぴくりと動いた。
「ラジャスター王国の繁栄は民の幸せだ!戦に反対するのか?」
「私には政治のことはわかりませんので、反対するという意味ではありません。ただ、私は私の売りたい物を売りたいだけです」
「まだ若いな。そのような理想を掲げて商人として生きるのは損をするぞ」
そう言い捨てるように言って、足早に去っていく。チラリとヴァンの視線を感じた気がしたけれど、気のせいだったかもしれない。
「ラジャスター王国から手を引く頃合いなんじゃないのぉ?」
私の話を聞いて、マシュマロを食べていたロキが宿屋でそう言う。
「確かに、私に合わない国みたいよね……」
「いつものアリシアなら、もう出国するでしょー?なんでしないのさー!?」
コポコポとポットからお湯を注ぐ。湯気の出ている温かいコーヒーに口をつける。
「そうね……そうなんだけどね……」
私はぼんやり外を眺める。ヴァンの黒い夜のような色の目が頭から離れない。
「どうしちゃったのさ!?」
そう尋ねるロキに私は一度、エステラ王国へ帰ることを告げた。ロキにはロキの役割を与える。……もちろん、ちゃっかり者の使い魔は見返りに甘い物を要求するのだった!
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