ゆっくりヒラヒラと泳ぐ
誕生日のプレゼントを用意し、王宮に入った。赤い布をかぶせて、少々もったいぶって陛下の前へ差し出す。
「きっと気にいってくださるのでは?と思います」
ほぉ?と面白げに呟く陛下は王妃様を手招きした。
「王妃、こっちへ来てみろ」
離れて座っていた王妃様はゆっくり優雅に立ち上がった。
「見てみよ。そなたの誕生日プレゼントを商人が選んできた」
「……はい」
静かに布を引く。驚いたようにその場に立ち尽くす王妃様。
ゆったりと水の中を泳ぐ色とりどりのカラフルな魚たち。水槽の中で岩に隠れたり、チョンと泡をつついたり可愛らしいものであった。
「……海」
そう王妃様が声を絞り出した。声も体も震えていた。
「これはなんだ?」
「観賞魚達でございます。最近、飼う事が王族や貴族の間で流行っております」
面白いなと王が言う。王妃様は……泣き出した。
「なんだ?気に入らなかったか?」
「いいえ!……嬉しいのです。嬉しいと言うよりも懐かしく感じるのです。我が故郷を思い出します。陛下にもう一つ誕生日のプレゼントを頂きたいのです」
「おまえがそんなことを言い出すのは珍しいな。なんだ?申してみよ」
王妃様はすっと跪いた。陛下は臣下がとるようなその動作に目を見開く。
「わたくしの故郷である国には手を出さないで頂きたいのです。お願い致します」
「……そのようなことに口を出すものではない」
戦好きの王は不快な顔をした。王妃様が必死なのが私には私にはわかった。王妃様はこの国の王の心を揺らした。
「わたくしの国がいったいなにをしたのでしょう?美しい海の国である国を戦にしないでほしいのです!わたくしは陛下のことを愛しております。だけど……故郷を戦火にするおつもりならば愛することは難しいですわ」
「そこまで感情的になるおまえを初めてみた気がする……とりあえず考えてみよう。そなたの兄と話し合う必要はあるがな」
「どうぞ、寛大な心でお願い致します……お願い致します……」
王妃様は大きな水槽に指を触れる。故郷の海は遠い。
「そこの商人、代金は払う。さっさと下がれ。今の会話は……わかっておるな?」
「承知しております。どこにも漏らしませんし、話しません」
「心得ておるではないか。王宮付きの商人として、これからも使ってやろう」
ありがとうございますと私はお辞儀して、その場を離れた。気づけば手に汗が滲んでいた。際どいやり取りを聞いていたせいだ。
魚たちはゆったりとした動きで泳ぎ続ける。騒がしい人の世なんて知らないとばかりに……。
これで、ヴァンが戦に行くことを阻止できただろうか?いや、まだ……この王はそんな甘くはない。そして私は危険な王に近づきすぎている。商人としての勘がラジャスター王国から離れた方が良いと言っている。嫌な胸騒ぎがするのだった。
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