シードラゴンの捕獲

 漁師さんの船に乗り、トントントントンというエンジンの単調な音を聞きつつ、海の上にいた。さわやかな海風が吹く。


 海に用があってきたのだけど、ついでに……とシードラゴンの捕獲の手伝いをすることになった。いや、ついでというより、これが手に入れば、かなりの目玉商品となる。


 肉は魚の身に近くあっさりとした味わいだが、脂ものっていて美味しく、どこの料理店も欲しい食材。家庭で食べるとなるとご馳走であふ!美しい青銀色の鱗はアクセサリー、防具に使える。


「いやぁ、一緒に来てくれるなんて助かる!シードラゴンが周辺の魚を餌にして食っちまってるわ、近寄れないわで最近、漁ができなくてね」


「討伐の陳情も出していたんだが、なかなか来てくれなくてねー!」


 シードラゴンに頭を悩ませていた地元漁師さん達。恩を売るのは悪くない!そしてシードラゴンの素材をもらうのよ!ウフフフと私は黒い笑いを心の中でした。


「この地点だな!網を落とせー!」


「囲むぞ!」


 何隻もの船が網を落とし、囲む。ジワジワとした時間が過ぎる。


「アリシアさん、そろそろやつは昼寝から目を覚まし、活動する時間になりますぜ」


 わかったわと、私も魔法剣である細剣を抜いた。


 水面に大きな黒い影が映る。来た!!


 ザバアアアと水が押し上げられて出てきたのは目は魚のようにギョロリとし、長い蛇のような体、青銀の輝く鱗を持つシードラゴンだった!


「放て!」


 船についている槍が飛び、突き刺さったり、縄が身体に巻き付いたりし、固定する。さすが海のプロ!その仕留める技が素晴らしかった。操舵も絶妙!


 しかしシードラゴンのパワーはすごい。キュエエという咆哮と共に首を振ると、縄を巻いていた船が海面から少し浮き上がり、落ちる。衝撃にうわー!と叫ぶ漁師さん達。


「急所はあの白いヒレの下……」


 私は術の精度を魔法剣で上げる。ヴァンや他の戦闘魔道士なら、こんなことしなくても一撃で仕留めるだろう。どうしても詠唱時間が長くなる。


 しかし漁師さん達が、時間を稼いでくれた!いける!生み出される光の矢が海の上を走り、シードラゴンのヒレの下に命中した。


「よっし!!」


 私はガッツポーズが思わずでた!シードラゴンが首を傾げてザバーンと海に叩きつけられるように倒れた。


「おおーっ!」


 周りの漁師さん達から歓声があがった。どんなもんよ!と私は調子にのって、胸を張ろうとした時だった。倒れたと、思ったが、シードラゴンは一撃では仕留められてなかった!


 キュエエエ!!と咆哮をあげ、傷をつけられた怒りから頭を振り回す。翻弄される船。私の乗っている船も例外ではなく、揺れまくる。


「まだだったーー!!」


 悔しいが、術の力がいまいちだった!これだから……私は三流なのだ!あと少しもう少し魔力があれば、即死にできただろうが。


 素早く二度目の術を紡ぐ。揺られながらも細剣を向けようとした瞬間にシードラゴンがブンッと首を振り、荒れ狂う波の振動で、私は詠唱中で体を固定してなかったため、船から振り落とされる。


「アリシアさーーーーん!」


 叫ぶ漁師さん達の声。救助用の浮き輪がバババッと船という船から投げられた!なんのおおおお!と私は落ちる瞬間、力を振り絞って剣を投げつけた。体に刺さりその箇所にピンポイントで雷撃がバリバリと落ちた。


 さすがにシードラゴンは静かになった。周りから拍手が沸き起こる。


 ……が、私は情けない感じで、海に投げ出された浮き輪に捕まっていた。


「いやー、根性みせてもらったぜ!」


「さすが、アリシア=ルイス!最後まで食らいつくガッツ!海の男に負けねーな!」


 海の男だぜ!という男らしい評価を頂いて嬉しいような微妙なような気がするが、とりあえず、もう少しカッコよくスマートに倒したかったとがっくりしつつ、陸に上がって、服の水を絞ったのだった……。


「なっ!?なんであなたがここにいるの!?」


 聞き覚えのある声に振り返ると、ジュリアがいた。なぜか目が三角に釣り上がっていて、怒ってるようだった。


「まさか……このシードラゴンを倒したのって!?」


 私ですと言って、シードラゴンに刺さってる剣を抜いて鞘に納める。


「わざわざ討伐を命じられて来たって言うのに、信じられないっ!……っていうか、どうやって倒したのよ!?ちょっとぉ。聞いてんの!?どこいくのよー!?」


 びしょ濡れで、魔法を使って空腹の私はそれどころではない。早くシャワーを浴びて、温かくて美味しいご飯を食べたい。


 待ちなさいよー!と叫ぶジュリアを置いて、さっさと退散したのだった。

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