海の思い出は美しく悲しいもの
懐かしい。そう。海辺を走った。若い時、好きな人と一緒にこっそりと笑い合って走ったことがあった。淑女の姿をその日、その瞬間は忘れて。
「あの頃に戻りたいと時々思いますが、思い出は思い出のままだからこそ美しいものなのです」
そう窓辺に座り、豪華なドレスを身にまとい、歳をとった女性がそう言った。それは寂しさと孤独が入り混じっていた。
「お母様、そんな情熱的なことがおありでしたの?」
「王女よ。もうすぐ嫁いでゆくから言っておきます。人はそんな思い出1つで死ぬまで幸せに生きてゆけるのですよ。あの日の海の思い出をこうして思い出すと今でも幸せな気持ちになるのです。どんな辛いことがあっても……」
お母様……と王女と呼ばれた彼女はせつない声で呟いた。
そこで夢は途絶えた。いつもの少しモヤがかかった夢。
「イタタタ……」
頭痛がする。額を抑えつつ、ゆっくり起き上がる。今の夢は未来を垣間視た……顔や姿はモヤがかかっていてわかりにくいが、たぶん……。
「ニャハハ!!ただいまー!」
ロキの笑い声が頭に響く。窓をバーンと朝っぱらから遠慮なくこじ開けてにぎやかに入ってきた。
「……おかえりなさい。もう少し静かでもいいのよ?」
「朝ご飯を食べたかったんだよーぅ!」
それで、朝ご飯時に間に合うように来たのね。
「王宮のことは少し探れたの?」
「少しだけね。このラジャスター王国の王宮には
「そっかぁ。お疲れ様。さすがねぇ」
考え事しながら適当に相槌を打つとロキが怒っている。
「なんだよー!そのアッサリとした返しは!……もうっ!いいけどさぁ……王様はずいぶん好戦的なお方のようだね。領土拡大を虎視眈々と狙ってるみたーい。趣味みたいなもんだねっ!隣国達を刺激し、なにかと理由をつけて戦に持ち込みたがってる」
ロキがそれでね……と続ける。
「王妃の故郷である国すらも攻めようとしているみたいなんだ。暴君スレスレだよね。こわいねー」
「スレスレどころか、アウトでしょ!?」
何なのかしら!?王妃様の大事な故郷まで攻めたいって?誕生日プレゼントを用意してくれと言った陛下はどんなつもりで?愛しているのよね?
「アリシアー……怒った顔をしてるけど、今、ここで怒ったりイライラしたりしても、非生産的だよぅ。お腹すいたから朝ご飯にしようよー」
わかったわよとロキを連れて宿屋の一階へ降りていく。すでに何組か朝食をとっている人達がいる。
トーストとサラダ、カリカリベーコン付きの目玉焼き、スープ、コーヒーのモーニングセットを私は頼む。ロキはチョコケーキとフルーツパフェと生クリームたっぷりのパンケーキとドーナツを……って胸焼けするわっ!相変わらず朝食ではない甘々の甘党のチョイス。
「朝から、大量の甘い物……よく入るわね」
「なに言ってんのー?甘いものは1日の活力だよっ!」
ハイハイと私は笑った。
垣間視た未来とロキの話は繋がった。王妃様の望む誕生日プレゼント、なにがいいかしらと考えつつ目玉焼きの黄身をフォークで潰したのだった。
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