やりすぎた彼女は呼び出しをくらう
ラジャスター国王が会いたいと言う……しまった……やりすぎたあああああ!!いやいや、商人は目立ってナンボよ!?
前回、ラジャスター王国の思惑を打ち砕くような形でザルア皇国の弔問をこなしてしまった私は殿下にも説教かましたし……あれ?もしかしてやばい?これ逃げるとこ?
ある程度の身の危険は振り払える。三流落ちこぼれ戦闘魔道士だけど、訓練を受けていない他の人よりはさすがに強いと思うの。でも相手がヴァンだったら……無理ゲー。
私が勝手な仮定を脳内でしていると、陛下が来た。目は王子によく似た琥珀色。髪はグレイアッシュの中肉中背の……わりと平凡な出で立ち。スッと私は頭を下げ、お辞儀する。
「ラジャスター国王だ。ほぉ……おまえがアリシア=ルイス。第一王子の愚行を止めてくれて感謝する」
自分がわざと王子を選んだことはおくびにも出さない。なかなかの陛下かもしれない……ここは私も気づいてないふりをしよう。
「いいえ、命に背いたことにならないかと、申し訳なく思います」
「申し訳ないなどど思ってもいないことを口にするな。顔を上げろ」
バレてるーーーっ!私は営業スマイルを浮かべて顔をあげた。逃げるタイミングをはかっておいたほうがいい?
「面白い商人だな。若くしてS級バイヤーだけある。大国エステラ王国の王子とも親しいとか?」
全部報告しているようね……。
「私の出身国がエステラ王国なのです。六カ国に出入りを許されている中では一番気安い国ではありますね」
「大国エステラを気安いと言えるのはなかなかのことだ」
いや、あのケイト殿下の距離がオカシイだけだと思うんだけどね。
「確認しておく。エステラ王国のスパイではあるまいな?」
え!?疑われてる?って……そっちーー!?ケイト殿下のせいだとイラッとしたが、そんな場合ではない。
「もちろんです。バイヤーにそのような噂が立てば、商売の信用にも繋がりますし……私にスパイなんて大層なことできません」
「それならばいい」
いいと言いながら……私にこれは釘を差している。スパイ活動のような行動が見られたら、容赦しないと。顔色1つ変えずに物事を勧めていく王は言った。
「欲しい物があるのだが?」
「なんでしょうか?」
「王妃の誕生日が近いのだが、良いものが思い浮かばない。なにか持ってきてくれないか?」
まあ!と私は驚いて見せて、無邪気な営業スマイルをした。
「とても素敵なご依頼ありがとうございます」
「頼むぞ。毎年のことのため品々に頭を悩ませている」
お任せくださいと言って、私は下がる。部屋から出て、しばらく歩いて、立ち止まった。
「ロキ!……王の評判と王妃の趣味を調べて来てくれる?」
使い魔の名を呼ぶ。ヒュッと飛んでくる。
「ニャハハ!ロキ様参上!……って、なんかアリシア怒ってないかーい!?」
「そういえば、シロモジャネコ!ケイト殿下に余計なこと言ったでしょう?」
「ネコじゃないって!だってさーアリシアがしばらく忙しくて行けないんだってーって言ったら、悲しいですとか言い出すから……つい……うわ!尻尾を持たないでよっ!」
私は使い魔の尻尾を掴んでブラブラさせる。
「ひどいことやめてよー」
パッと私の手から逃げる。
「さて、頼むわよ!仕事するわよー!」
「ヘイヘイッと。仕事熱心だねー。あー、たまにはのんびりしたいのになー。やる気でなーい」
「……ロキ、金平糖よ」
「ガンバリマスっ!」
私の手から白い袋をパッと奪っていく。甘い物に目がない使い魔はやる気が出たようだ。
ラジャスター国王と話したばかりでなんだけど……私は情報集めはしない。しかし使い魔にはさせないとは言っていないわよとニンマリと笑う。
ちなみにザルア皇国から布地の問い合わせもきている。リュクシエル第一王子の罠に嵌められそうになったことを逆手に取り、あの布地を売り出すための良い宣伝の場になった。忙しくなってきたわー!
S級バイヤーはしたたかなのだ。
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