物事の核心は意外なところにある

「ケイト殿下!?」


 サラサラとした切りそろえたおかっぱのシルバーブロンドの髪に青い目をした優しそうな……いや、優しそうに見える青年が歩いてきた。フワリと青いマントが揺れる。


「アリシア……早く来てってロキに言付けたのに、来てくれないんですから!こんな所で出会うなんて、運命ですね!」 


「えーと、運命じゃないと思います。ケイト殿下も弔問でいらしていたんでしょう?」


「まぁね。なんかアリシアに乱暴していませんでしたか?大事な僕のアリシアにやめてくださいね」


 血を吐きそう……私は顔を引きつらせた。相変わらず、このケイト殿下はオカシイ。私の実家、スーパーマーケット『ダイキチ』のある国の王子だ。


「誰が僕のアリシアなんです!?いつから殿下のものになったの!?勝手なことを言わないでくださいー!」


「だ、誰なんだ?」


 リュクシエル殿下がやっと口を開く。ヴァンは目を鋭くさせ、睨んでいる。だが、ケイト殿下はヘラヘラ笑っているだけだ。その笑顔が怖いことを私はこの場の誰よりも知っている。


「エステラ王国の第二王子、ケイト殿下です。私が六カ国の王宮内に出入りを許されてる国の一つです」


「ラジャスター王国のリュクシエル殿下。エステラ王国の第二王子のケイトです。はじめましてかなぁ?声が廊下まで聞こえてましたよー。アリシアをもしかして嵌めようとしてたんですかね?アハハ!」


 可笑しそうに笑うケイト殿下。……どこから話を聞いていたのかしら。


 うっと言葉に詰まるリュクシエル殿下。二つの国の王子が視線を合わせた。苛ついているリュクシエル殿下とフワフワとして、掴みどころのないケイト殿下。


「アリシアを商人として使おうと思うんでしたら、彼女はなかなかの曲者であることをわかって使うべきです。そして彼女の価値がわからない国は使うべきではありません」


 さっ!国へ一緒に帰ろう!と馴れ馴れしく肩を抱くケイト殿下の手をペッとヴァンが払った。


「ドサクサに紛れて、国へ連れ帰るのはやめろ」


 ヴァンの反応に少し驚きつつ、私はごめんなさいと謝る。


「ケイト殿下、私、まだ仕事中ですので……」


「誰ですか?この目つきの悪い黒髪の……」


 ヴァンのことを聞こうとしたが、殿下ー!早く来てくださいっ!とお付きの人に呼ばれて残念そうにまたね!……と言って、行ってしまうケイト殿下。


 微妙な空気だけがその場に残ったのだった。


 その中で、ヴァンが口を開いた。


「商人の戦い方、見せてもらった。見事だと思う」


 そのヴァンの一言だけで、私はなにもかも報われたような気になってしまった。褒められて嬉しいなんて久しぶりだわ。


「フン!さすがは女の商人だな!パトロンがいるんだな!」


 そう言い捨てて、怒った足取りで行ってしまうリュクシエル殿下。パトロンじゃないわよ!腐れ縁よっ!めちゃくちゃエステラ王国に私は貢献してるもの……とブツブツ私は小声で呟く。ふと、隣にいるヴァンに気づく。


「ヴァン、護衛に着いて行かないの?」


 行っちゃったわよと私は指さした。ヴァンはめんどくさいと呟く。


「オレはラジャスター国王が、今の主だ。あいつの物ではないからな。今回、ついていってくれと頼まれたから来ているだけだ。わがままな王子が何かしでかさないかラジャスター国王も心配していた……まさか、こんなことを考えていたとはな」


「……ヴァン、むしろラジャスター王国は戦を起こそうとしていなかったの?」


 ヴァンが目を見開き、私をゆっくりとした仕草で見た。その仕草で私はラジャスター国王の本来の目的がやはりそうだったのだと確信した。


「私は商人として、時と流れを読むのが得意なのよ。わざと第一王子を陛下の名代として送ったんでしょう。私がいる限り、戦になんてさせないわよ!ヴァンが戦うことになるんじゃないの?」


 私はキッとリュクシエル王子の去った方を睨みつける。


「アリシア……どこまで先を読んでいたんだよ」


「これが本当の私の戦いだと思って来たのよ」


 ラジャスター王国は好戦的な国だ。よく他国との小競り合いをここ数年している。


「ヴァン、今、初めて私の名前を呼んだわね?」


 ニコッと私が笑うとヴァンがバッと顔に腕を当てて、隠した。そして何も言わずに慌てたようにクルッと身を翻して走り去る。


 ……ええええー!?なんなの!?その拒否反応!?

 


 

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