雷に撃たれるのは偶然か?

「大変だ!隣国、ザルア皇国の皇帝が崩御された!」


 バタバタとラジャスター王国の商工会の中が慌ただしくなった。私は依頼書をめくっていた手が止まる。


「まだそんなにお年を召していなかったようだし、病気という話も聞かなかったけど、どういうこと?」


「アリシア……そうなんだよ。急にらしい。なんでも狩りに行っていて雷に撃たれたらしいぞ。まあ、狩り好きの皇帝で、よくうちの国へ来たときも国王と狩りへ行く」


 へぇ……と私は相槌を打った。商工会は忙しくなる。これから弔意のための物や陛下が隣国へ赴くための物などの手配がある。しばらく通常業務は無理かしらと私は立ち上がる。


 雷に撃たれて……ねぇ……。


「どうした?浮かない顔してるな」


「なんでもないわ」


 私は笑って誤魔化しておいた。商工会支部長が忙しくなる!アリシアも手伝ってくれと頼まれ、私も必要ならば呼んでと返事をし、商工会から出ていく。


 外に出ると雲行きが怪しかった。案の定、宿屋に着く前にポツッと頬に雨粒が当たる。傘は無いし、あと少しの距離だと思い、走り出す。街の人たちも私と同様に慌てだしていた。テラス席のある店は椅子やテーブルを片付けたり軒下へ移動する人や傘を開く人がいたりハンカチで拭いている人も見えた。


 私が宿まであと少し!と角を曲がると黒い影とぶつかる。


「った!………ご、ごめんなさい」


「おまえ!前くらい見ろよ!」


 転ぶ前に反射神経の良い人は尻もちをつきかけた私の腕をとって、引き寄せてくれる。


「……あれ?なんだヴァンじゃないの」


「なんだってなんだ!?」


 私は肩をすくめる。会うと思っていなかったから、ついそんな言葉が出た。


「ちょうど、雨も降ってきたし、宿屋の一階の居酒屋で何か奢るわよ!こないだのバジリスクのお礼!……お腹空いてるんじゃない?」


「え?あ……まぁ、食っていこうかな」


 ヴァンは食べ物につられて、私と居酒屋に入る。ちょうど時間的に開店したばかりだったので、客は私とヴァンだけだった。


「唐揚げと串焼きと山盛りポテトと焼き立てソーセージ三種盛り、牛ステーキ……それから麦酒で!」


「肉肉しいわね……」


 腹減ってるんだからしかたねーだろとヴァンは遠慮ゼロで注文する。


「すいませーん!野菜スティックサラダ追加!……野菜も食べなさいよね。体に悪いでしょ!?」


 意外と気にするんだなと言いつつ、素直に野菜スティックも肉の合間にポリポリ齧るヴァン。私は今日の魚定食を食べる。バターで焼かれた白い身をほぐしてゆく。


 しばらく無言でモグモグと食べることに集中する。ヴァンは相当、お腹が減っていたらしく、ジュワッとした肉汁たっぷりの揚げたての唐揚げを飲み物のようにパクパク食べていく。ステーキもスイスイと切り、一切れ……二切れ……となくなる。麦酒も3杯目。


「いい食べっぷりね〜。相当魔力使ったのね」


 ピクッとヴァンが麦酒を飲むのを止めた。ここで、ようやくヴァンは『お腹減ってる』と仮定して、私が食事に誘ってみた本当の意味が伝わる。


 魔力を大量に使えばお腹が空く。


「なにが……言いたい?」


「ザルア皇国の皇帝が雷に撃たれて崩御されたと商工会から情報を得たわ」


「……オレを疑ってるのか?」


「雷に撃たれるなんて不自然じゃない?」


 ヒョイッとヴァンはポテトを口に入れる。


「別に……狩りをしていて、外にいればそんなこともあるだろ?今だって、雨に降られることをおまえは想定していたか?」


「してないわ。あ、ポテトちょっとちょうだい」


 自分の分頼めよーと私の奢りなのにケチくさいことを言うヴァンから1つポテトを貰う。


「単なる勘で言ってみただけなの」


「あのなぁ、言う相手によっては殴られても文句言えない。……やめておけよ」


 私はニッコリと微笑む。


「ヴァンは怒らないの?」


「別にどうでもいいかな……。おまえ、オレを探るのはともかく、王家に気をつけろよ。この国の王子や王はめんどくさいやつらだ。足を踏み入れたからには覚悟して商売するんだな」


 ヴァンは逆に私に説教じみたことを言ってくる。じゃ、ごちそーさま!としっかりちゃっかり完食して伝票を私からヒョイッと貰う。


「えっ!?私が………」


「オレのほうが金に困ってないからな」


「だめよ。これはお礼なのよ!?」


 ………いやいやいや。ヴァン!?私は世界的なバイヤーなのよ!?お金はかなり持ってるのよおおおお!?


 彼の動きは素早くさっさと払って出ていった。扉を開けて姿を消した外の雨はもう晴れていた。


 わ、わからない……ヴァンはなかなか本心を隠すのがうまい。私はある程度の交渉術を身につけていて、相手の嘘だってわかる。


 ヴァンの任務に向かった時期、魔力を消費してお腹を空かせて帰ってきた今といい……タイミング良すぎるわ。


 ほんとに雷の術で暗殺したならばの話だけど、大罪人フラグかもしれないじゃない!?


 どうなのよ!?大丈夫なの!?と私だけが焦っている。ヴァンを守りたい、処刑を回避させたい!だけど未来が視えるから気をつけて!なんて言って信用して貰うにはまだまだわと嘆息をひとつした。


 

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