自分も欲しくなっちゃう物がある
うっ……こ、これは!!私は迷った。バイヤーとしての勘が『これは売れる』と思っているのか、それともただのアリシアとしての自分が『これは欲しい』と思っているのかと。
「いやだわー……私、新人みたいな悩み……」
「フッフッフッ。それだけあたしの腕が良いってことよっ!」
目の前にあるのは美しい繊細な銀細工のアクセサリーの数々。ブローチやネックレスや髪飾りは小さな宝石がついている物や季節の花をあしらったものもある。私はあまり着飾る機会はないのに欲しくなる。
笑っているのは馴染みの銀細工職人のマリー。女性に人気なのだが、そんなにたくさんは作れない。ゆえに高額になる。それを街の人たちには売れない。王族や貴族相手になってしまう。
「悩みはわかってるわ。庶民にも銀細工のアクセサリーを流通させたいんでしょ?」
「そうなのよ。絶対に女の子ならほしいし、男の子からプレゼントされると嬉しい物だと思うのよ!」
アクセサリーって特別感あるでしょ?と私がマリーに言うと彼女はそれはそうよ!と頷いた。
「師匠の工房を紹介してあげるわ。こないだから、その話はしていたのよ。簡単な模様の銀細工ならば数多くいる師匠のお弟子さんたちの練習がてらに生産できるわ。お弟子さんの練習って言っても、才能があるものしか工房には入れないから、相当なレベルってことは保証するわ!」
「ありがとう!原材料の銀はもう商談成立してるのよ!良かったぁ」
私に手を握られたマリーはニッコリと笑った。
「それで?この鳥の銀細工のネックレスはいるの?いらないの?アリシアが欲しいんでしょー?」
青い宝石に空を飛ぶ鳥のネックレス……かなり素敵な。でもお値段も素敵なのよね。
繰り返すけど、マリーのような有名職人さんのものは王族や貴族向けなのだ。そのくらいのお値段が高い!高いのよー!!
「なんで悩んでるの?アリシア、S級バイヤーであるあなたは相当稼いでるじゃないの?王族や貴族以上にお金を持ってない?なんでいつも節約してるの?」
「お金を貯めてるの」
「なんのために?スーパーマーケット『ダイキチ』だって、支店もできて、ノリにノってるって話じゃなーい?」
私のことを良く知ってるわねぇと苦笑する。
「やっぱりやめとくわ」
「えー!売れちゃうわよ!?」
そうね……と嘆息する私。でも良いの。自分のためにお金を使うには、まだ早い。
「ありがとうね!師匠の工房いってくるわ!」
「はぁーい。またあたしの銀細工も売ってよ?」
「あなたのは人気すぎるのよ。すぐ売れるんだから……はやく仕事して、数を作ってちょうだい」
あらら……言われちゃったわと明るい彼女は笑った。
よーし!街の女の子たちがドキドキしちゃうようなアクセサリーを売るわよー!好きな人とのきっかけになれば素敵なことよ!
私は、以前そうして街の人たちにも手に入りやすい銀細工のアクセサリーを流通させた。
「あら?アリシア=ルイスだったかしら?」
ラジャスター王国の王都を歩いていると、ヴァンと一緒にいた赤毛の美女ジュリアに出会った。
「あ、そうです。こんにちは」
「まだラジャスターにいたの?まぁ、いいわ。ヴァレリウスの周りをウロウロしないでちょうだい。仕事に支障がでちゃうわ。なんかあなたに出会ってから変なのよね。仕事が完璧なヴァレリウスなのに……」
いや……そんな……ウロウロしたいのに、できてないんですけどねと言い返そうとした時、彼女の胸元にキラリと光る銀細工のネックレスがあった。バラの花を模した物で、赤い宝石がついている。
なんだか……胸が苦しくて言葉にならなかった。
「じゃあね!」
軽やかな足取りで一方的に言いたいことを言って、去っていく。ヴァンに貰ったのかな?……自分が流通させたもので、こんな胸の奥が苦しい思いになったのは初めてだった。
……なんで苦しいんだろう?良いじゃないの。買ってもらえて。みんなに愛される商品!それが私の嬉しいことじゃないの?
ブンブンと頭を振って、私は変な息苦しさを追い出した。でもヴァンはどんな顔で言葉で彼女に銀細工のアクセサリーをプレゼントしたのかな?と頭から離れなかった。
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