アリシアの能力
今年のほうき花の種は特にひどいわー。ほんとよ。くしゃみがとまらないわよね。喉はイガイガするし、鼻水も酷いし、勘弁してほしいよ。なんとかならないのかな?
ささやくような会話と顔がわからない影のような人たちが動いている。急に場面にモヤがかかり、終わる。
……ムクッと体を起こす。
私は宿屋の一角で目を覚ました。フワフワとした夢がまだ残ってる。
「また夢……未来を垣間見てしまった……」
次にくる物はコレなのね。
私はクシャッと前髪を握り、少し頭痛のする頭を抱える。商人としては嬉しいし、役立つことだが、未来を垣間見て、何を、人が求め、欲し、望んでいるかわかる。
これが私の能力。
だから流行らせ、人より先に手に入れることができる。S級バイヤーたる所以の1つ。
不思議な能力だった。……だけどヴァレリウスの破滅の夢だけは、異質だと思う。暗い未来を予測し、はっきりとした鮮明な映像で視るのは彼の夢だけ。
「さて、売れる物は……」
バイヤーとして、行動開始である。
ラジャスター王国には春になるとふわふわした花が咲く植物がある。その花が綿毛と共に一斉に種を飛ばすと、くしゃみや喉のイガイガ、鼻水が止まらないという人が多い。
私はまず、製紙工場へ行く。ゴワゴワとした紙を見せて、工場長が首をひねる。
「はぁ……これじゃダメなんですかね?これでも使えるじゃないですか」
「こう、持ったときにもっと薄くて、フワッとして優しい物が良いわね」
職人達が作れないこともないと集まって話をしだす。頼むわよと私は言って出ていく。
次は飴屋へ行き話を聞く。喉に効くスッキリとした爽やかな香りの薬草を練り込んだ飴があることを確認できた。一口舐めてみる。ドロッとしている薬用の飴を固形で一粒にできないか?と尋ねる。
「冷やして固めて包装する手間はあるけど、できるよ。普通のキャンディみたいなもんにすりゃーいいんだろ?薬の飴だけど、そうすると食べやすいし、持ち運びやすいし、手軽に食べれるってことか。薬用だったけど……お菓子風にするって良いね!それ!」
改良してみることを約束してくれた。次は布屋。
「口と鼻を覆うもの?暗殺者か不審者か盗賊の装束かい?」
「いや……その……近いけど、もっと一般受けするものができないかしら?」
冗談だよ!冗談!と布屋の女将がそういう。冗談に聞こえなかったケド……と思いつつ、デスヨネーと営業スマイルで笑っておく。
ほうき花が飛ぶ季節に入りかけた頃にすべて完成し、間に合った。
ハックション!とくしゃみをして鼻水をすする人が手に取る物。
「鼻をかむための紙切れが柔らかいから、鼻の下が痛くない!これはいい!」
「こんな手触りの鼻紙は欲しかったけど、なかなか無かった」
好評である。よしよし。
「喉のイガイガが飴で落ち着くよー」
「お母ちゃん!もう一個舐めたーい!」
後、一個だけよーと母親が子供に苦笑しながらあげている。こちらも良さそう。
新ファッション!口と花を種からガードする布。街行く人がしている。割りと受け入れられた。そのくらい……この種に困っているんだろう。
歩いていると、フワリと私の服にも綿毛がついた。親指と人差し指で摘んでピンッと飛ばす。
「見た目は怪しいやつだけど、これをすると違うんだよね」
「いやー、明らかに咳が減ったよ!」
「盗賊に見間違えられないようにしなくちゃならないけどな!」
「アッハッハ!それがなー!こないだ夜道で悲鳴あげられたわー」
……やはり盗賊か不審者に間違えられやすいらしい。まぁ、そこは仕方ない。
役立つ物ができた。上手くいった。私は達成感を味わいつつ、商工会へ行くと、皆が声をかけてきた。
「さすがだなぁ。アリシア=ルイスはまるで未来が視えるような流行りの先読みをする!」
本当に視えてるんだろー!?と他の商人達がからかう。私はウフフフと笑って、調子に乗ろうとした瞬間、クシュッ!と1つくしゃみが出てしまった。
早く、この季節、終わらないかな?私も……もれなくほうき花の被害にあっていたのだった。
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