無理難題

 王宮に出入りを許された。私に会ってみたいと言ったのは時期王と言われる第一王子だった。私は正装用の青い商人服に身を包み、一礼する。


 王子は宝石や金を身につけ華やかな身なりをし、長い金色の髪を一つに束ね、琥珀色の目をしていた。ヴァンと同じくらいの年齢に見える。


「へぇ!君があのアリシア=ルイスか!噂は聞いてるよ。どんなものでも手に入れてくるという話をね!」


 ニッコリと私は営業スマイルをした。噂を聞いていた?ではなく、しっかりと身元を調べ、王宮内に入れても大丈夫なのか審議された後だろう。


「殿下にまで知って頂けていたとは、光栄です」


「見たところ、可愛いお嬢さんだけど、ほんとに手に入れてきてくれるのかな?僕の婚約者がね、どうしても欲しい物があるらしい」


「私にできますことなら、なんなりと……」


「バジリスクの目がほしい。あの目は宝石のかわりになる。しかし、猛毒を吐くバジリスクの目はなかなか手に入らない」


 バジリスクか……私は少しだけ考える。いや、考えるまでもない。めちゃくちゃリスクある!わざと言ってるの!?この王子はー!?嫌がらせー!?笑顔を保つその心の奥に私の本音が吹きすさぶ。


「もちろん、手に入れることの難しさは理解しているよ。高額な報酬を出す。成功すれば僕のお抱えの商人にしてもいいし、父王に紹介してあげてもいいよ」


 くっ……おいしい条件を提示してくるわね。でも頻繁にこの王宮に出入りするためには確かにお抱えの商人としての名がほしい!


「わかりました。引き受けます」


 私の一言にガタンッと王子の後ろから音がした。カーテンが揺れた。影のように現れたのはヴァンだった。いつからそこにいたの!?


「ヴァレリウス?どうした?」


「商人にバジリスクの目など無理だろう!?と思うんだが!?騎士団すら苦戦し、犠牲無しには討伐できない!」


「この娘が出来ると言っているんだよ」


 ヴァレリウス!?なんでそんなところに!?しかも王子の要求した物に苦言を呈している。私は動揺を顔には出さない。常に笑顔を貼り付ける。商人のプロたるものスマイルはタダなのよ!


「大丈夫です。S級バイヤーのアリシア=ルイス、その名はだてじゃないわ。手に入れてみせるわ」


 私はそう言い放つ。ヴァンは私をチラリと見てから、それなら勝手にしろと言い捨てて、カーテンの後ろへ帰ってしまう。

  

 ヴァン……私はあなたのそばへ行くためにはどんなことでもするわよ。揺れるカーテンをジッと私はみつめた。


「では引き受けてもらえるのかな?」


「もちろんです。第一王子の大事な婚約者様のために手に入れてみましょう!」


 バジリスクの目か……とすでに頭で考えている。うん……あの地にしようと目星はついてる。私はお辞儀し、身を翻した。さっさと行ってこよう。時が惜しい。


「ハハッ。なかなか面白い商人の娘だね。強気の娘は嫌いじゃない」


 そう第一王子の笑い声が聞こえた。手に入れられるわけがない。そんな嘲りが入り混じっていた。

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