自由と引き換えに失うもの

 ヴァンお兄ちゃんは、売りに出されることになった。それを聞いた私は寂しくて、ヴァンお兄ちゃんの姿を見るたびに離れ離れになりたくなくて、泣きたくなった。


「お願いします。僕の金額は過去最高値だと聞いています。アリシアを自由にしてくれませんか?」


 だけどヴァンお兄ちゃんはいなくなる前に、驚くことを言い出した。


「おまえ、自分がなに言っているのか、わかってんのか!?」


「そんなこと許されるわけがないだろう?いくら力が強いからといって、調子に乗るな!」

 

 ヴァンお兄ちゃんは、ハァとため息をついた。スタスタと歩いて行き、私達が閉じ込められている部屋の壁に手をつく。


「お、おい?何をする気だ?」


「いいかい?ここではもう僕に敵う者なんていないよね。施設まるごと破壊してもいいんだよ?言葉で丁重にしているうちに聞いてくれてもいいんじゃないかな?僕はたった一つだけしてるだけだろう?アリシアを自由にしてほしいってことだけなんだけどなぁ」


 ゾッとするような笑みをヴァンお兄ちゃんは浮かべた。いつもの私に向けている笑顔とは別の種類だと気づく。


「やめろ!」

 

 そう大人達が言うとヴァンお兄ちゃんはニッコリと天使の様に綺麗な顔で笑ってみせた。


「やめてほしい時は……わかるよね?」


「やれやれ、ヴァレリウス。おまえの才能や性格アタシは嫌いじゃない」


 長いウェーブの髪をたらし、赤い口紅をひいた美人な女性が現れた。金色の髪、レッドアイの華やかで、人を油断させない威圧感がある。


『総裁!!』


 滅多に見たことない、ここで一番エライと聞かされていた人だ。


「良い。そこの出来損ないの娘くらい放り出せ。ヴァレリウス、そのかわりに大人しく売られてゆけ」


「アリシアが自由になるなら、僕はなんでもいい」 


「そんなに大事か?」


 クスクス笑う女性だったが、ヴァンお兄ちゃんは笑い返さない。私のところへやってきて、手を取る。


「放り出されて、物乞いしようが、何をしようが、生き延びて、僕の分まで幸せになって……アリシア、バイバイ」


「なんで……?なんで、ヴァンお兄ちゃんは私にそこまでしてくれるの!?私も一緒に行っちゃだめ!?離れたくないの」


 ヴァンお兄ちゃんは無言で首を横に振った。黒い目で見つめるだけだった。一人は嫌。どんなに辛くてもヴァンお兄ちゃんと一緒なら耐えれるのに!私に力がないから?弱い私はお兄ちゃんを守ることもできないし、こうやって庇ってもらうだけなの!?涙を流すしかできない自分の無力さを感じ、自分が一番腹立たしかった。


 それから私は身一つで放り出されたのだった。何も持たず、何も与えられず、道端にゴミのように無造作に捨てられたのだった。それがその時の私の価値だった。


 ヴァンお兄ちゃん。私は自由よりも傍にいたかったのとポロポロ泣く。


 

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