8話目 平凡の介入
あー初日からかよ。
このままだと俺の能力がばれるわ。
これは非常にまずい。
「本当に大丈夫か?」
団長さん、気にしなくっていいっす。
偏頭痛っす。ここ気圧が高くて…
おすおす。
ってそんな場合じゃないのか。
俺は足元を少しけってみる。
コツンッ
何かに足が触れた。
しかしそこには何もない。
遮るものがない空間で三月の足をはじいたのだ。
やっぱ、発動してたか。
俺の能力は【見えない壁を作る】ことだ。
数年前の事故により目覚めた能力。
発動条件は明確にはわからないが、俺が怖がったときに発動するのだ。
だから俺は怖がった時に分泌されるものを抑制する薬を持っている。
しかし今日に限って持っていくことを忘れた。
ちょっとのことで怖がってしまうは
最近飲みすぎたせいで薬に体が依存してしまったからだ。
因みに能力にも制限がある。
俺の場合は三十秒後に消える。
三十秒後に見えない壁が消えるのだ。
「だ、大丈夫です。多分、ストレスによる筋ナンチャラ痙攣だと思うので…。
アルプラゾラムとかありますか…?」
俺は少し震えた手で団長さんの背後にある棚を指さす。
多分この中に医療道具がぎっしり詰まっているのだろう。
アルプラゾラム…精神安定剤のこと、
団長さんが少しでも探すことに手間取っていれば時間稼ぎ+重用アイテム入手。
コレキタ!
多分バレずに済んだ!
すると団長はそそくさとした足取りで棚の方に向かう。
そして太い腕で重そうな棚を引き出した。
よし、!あともう少しで能力が切れるぞ!
壁が消える…ん?
その後団長は迷うことなく一つの錠剤の入った瓶を持って三月の方へ大股で向かってきた。
やべえ。終わった…。
少しぐらい迷ってもいいよね?
完璧に薬剤の位置を把握していた団長さん。
勿論、俺の能力の発動時間内だ。
まだ10秒ほど残っている。
これは…打つ手なしか?
これ以上引き留めることはできないし、引き留めたところで不信感をあおるような行動はこの後に響いてしまう。
今更な気がする。
どうせ、また能力で自分の人生が踏みにじられるだけだ。
青年時代では能力を持っていることで周りから遠ざけられて、
今になっては能力で迫害される。
結局、楽しい人生を歩んでいる能力者なんてほんの一握りだけだ。
能力よりも非凡を殺す凡人の方が圧倒的に怖い。
心臓の音がうるさい。
不規則に鼓動していて意識が朦朧となる。
緊張で力強く握った手が痺れてヒリヒリと痛む。
もう、白状するしかない。
能力者であることを、
乾いた唇を一生懸命に動かしながら、弱弱しい言葉を放った。
「実は…」
バタンッ
その時ここの部屋のドアが開く音がした。
それも結構力のこもった音だ。
急な訪問に団長の足が止まる。
三月も思考が止まったままドアの方を見つめる。
「大ニュース!チケットが前回の公演より二倍近く売れたよ!!」
この場の雰囲気を知らないで一人の人物が声高く報告しに来る。
あれ?この声聞いたことあるぞ?
たしか…公園で出会った、奇妙な…
そんなことを考えていると目の前にあった気配が消えた。
能力の発動時間が終わったのだ。
「ドントン、静かにしろ。今は新人君が体調を崩してしまっている。病人を高揚させるな」
団長さんがあきれたような口調で目の前の人物に話しかけた。
そう、やっぱあの人か、
俺はピエロに助けられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます