3話目 平凡のサーカス団

目の前で芸を見せてくれたピエロはサーカス会場に僕を連れて行ってくれた。


「ここが今日から君が働くところだよ」


「客集めで忙しい中、本当にありがとうございます!」


赤色と白色が混じったテントを目の当たりにする。

これがサーカスの会場。

そしてこれから数ヵ月ここで働くことになるのだ。

数ヵ月といった理由はサーカスは移動する必要があるからだ。

日本中を飛び回って芸を見せることがサーカスであるため、人が集まる場所であるならば、北海道から沖縄まであらゆるところに出向く必要がある。


「そういえば三月くんって研修を受けたことあるんだっけ?」


「一年だけでしたけどね。設備の安全をチェックしてほかの会場に荷物を移したりとか鍛えたりとか…、ですからテントは久しぶりに見ました!」


本当に久しぶりに見た。

完成前とかは研修でよく見てたけど完全に完成されてるのは久しぶりかも。


「そっかあ。大体分かったよ。三月くんはあと他に何かやってたの?」


「バレーとかですかね?」


「バレーボール?」


「バレリーナの方ですね」


「ブフゥ!!」


なんかピエロ笑っとる。

いやいや、しょうがないだろ!

男性がやってなにが悪いんじゃ!

マジで柔軟大切だから…


「ごめんごめん、なんかヒラヒラスカートを付けてる三月くんを思い浮かべちゃってww」


うん、想像してみると化け物だなそれ。

なんかピエロが期待した目線でこっち見てる。


「やりませんからね?」


「えーー残念!!」


ピエロが分かりやすく肩を落とした後にテントに触れた。

少しテントの生地が縦方向に揺れてそれが波となる。

僕がただ見つめている中思いっきりテントの口を開ける。

そこには一般にテントと呼ばれるような閉鎖的空間でなく、一つの独特な世界観を築き上げられていた。

異世界だ。

自然と気分が高揚する。

そして僕を手招くような仕草をした後に、


「【東京タッチサーカス団】にようこそ!新人君を心より歓迎するよ!」


廃れたサーカスがこんなにも生き生きとしていたなんて、

そして僕はそれを汚そうとしているのか…?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


入口まで送るとピエロはまた街に出かけて行った。

本当に忙しかったんだなあ。

あれだけふざけた雰囲気を出せるのはやはり仕事のテクニックの一つなのだろうか

天然…?いやいや、ないない


「あれ?新人さん?今年は人が入ってこないと予想まししたけど…。えっと、ようこそ」


不意に声を掛けられた。

僕が振り返るとそこには一人の女性がいた。

ジャージのような服をだらしなく着ていて、髪はブラウンのショートヘアだった。


「今日からここで働かせていただきます。橘三月です!よろしくお願いします!」


腰を直角に折って挨拶をする。

すると目の前の女性は、少し困ったような顔をした。

だろうな、急に野球部ノリを挨拶でぶっ込まれるのはビビるよな。


「あー了解。見た感じ同僚だから敬語は避けるわ。取り敢えず、団長さんに挨拶してきなさい」


「あ、はい。ちなみに団長さんはどこにいるんですか?」


「敬語になってるわよ」


「…おう」


あら不思議、まったく会話に壁がなくなった。

サーカス団やばいな。コミュ力半端ねえ


「私の名前は津奈木・小恋乃つなぎ・ここのね。仲間からは

ココノコって呼ばれてるわ。今は綱渡りを練習中。」


「僕は特にあだ名とか無いな…」


ココノコは団長のもとに僕を連れて行こうとして背を向ける。

完全にココノコのペースに飲まれている僕。

第一印象を頑張ったものの数分で形勢逆転とは…


「三月君ちなみにさ…」


そんなことを考えてる僕に振り向いて言った。


「【僕】よりもこの仕事場では【俺】の方が理解されやすいと思う。

これからよろしくね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る