4話目 平凡を好む

僕ではなく俺を使えと言われた。

結構不思議な要求で驚いた。

まあ、使ってもいいけど。謎があるな【東京タッチサーカス団】って。


「団長さんって厳ついイメージをよく持たれちゃうのよね」


「違うのか?」


「えぇ、違うわ。とても優しい方よ」


えー。想像できない。

あの体格とか言動とか昭和の頑固なオヤジってイメージ持ってるんだけど…。

部下の前ではニコニコとか?


「どうしたの?そんなに疑問があるなら一度会ってからにしましょ」


俺の考え込んでいる様子をココノコが見て奥の個室を指さした。

どうやらそこで団長さんが仕事しているらしい。

テント内にあるものだから結構小さい。

近づいてみるとラベット看板のようにして木材で大きく【多目的室】

と書かれていた。


「ここでは仕事はもちろんのこと、安易的な治療ができる施設でもあるわ」


演技中にけがをした人を運ぶためのものか…。


コンコン、扉をノックしている音が聞こえる。

よく見ると説明を終えた小恋乃が三月の返事を無視して団長さんがいる部屋を叩いていた。

あれ?ちょっと待ってココノコさん!団長さんに会うのに心の準備が…。

そんな心の声は届かずに、彼女は思いっきり【多目的室】の扉を開ける。


「お?小恋乃、どうした?けが人が出たのか?」


扉の奥から野太い声が聞こえる。

団長は椅子に座って資料を眺めていたところだった


「いいえ、エドアドさんが面接試験で採用した橘三月君が来ています」


「あぁ分かった。後はワイに任せといてくれ。ご苦労だったな」


「こちらこそ、お取込み中のところ申し訳ございませんでした」


「かまわん、」


団長はそう言葉を交わすと椅子から立ち上がる。

いつの間にか資料はきれいに机の上で整理された形で置かれていた。

ココノコは三月に近づくとこう耳打ちした。


「ここで落とされることなんて無いから、安心しなさいな」


安心できるわけないだろ!(絶叫)

あーもう面倒くさい!能力のことを隠さなくては!

前にも述べたとおりに俺は「能力者」と呼ばれている部類に含まれる。

それは凡人では実現不可能なことでも軽々とやってのける存在。

そしてサーカス団の中での絶対ルールに自分が違反していることを知っているうえで黙って入団している。それは、


「サーカス団に能力者が入団することは許されない」、ということだ。


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