第23話 リーネが来る!
グラウンド。生徒たちの人垣に大きく囲まれながら、俺たちは中央に立っている。
ひゅうう、と風が一陣、俺たちの間を吹き抜けていった。
待っている。
待っているのだ俺たちは。
リーネのことを。あのちんまい幼女姿の魔法使いのことを。
カメラがグルリと回って人垣を撮っている。
ざわざわ、ざわざわと。
お祭り気分の生徒たちは各々にお喋りをしながら、なにかが起こるのを待っていた。
なにせテレビの取材が来ているのだ、それはそれは非日常な楽しいことを目の当たりに出来るのだろう――と、彼らの期待が俺たちにも伝わってきてしまう。
「来ませんねぇ」
とディレクター。「おほほほほ」と会長。
会長が心配そうに俺と早霧を見やった。さて来るのであろうか。
早霧の言う通り、リーネの奴に伝わっているのだろうか。
「早霧……」
俺は早霧の方をみた。
「大丈夫よ惣介、きっと来るから」
早霧には確信があるみたいだった。
リーネの俺たちに対する執着は激しい。なるほど確かにくるかもしれない。
いや絶対に来る。来る!
ざわっ、と。生徒たちのささめきが一定の方向を持ったのはそのときだ。
校門に、一人の幼女の姿が現れる。
中世ヨーロッパを思わせる服装の幼女、ざっざっざ、足元に砂埃を上げながらその幼女は人垣の真ん中、つまりグラウンドの真ん中まで歩いてきた。
そして言い放った。
「ふーははは! 貴様らへの嫌がらせをさせたら世界一、リーネ様が参上したのだー!」
バサッとマントを風に翻し、リーネが俺たちを指差す。
「テレビ番組の撮影なんか言語道断! 貴様らが有名になるのは断固阻止する!」
わああーっ! グラウンドは歓声と拍手によって満たされた。
リーネがビクッと身体を硬直させた。
「んあ、なんなのだこの反応は!?」
どう見ても戸惑っている。
そこに会長が走り寄り、両手でリーネの手を握って喜んだ。
「よくぞ来てくれたわリーネちゃん!」
「え? は? ふはは?」
俺たちも会長に続いていく。
「来たなリーネ!」「それでこそリーネちゃんね!」
「あなたがリーネさんですか」
編集長がカメラを伴ってインタビューを始めた。
年齢に好物から始まり俺たちとの関係など。「敵なのだ!」と言ったときにはギャラリーも含めた周囲がドッと笑った。演出だと思っているのだろう。そして、
「我はこのゲームの完成を阻む者! 我のチカラの前に皆ひれ伏すがいいのだー!」
と宣言したときには、さらなる歓声に包まれた。
「皆さんお待たせしました。これよりさーくる三人娘のパフォーマンスを始めます」
合わせて早霧が高らかに声を上げた、グラウンドが「おおー」と盛り上がる。
「はいリーネちゃん、思いっきりファイヤーボールを撃ちまくって」
「い、言われなくとも! 取材などぶち壊しにしてやるのだ!」
「ほらミュジィちゃん、対抗対抗」
「そ、そうはさせぬわリーネ! 取材の進行はわしが守る! ……こんな感じかの?」
早霧の進行で『パフォーマンス』が行われていく。
「イヤフー!」
ノリノリの会長が自前のカメラを回し始めた。「いいわよ二人とも、スタート!」
ドーン、とリーネの爆炎でそれは始まった。
「
いきなり大技っぽいのから入っていくリーネ。
ボカーン、ズドドドド、と校庭が炎に包まれる。
「わ、ばかリーネ! はなからトバしすぎだろ!」
俺は
ミュジィが防ぎ切れない細かい炎は俺が棒で叩き落としていく。
火竜と水竜が召喚されて、イベントのときのようにもつれ合うと、「え、これ本物じゃない?」とざわめき始める人も出てきたので、早霧にほっぺをツネって貰い
おかげでリーネが破壊魔法を使えば使うほど、まるでライブのようにグラウンドは盛り上がった。
リーネもわけわからぬままというべきか、なんというか周囲のノリに中てられて状況を楽しんでいるようだった。
「ふははー! 今日こそ全てを終わらせるのだー!」
火炎がボンボンボン。そうはさせじとミュジィの水流がぐるんぐるん。
テレビスタッフのカメラと会長のマイカメラが、魔法で空を飛び始めた二人を追う。
「リ、リーネちゃんノリノリねぇ」
「ミュジィの奴も、ありゃやりすぎだろ」
空に飛ばれては俺もフォローできない。会長と肩を並べて二人を見上げるだけだった。
空に浮かび上がるのは花火もドンビキして去っていきそうな光の炸裂。
絡み合う火と水の竜がそれらの間を縫うように軌跡を描く。
極悪なはずの殺傷力が高い魔法も、すべてミュジィが途中で中和するので、見た目が派手なイリュージョン状態になっていた。
早霧も俺たちの横にきて、空を見上げている。
そんな早霧を横目に見てると、目があった。早霧が苦笑する。
「すごいわね、リーネちゃんもミュジィちゃんも」
「そうだな」
俺も釣られて苦笑した。
ゲームとは全く関係ないが、確かにこれは一級のパフォーマンスだったのだ。
映像的に見栄えがいいと言ったプロデューサーの判断は正しい。確かにこれのあるなしで、番組の価値は大きく変わったであろう。
「おっしゃー、頑張れミュジィーッ」
「リーネちゃんもしっかりーっ」
俺たちは二人の魔法使いを応援した。
宣伝というよりも、この場に居ることが楽しくて応援した。
大きな爆音が響くこの空を見上げるのが気持ちよくて応援した。
周囲のギャラリーもまた同じような気分だったに違いない、歓声が二人の飛び行く空に向かって上がっていた。
この宴はいつまで続くのか。
いやしかし、終わりは突然に訪れた。
リーネがひゅうう、ポテッとグラウンドの真ん中に落ちてきて、大の字に寝っ転がったのである。
「はひっ、はひっ、はひっ。も、もうだ……めなの……だ」
疲れ切った様子で息をするリーネ。その横にミュジィも降りてきた。そして「はふぅー」と大きく息を吐いて座り込む。
空では絡み合った竜がぐるぐる回りながら、やはり次第に小さくなって消えていった。
拍手が沸き起こった。二人を称える拍手だ。歓声が波のように押し寄せる。
倒れたままのリーネが、周囲を見渡すように首だけを動かした。
「はひっ、はひっ」
そしてちょっとだけ満足げに笑う。横に座り込んでいるミュジィも一緒になって笑った。二人は目を合わせて、はひっはひっと笑った。
「まあ、たまにはこういう魔法の使い方も悪くなかろうて」
「ふ、ふん、なのだ」
リーネが満更でもなさそうに目を逸らす。それを見ていた俺は思わず苦笑していた。
「来てくれてありがと、リーネちゃん」
リーネの元に歩いていった早霧が、優しく微笑む。
早霧に抱き抱えられて、頭をなでなでされるリーネ。
「ななな、なにをする。やめるのだ!」
「わはは」
ミュジィが笑いながらリーネを見ていた。
「楽しかったであろう?」
「べ、別に我は……! ……!」
やっぱり満更でもなさそうに、リーネは目を瞑りながら口を尖らせたのであった。
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