第21話 TVの取材を受けよう①
六月の中盤。まだ梅雨には入っていないこの日、俺たち「さーくる三人娘」への取材が行われることになった。俺たちの日常を撮って映像素材として使うらしい。
早朝に学校入りをした俺たちは、撮影スタッフの皆さんと挨拶を交わした。プロデューサー、ディレクター、アシスタントディレクター、カメラ、音声、リポーターの六名が順に挨拶をしてくる。
「あれ、編集長さん?」
リポーターとして紹介されたのは連撃ゲーム通信の編集長だった。
相変わらず細身で髭眼鏡の編集長は、背広もスッとしていて格好いい。ニッコリ笑顔で、
「やあ惣介君」
俺の手を握ってくる。
「今日はプロデューサーに頼まれちゃってね、急遽リポーターとして参加することになったんだよ」
「プロデューサーさんと友達なんですっけ?」
「そう友達。古くからの腐れ縁てやつかな」
すると横に居たポロシャツのディレクターが編集長に頭を下げる。
「すみません突然の依頼で、今日はリポートよろしくお願いします」
「いやいや構いませんよ、ボクも彼らには興味ありましたしね。あ、惣介君、記事は読ませて貰ったよ。なかなか良かった」
「え、いや、はい。ありがとうございます」
「あの調子でドンドン頼むよ。いやー今日も楽しみだ」
俺たちが挨拶を交わしていると、プロデューサーが寄ってきた。
「それじゃディレクター、俺これから他の現場にも行かなきゃならないから」
「はい、わかりましたプロデューサー」
ディレクターが答える。
「あとはディレクター君と西倉編集長に任せた! わははははー!」
そう言ってプロデューサーは去っていく。
ディレクターが苦笑するように俺に言った。
「プロデューサーはいくつもの企画を抱えてて忙しかったりするんだよ」
なるほどなぁ、と俺は頷いた。「じゃ、始めまーす」とディレクターが音頭を取ると、他のスタッフ皆が集まってくる。
こうして取材撮影が始まったのであった。
◇◆◇◆
俺と早霧が連れだって教室に入ると、教室が「わあっ」と色めき立った。
俺たちの後ろにはカメラさんと音声さんがついてきている。
学園生活の密着撮影なのだ。
俺が席につくと、クラスメイトが俺の周りに寄ってくる。
今回はライターのときと違い、女の子も周りに集まってきてたりするので、人の密度が高い。
「ねえねえ、あれテレビなんでしょ? 聞いてるよぉ」「このあいだのゲーム絡みの取材なんだって?」「なんかすごいなーおまえ」
ワイワイと一気に話し掛けられる。
早霧より人の集まりが多かった俺の方にカメラさんたちがやってきて、収録を続ける。
カメラを回されている、俺のすぐ横で。
そう考えると頭が回らなくなった。たぶん目も泳いでいる。
撮られていたなら酷い絵面に違いない。
「聞いてるのか惣介?」
ずっと周りで話し続けていた誰かが言った。
「ア、ハイ。ソウスケデス」
「知ってるし」「なんでカタコトなんだよ」「緊張しすぎだろ」
罵声が飛んでくる。
しばらく皆となにかを喋っていた気がするけど、記憶にない。
俺のこうした朝風景を撮られたあとは、カメラさんたちが早霧の方へと移っていった。俺の周りから人も散り、担任の先生がやってくる。
「よーし朝の学活始めるぞー、おまえら席につけー」
教室が静かになっていった。そして朝の学活が始まる。
『あがりすぎじゃ。カメラに移動されてしまったではないか』
ミュジィの呆れたような声が頭の中に響いた。
その言い方が気に触ったので、俺はちょっと抵抗してみる。
「ま、女子高生の方が単純に絵面がいいから」
『早霧はカワイイしのう』
ストレートに返されてしまい、俺は黙った。
『カワイイしのう!』
すると頭の中ですかさず大声を出してくる。重ねて無視しようとしたのだが、
『カワイイし――』
「聞こえてるよ別に否定はしないって!」
『さようか』
頭の中でニマニマしているミュジィが小憎たらしい。
カメラが傍にいなくなると、ぶっちゃけ普段の生活と変わらなくなった。
昼休み、教室で人に囲まれている早霧が撮影されているところを眺めていると、リポーター役の編集長に掴まった。「やあ惣介君」
相変わらずにこやかな人だ、俺は頭を下げる。
「こんなところで早霧ちゃんを眺めているくらいなら、あっち行ってくればいいのに」
「いやあ、普段から教室では別々ですから」
「そうなのかい? あんなに仲良さそうだったのに」
「幼馴染なんてこんなもんじゃないですか? それにあっちに行くよりも、普段人に囲まれ慣れてないボッチ気質な早霧が人に囲まれてアタフタしてるのを、外から眺めてた方が楽しいです」
「なかなか良い趣味をしてる」
編集長は苦笑したようだ。片目を瞑って俺を見る。
「ところで編集長さんは、なんで今回リポーターなんかやってるんですか? 本業もお忙しいでしょうに」
「実はボクも昔テレビの仕事を少ししていてね、段取りなどには詳しいんだ。そこに加えてゲームの知識もあるから是非にと頼まれちゃってさ」
「なるほど」
「それに、もうちょっとキミらを詳しく知りたかったのもあるな。キミらは本当に良い素材だから」
「その……素材っていうのは」
「これから業界を支えていく人材としての、という意味さ。ボクはああいう雑誌の編集長をしている。だから、人材を見つけたら力になっていく義務があると思ってるんだ」
「いや俺たちなんて! ただサークル活動でゲームを作ってるだけですから!」
「でも楽しんでいるんだろう?」
「えっ? ああまあ、はい」
「それだけで良いんだよ。楽しんで、仲間と一緒にゲームを作っている。そういう単純な動力が強いんだ」
「はあ……」
俺の返事は生返事になっていたと思う。
正直、編集長の言うことに実感が持てない。
そんな俺の心の内を知ってかどうか、編集長はニッと笑った。
「そのうちわかる。ただ楽しむ、それだけのことが如何に難しいことか」
俺の肩をポンと叩き、早霧の方へと歩いていく。編集長は「やー早霧ちゃーん」と、外ゆきの顔でカメラに向かってリポートを始めるのだった。
「なんか難しい話をされたなぁ、ミュジィ」
『お主らは、お主らのまま頑張って欲しい、という話じゃよ。どうじゃ? 人に期待されてゆく気持ちは』
「なんか、テレ臭い」
『うむ。フレッシュで良い答えじゃ』
からかうような口調でミュジィが言うので、俺は目を細めた。
「良い趣味してら、ミュジィ」
『じゃろう? 意地悪に早霧を眺めるお主と同じじゃ。わしはお主の半身じゃからな』
ミュジィはカラカラと笑ったのだった。
TV取材編、続く!
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