第20話 ちや☆ほや

「惣介ー、連撃ゲーム通信、見たぞー」


 朝、学校の教室だ。登校した途端に、俺はクラスメイトにそうやって声を掛けられた。もちろん俺が書いた記事の話だ。


「ええ? なんで知ってんの? 俺言ってなかったよな?」

「早霧ちゃんに聞いたんよ。早霧ちゃん、おまえの居ないところで嬉しそうに話してたぞ」

「なっ」


 思わず同じ教室に居る早霧の方を見ると、あんにゃろう俺から目を逸らした。恥ずかしいから周囲には秘密にしてたのバラしてしまうとは。


「ラナドイルグラフティ、評判いいぽいな。俺も思わずダウンロードしちゃったよ」


 そういって雑誌を机の上に広げるクラスメイト。すると他の男子も集まってきて。


「え、なんの話?」「うおっ!? このゲーム、惣介が作ってんの?」「雑誌に記事書いてるのかよ、すげーじゃんおまえ」


 ワイワイと井戸端会議が始まる。


「おまえのとこ同好会なんだろ? まともな活動してないと思ってたわ」「なに言ってんだよ早霧ちゃんが参加してんだぞ。ガチに決まってんじゃん」「そうなんだ?」「中学の頃から早霧ちゃんは有名だったんだぜ、ゲームをマジで作ってるって」「へー」


 集まった男子が一斉に早霧の方を見る。

 早霧は顔を真っ赤にして机に突っ伏したあと、他の女子と一緒に教室を出ていった。


「早霧ちゃんが凄いのは知ってたけど、まさかおまえもそこまでやるとはなー。連撃ゲーム通信に記事書くなんてすげーよ、まだ高校生なのにさ」

「そんなことないって。俺はあくまで会長のオマケで書かされているだけだから」

「いやいや。それでも凄い」


 クラスメイトに肘でつつかれ、頭を小突かれ、楽しそうに笑われながら冷やかされる。

 恥ずかしかったから秘密にしてたのに、こうしてチヤホヤされるとだんだん満更でもない気持ちになっていくのが自分でもわかる。俺は頭を掻きながら、素直にテレた。


「そんなにちゃんと作られてるなら、俺もダウンロードしてみるわ」


 俺も俺も、とクラスメイトが横に倣っていく。

 プレイしてくれる人が増えるのは単純に嬉しい。俺も「マジかよ是非プレイして感想くれよ」とちょっとはしゃぎ気味。

 そんなこんなで朝の時間を終えた。


『今朝は凄かったのう』


 とミュジィが話し掛けてきたのは、放課後になって会室に行くまでの廊下でだった。


『雑誌に載るとは凄いことなのじゃな。まさかこんなに反応されるとは』

「ん? ああそうだなぁ、俺もビックリしたよ」

『確かに会長殿の言う通り、こうやって目立っていくことは重要なのじゃなぁ。広報活動は馬鹿にできん』

「どういう形であれ注目されればされるだけ、ゲームにも興味を持って貰えるって言ってたよなー会長」

『うむ。だがな惣介、お主さまはこれからもっともっと注目されていくぞ? 恥ずかしがってる暇などないくらいにな。それはこのクリエイターズ・ドーンにも記されておる』

「マジ? それはちょっとイヤかも」


 俺の頭の中で大きな本を抱えているミュジィに苦笑してみせた。目立つのはそんなに好きではないのだ。


『お主さまにはもっとビッグになってもらって、大プロジェクトでラナドイルを舞台にしたゲームを展開して貰わねばならんからのぅ。それがわしの世界を創ってゆく故に。なのでまあ、この調子で頑張るのじゃ』

「へいへい」


 生返事でミュジィに答えながら会室の戸を開く。すると突然、パァンという炸裂音に見舞われた。――なんだ!?


「惣介君、ライター業進出おめでとー!」


 会長がクラッカーで俺のことをお出迎えしてきたのだった。リボンと紙吹雪が俺の頭の上に振ってくる。


「ビックリさせないでくださいよ会長、突然のクラッカーは心臓に悪いです」

「あはは、ごめんごめーん!」


 悪びれない会長が、追加でもう一個クラッカーを鳴らした。再び音にビビらされる俺。


「ライター業といっても、あれはあくまで会長に割り当てられたページのワンコーナーですから。会長のオマケみたいなものですよ」


 ビビらされた仕返しに、ちょっと否定してみる。

 しかし会長はそんなことお構いなしに、俺を褒めてきた。


「いやいやいや良い文章でしたにゃー。短い中で面白くキャラを紹介できてました」

「そーよ、惣介。素直に褒められておきなさい? あんた次いつ褒められるかわからないんだから」


 横から早霧が冗談めかした調子で憎まれ口を叩いてくる。ノートパソコンを弄りながら笑い、器用に肩を竦めてみせた。


「今朝がたはクラスのみんなに囲まれて、満更でもなさそうだったじゃない。いいのよ宣伝になるんだし」

「う、うるさいな。って、早霧なにやってるんだ?」

「ブログの更新。会長とあんたが連撃ゲーム通信に記事を書いたことをお知らせしないと」

「やめてくれよ恥ずかしい」

「だーめ、これも大事な広報活動なんだから」


 早霧がポチッとキーを押すと、ブログの更新が完了した。


「はいこれでオッケー。これでネットの世界でも皆さんに周知して――あら?」


 と、早霧の動作が止まる。俺は早霧の元に寄り、パソコンの画面を見た。


「どうしたんだよ早霧?」

「ほらここ見て。もうレスがついたのよ、即レスよ?」

「はや!」

「えーとなになに『おめでとうございますなのだ、さっそく連撃ゲーム通信買ってくるのだ!』ですって」


 俺と早霧の間に、一瞬の間。俺は目を細めて言った。


「……これ、リーネだろ?」

「リーネちゃんねきっと」


 早霧も呆れたように画面を見ている。


「あいつブログもずっと見てるのかよ!」

『わしらの監視もあ奴の仕事じゃからのー』


 ミュジィが頭の中から俺たちに言った。


「呆れるほどのしつこさだな」


 肩を竦めて笑ってみせた。「ね、会長?」と会長の方にも話を振ろうとしたのだが、


「あれ? 会長がいない」

「あらら? ほんと、居なくなってる。気づかなかったわ、いつの間に席を外したのかしら。ミュジィちゃん見てた?」

『会長殿なら、さっきスマホを弄りながら会室の外に出ていったぞ』

「へえ、どうしたのかしら?」


 と俺たちが会室の戸に目をやったそのとき。

 ガラリ、と勢いよく戸が開いた。会長が会室に飛び込んでくる。


「みみみ、みんな!」


 なんだか慌てふためいた様子で、手にしたスマホを上に掲げていた。


「今、連撃ゲーム通信の編集長さんから打診があったの!」

「会長、慌てないでください。ほらこれでも飲んで」


 早霧が渡したお茶を会長は一気飲み、ぷはーと息を吐いた。そして俺たちの顔を見渡し、


「なんと私たち『さーくる三人娘』に、テレビ局からの取材依頼が来ました!」

「て、テレビ!?」


 俺と早霧は一音一句変わらぬ言葉で驚いた。


「といっても大きなキー局じゃなくて地元密着の地方局の番組、さらにそれの一コーナーみたいだけど」


 編集長の知人に地方局の番組プロデューサーが居て、ネットにアップされている例のイベントでの俺たちとリーネの戦闘動画を見たそうだ。


「あれですごい興味を持ってくれてたみたいで、編集長さん経由で打診がきたの」

「取材って、いったいどんな?」

「普段の活動を記録して、最後にテレビ局での収録があるみたい」


 会長の話では、学校の許可をちゃんと取って一日密着取材するらしい。それは恥ずかしいというか、目立つというか。


「お目立ち上等! あたしたちが目立つほどにゲームの評判も広がるわ、今どきはクリエイターも顔出しの時代なのよ惣介君、頑張りましょー!」


 そして一週間後、テレビ局の取材が始まることになったのだった。



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