第18話 雑誌編集部に行こう①
約束の午後には東京に着いておけるように、俺たちはちょっと早めの午前中に電車へ乗り込んだ。
幾つかの乗り継ぎをし、まずは秋葉原に。
編集部がそこから数駅の場所にあるので、早霧がついでに寄りたいと希望したのだ。
秋葉原で漫画アニメやゲームの専門店をいくつか回り、食事も済ます。
おかしいな、まだ用事を済ましてもいないのに荷物が増えてしまったぞ。
基本的におのぼりさんな俺たちは、この機会ぞとばかり両手に紙袋をいくつも持つような買い物をしてしまったのだった。
「お主ら状況を弁えたらどうなのじゃ」
呆れた物言いで肩を竦めているのはミュジィで、今日は姿を現して同行している。
相変わらずコスプレのような真っ白ドレス姿なのだが、東京の雑踏に紛れている分には不思議と目立たない気がしなくもない。
今日は天気もよく、気持ちがいい。
路上で売っているクレープを食後に楽しみながら歩いているうちに、俺たちは編集部が入っているというビルの前に着いたのであった。
「二階のフロア全部が連撃ゲーム通信の編集部との話よ」
俺たちは会長についていく形でビルに入った。
二階のフロアは、かなり広いものであった。
学校で言うところの教室二つ以上の面積、そこに職員室よろしく机がズラリと並んでおり机の上にはだいたいパソコンが置かれている。
そしてなぜか薄暗い。
もう午後なのに窓という窓にシャッターが掛かっており、日差しが遮断されている。
特に受付のようなものはなく、フロアに居た比較的身なりのしっかりした人に会長が声を掛けた。
「今日これからこちらでお会いする約束をしていた、さーくる三人娘の者ですが……」
はい伺っております、そう言うとその人は奥からワイシャツネクタイ姿の、だけどちょっと頭がボサボサした男の人を呼んできてくれた。ラナドイルグラフティの記事を担当してくれたライターさんだった。
「どうも初めまして、大橋です」
ライターさんが名刺を会長に渡してくる。
会長も、いつの間にやら用意していたのか自分の名刺を渡して挨拶をしていた。
「およ?」
と小首を傾げたのはミュジィだ。
「どうしたミュジィ?」
「なんじゃろうのぅ、あの御仁、なにやら見覚えがあるような、ないような……」
ミュジィは目を細めてライターさんを見ている。
なにを言ってるんだ、と思い俺もライターさんをよく見てみたら、ん、なんだろう、不思議と見覚えがあるような気がした。
「あーっ!」
ミュジィが大声を上げて、ライターさんを指差す。
「わかったぞ惣介、ほれあれじゃ! あのときの! わしが腕を引っ張って客呼びした!」
「あーっ!?」
即売会イベントでミュジィが強引に客引きをして、最初にゲームを購入してくれたお客さん。ライターさんは、その人であった。
「やや、覚えていてくれたんですか嬉しいですね」
ライターさんが俺とミュジィの方に向き直ってボサボサの頭を掻く。
「その節はどうも。あのとき、これもなにかの縁かと思い購入させて頂いたのですが、いやあ想像していた以上の御縁になりましたよ」
「そ、そうですか。それなら俺たちも嬉しいです」
「なんでもあのあと、なにやら凄いパフォーマンスをしたらしいじゃないですか? 残念、僕も見たかったですよ」
それはきっと、リーネが来て暴れたことを言っているのだ。俺は苦笑いで返した。
「皆さんお荷物大変でしょう。とりあえず僕のデスクの上に置いといたらどうですか?」
ライターさんに先導されて、編集部の奥の方へと向かう。
机と机の間を縫うように歩いていると、陰に椅子を三つ並べた上に人が横になって寝ている。早霧がギョッとした顔で背筋を伸ばすと、ライターさんが申し訳なさそうに笑った。
「これはお見苦しいものを。仕事柄、昼夜逆転している人も多いんですよ。でも午後になったから、そろそろ皆起き出すと思うんですけどね」
俺たちはライターさんの机の上に秋葉原で買い物をした紙袋を置かせて貰うと、さらにライターさんに連れられて移動した。
移動した先は、フロアの中でパーテーションに区切られた一角だった。
「ここがゲーム室、スクショできないゲームやコンシューマ機での画面撮影なんかもここでやります」
「おおお?」
俺は思わず唸ってしまった。
家庭用ゲーム機やパソコンが、場所狭しと言わんばかりに置かれている場所だったのだ。
最新のものから古いもの、マイナーなものまで。実に様々なゲーム機が乱雑に置かれている。
あまり整理もされてないのか、ゲーム機の周囲にはゲームのディスクが散らばっていたりして、片付けの苦手なマニアにはなんとなし居心地のよさそうな空間だろう。
「すごいですね! ここの棚にあるの全部ゲームのディスクですか!?」
よく見れば発売前の新作ゲームも無造作に置かれていたりする。
記事を書くのだから当然なのだろうが、いちゲーマーとしては大きな事件だった。
思わず指先がウズウズする。
「ちょっと惣介、なに目を輝かしちゃってるのよ! 遊びに来たんじゃないんだからね!」
早霧が俺を窘めてくるが、早霧だってムズムズしてるのは丸わかりだ。
そりゃそうだ、早霧は俺よりもゲームにのめり込んでるんだから、こんな幸せ空間を目の当たりにして平静で居られるわけがない。
「皆さんやっぱりゲームがお好きなんですねぇ」
ライターさんが親しみを込めた目で俺たちを見た。
「僕なんかも最初ここを見たときは心躍りましたよ、ちょっと遊んでいきます?」
「え、でも……」
早霧が心配そうに会長とライターさんの顔を覗き見た。
「平気平気、遊びながらのインタビューなんてのも乙なもんです」
「ですって、早霧ちゃん」
二人に笑顔を向けられ、早霧は「それじゃあ……」と席に座ってコントローラを握りしめた。「なんだ結局おまえがやるのな!」と俺がブーたれると、ライターさんは「あはは」と笑った。
発売前のゲームをしながらのインタビューが始まったのだった。
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