第14話 早霧のコスプレ
「もー早霧ちゃん、諦めて披露しちゃいなさいっ!」
「きゃーっ!」
会長によって前に押し出された早霧は、肌も露わな水着仕立てのコスプレをしていた。
肩アーマーや腰の剣を見るに、それは戦闘服だ。
ただ、いくつかの装飾以外は身体のラインがよくわかってしまうワンピースの水着。スカートを履いてはいるが、とても短くてむしろその存在が煽情的であった。
「見るな惣介ーっ!」
「ふぎゃっ」
叩かれた。理不尽に叩かれたぞ!?
「見るなって言われても……」
「そーよ早霧ちゃん、早霧ちゃんスタイル良いんだからこれくらいしないと」
「会長の方が断然スタイルいいじゃないですか! なんで私だけこんな格好なんです!?」
「だってそれ正ヒロインのコスだもの? 正ヒロインツンデレだし早霧ちゃん向け」
「早霧はツンデレというよりはツンギレじゃがの」
「なにそれミュジィちゃん?」
早霧に睨まれミュジィは笑った。
「怖いのぅ怖いのぅ」
「もう、知らないっ!」
早霧以外が笑う中、会長がテーブルの下をくぐってブースの中に入ってきた。お金の入った売り上げ箱を覗く。
「んー、三枚くらい?」
売れた枚数を聞いているのである。
「は……、はい」
しょんぼり俯く俺、会長が俺の背中をバンバンと叩いた。
「大丈夫よ惣介君、コスプレ売り子が来たからには売上倍増間違いなし。ここから反撃開始だわ」
「そういうモノですか? 今まで横にいたミュジィの格好だってコスプレに見えなくもないんですが」
「ミュジィちゃんはリーネちゃんほどじゃないけど幼女ぽいし、この会場で求められているテイストとは少し違うのよ。この会場で求められるのは、エロス」
言われて俺はつい早霧の方を見てしまった。
もちろん会長とミュジィも早霧の方を見る。
「な、なんですかぁ?」
うん、エロい。ちょっと目のやり場に困る。
いや困らない。見てしまう。
同級生の、というか幼馴染の、煽情的な恰好は目に毒だ。
だから見てしまう。じーっと見てしまう。思わず目を細めて見てしまう。じー。
「やめてよ惣介、その目」
「いや見ちゃうって」
スカート丈が短くて、微妙に水着の股間部分やお尻の終わりが見えているデザインだ。必死にスカートを引っ張って隠そうとしている早霧の仕草が、またエロい。
「会長殿はエロの天才かのぅ」
「褒めて! もっと褒めてミュジィちゃん」
気がつけば周囲に人が集まっていた。
男性客がたくさん、ブースの前に立った早霧から一定の距離を保ってウロウロしている。 会長の目が光った、ここぞとばかりに会長は宣伝を始めたのだ。
「はーい、現役の女子高生が作った割とエロエロフェティッシュなアドベンチャーRPGでーす! 皆さん見ていってくださーい!」
すると遠巻きに距離を取っていた男たちが一斉に距離を詰めてきた。
「このコスプレはオリジナルですか?」「このゲームのキャラなんですか?」「ください買います、……あ、写真も一枚いいでしょうか?」
波に飲みこまれでもするように男衆の中に埋もれてしまう早霧。
「きゃあああああっ!?」
「ほら惣介君、なにやってるのブースの外に出て仕切って。整列してもらいなさい」
「はっ、はいっ」
かくして「さーくる三人娘」ブースの前に、ちょっとした行列ができた。
俺は列を整理しながら、ちらちらと早霧の方を見る。
早霧はお客さんの求めに応じる形でゲームディスクと見本の設定本を持ちながら写真を撮られていた。
最初こそイヤイヤだった早霧なのだが、お客さんたちのチヤホヤに乗せられてだんだんその気になってきたのか、指定されるがままにポーズまで取ったりしていた。
なんだあいつ、チョロすぎないか?
なんとも言えないモヤモヤが胸の内に広がっていく。
知らない男たちがチヤホヤしている早霧と親しいという優越感も感じるが、それ以上に早霧がときおり見せる表情が、俺の見たことないものだったりして、なんだかムカつく。
俺は大きく頭を振り、フンッ! と鼻で息をした。
「上等だ早霧め、なんか生意気だぞじっくりと見てやる」
男たちの求めに応じてピョンとジャンプする早霧。
ヒラリとスカートが翻って水着が露わになる瞬間に、俺は
息を止めて、早霧の水着姿を凝視する。
どうだ、じっくり見てやった。ざまあみろ。
なにがざまあみろなのだかは自分でもわからないが、俺は列を整理しながらちょいちょい
自分に言い聞かせるように俺は
昼どきを過ぎ、やがて客がひと段落した。
午前中だけで二百枚売れた。これは新参サークルとしては快挙とのことだ。
持ってきていたお弁当をブース内で食べながら、会長が笑った。
「もーほんと、早霧ちゃんのおかげ」
横で椅子に座って食事をしている早霧に目を向ける。
「具体的には、早霧ちゃんのエッチな身体のおかげ」
「そーゆー言い方やめてください」
とはいえ満更でもなさそうだと俺は見たので、ブーブーと言葉通りのブーイングをかましてみたら早霧に殴られた。
「じゃがどうするのじゃ。写真目的が多くてスタッフに注意されてしもうた以上、午後はこの作戦も使えまい」
「そうねぇ、残りあと三百枚。苦しい戦いになっちゃうわね」
どさくさに紛れてフワフワ浮きながらのミュジィに会長が答えた。
そこから三十分ほど、チラホラとくるお客さんにゲームを売る時間が細々と続いた。
その客が来たのは十四時を少し回った辺りだろうか。会場内の人波もだいぶ引いた頃だった。
「こんにちはなのだ! ゲームを買いに来たのだ!」
聞き覚えのある声に、聞き覚えのある口調。
サングラスとマスクに帽子を被った幼女がそこにいた。リーネだった。
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