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最初はこの事態を批判していたメディアも、次第に上向きになっていく世の中の雰囲気に酔っていった。あるワイドショーのアンケートでは、『現在の内閣を支持するか?』という質問に対し、約九割が『支持する』と答える異例の結果が生まれた。また理由として『生活が良くなった、余裕が出た』『お金の心配が減った』『日本の未来に希望が見えた』『金は正義』などなど。国民の生活は圧倒的に豊かとなり、幸福度も増した。またそのワイドショーは『日本の全体絶命のピンチを救った救世主的な内閣、これこそ『異次元の政治』』とはやし立てた。
ワンワン!
沖田が目覚めるとポチの鳴き声が聴こえた。やっと朝日が昇ってきたようだが、まだ薄暗い。どうやらポチは庭で吠えている。沖田は眠い目を擦りながら、庭に出るためにリビングまで移動し、窓を開けサンダルを履く。
「ポチ、どうした?まだ散歩には早いよ、近所迷惑に…」
沖田は違和感を感じた。ポチはなぜか申し訳なさそうな顔をしている、ように見えた。尻尾も下がっている。ポチの鼻の先には、あの砂金が湧き出る穴があった。いつもなら砂金がまさしく温泉のように湧き出ている。今朝はそこから白い、薄いシートのような端が覗いている。沖田は恐る恐る端を摘まんでみた。表面はつるつるとしていて、紙のようだ。試しに引っ張ってみると、ツンッとつっぱる感覚があった。
(土の中に何か…)
沖田はその紙が万が一にも破れないように、ゆっくり慎重に引き上げた。ずるずると引き出されたそれは、例えるならばレシートのように延々と穴から出てきた。昨日まで湧き出ていた砂金の見る影もない。よく見ると、その紙らしきものには何か模様があった。模様は紙全体にある。紙についた土を払うと、そこには見慣れた文字が印刷されていた。
『請求書』
確かにそう書かれている、そう読めた。
(穴の中から請求書?)
しっかりと目覚めていない頭にはなかなか入ってこない内容だ。しかし、その後に続く文章を読むと、沖田の頭は一気にキンキンの冷水をぶっかけられたように冴えてしまった。その文章はこういう内容であった。
・実はこの庭は異次元と繋がっていた。
・たまたま異次元世界にあった金庫に穴が繋がってしまい、それをたまたまポチが掘り当て、保管していた金が流れ出てしまった。
・向こうさんがそれに気づいたときにはかなりの量の金がこちら側に流出しており、ただちに穴を閉じたためもう金は穴から出ない。
・向こうさんは被害額を計算し、特殊な方法を使って、こちらが何にいくらを使ったのかをご丁寧に計算した。
・被害額の計算が終わったので、請求書を送らせていただきます、ご返済はお早めに。
沖田の体は芯から冷えていた。冷たくなり、動きが鈍ってしまった指で件の請求書を引き出し続けるが、それは切れることなく延々に引きずり出せる。いつの間にかポチは室内に入ってしまったようだ。飽きたのか、居たたまれなくなり、この場を後にしたのか…。
沖田は天を仰いだ。
「『異次元の政治』とはよく言ったものだ。本当に異次元から財源を得ていたんだからな。」
…これからは異次元の借金返済が待っている。
異次元財源 蓮村 遼 @hasutera
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