第4話 ある出会い(前編)

N…ナレーター

アサギリ…女性。?

ハルノ…男性。新入社員

ナカノ…オペレーター。お嬢


───────


N

「都内某所、なんてことない普通の街の普通のビル。オーヤマ警護株式会社の前に1人の男が立っていた。少しサイズがチグハグなような新品のスーツに、大きな箱型のリュックを背負い紙パックの野菜ジュースを飲んでいる。

まるで就活中の大学生のような出で立ちで玄関の方を見つめているが、その目つきはどこか呆然としていて、なにか考え事をしているようだった。」


ハルノ

「……いったいいつまで待たせられるんだよ……」


N

「ハルノは昼休み終了時間に玄関で集合と言われていたのだが、もう10分くらい過ぎている。待っているのはアサギリという女性なのだが、どうやら彼女はファーストインプレッションどおりかなりの自由人らしい。

ハルノは初めて顔を合わせた、4~5時間前のことを思い出した。新卒にも関わらず5月末に初出社をすることになったハルノは、最初に通された社長室で直属の上司にあたり、今後チームを組むことになるアサギリとナカノを紹介された。」


オーヤマ社長

「2人とも、入社おめでとう。これから君たちは3人1組でチームとして頑張ってもらう。まあ色々詳細は先輩であるナカノ君から教えてもらってほしい。いいかな?」


アサギリ

「よっ、社長!お忙しいんですね!」


オーヤマ社長

「その通り!こう見えて忙しいんだ。じゃ頼んだよ、ナカノ君」


N

「そう言って社長は足早に去っていった。ハルノにとってこの会社に引き入れてくれたオーヤマ社長は恩人でもあり、顔なじみの仲であった。しかし、大きな体と優しそうな顔、柔和そうな声色の奥には強者の佇まいを感じ、戦ってもたぶん勝てないと感じてしまう何かがあった。」


アサギリ

「ふふ、はじめましてだね、問題児クン。」


ハルノ

「……は、はじめまして」


N

「自分とチームを組むと聞かされていた人達が2人とも女性であったことに不満を抱きつつ、いきなり問題児呼びでウインクをしてきたアサギリに会釈を返した。

アサギリと紹介された彼女は天然なのか、軽くウェーブのかかったもしゃもしゃの黒髪が特徴的だ。だが、ハルノをじっと見つめるその目は蛇のように鋭く、ずっと見ていると吸い込まれそうな、なんかそういう不思議な魔力があった。あと口も蛇っぽいなと思った。なんか長い舌をチロチロしそうなふいんきある。」


アサギリ

「ふふ、同期どうし仲良くやろうじゃないか〜」


N

「そう言うとアサギリはハルノに肩組みをしてきたんだった。自由人すぎる。自分とは絶対に馬が合わないな。とハルノが思わず苦笑したその時、」


アサギリ

「やあやあ、お待たせして悪いね。」


N

「自動ドアが開き、エントランスからアサギリが現れた。なぜかカッターシャツが第3ボタンまで開けきっている。思わず目をそらすと」


アサギリ

「おやおや、紳士的だねぇ。さっきの時間、お嬢と遊びすぎちゃって暑くなっちゃってね。」


N

「照れ笑いをするアサギリの、ピシッとした白いシャツとスーツが体のラインにそって隆起しており、通りを歩く男どもの視線を釘付けにしている。真向かいでおっちゃんが自転車で事故った。」


アサギリ

「おろ、大丈夫かな。」


N

「アサギリは車が来てないことを確認して道路を渡る。それと同時に男どもの視線も追従し、最終的にアサギリを追いかけてきたハルノに集束した。ちっ仲良い男がいるのかよ、と羨望と憤怒が込められた卑しい視線だった。」


アサギリ

「大丈夫ですか〜。よかったらこれ使ってね」


N

「ビジネスバッグから絆創膏を取り出しておっちゃんに手渡すアサギリ。おっちゃんはアサギリには笑顔で感謝を述べて、ハルノを睨みながら自転車で走り去った。

ハルノはもう一度こけろとしんに願った。」


アサギリ

「ふふ、ついてきてくれてありがとうだね。あ、君にも渡すものがあるから〜。」


N

「アサギリはポケットからイヤホンとボタンのようなものを取りだした。」


ハルノ

「なんですかこれ」


アサギリ

「イヤホンは分かるね。こっちはマイクだよ。えりにでも付けておけばいいさ。」


N

「それは警備会社独自に開発された小型通信機だった。ハルノは言われたとおりに装着した。」


ナカノ

「あーあー、聞こえますかー? 」


アサギリ

「はーい、問題ないよー。」


ハルノ

「問題ないです」


N

「イヤホンからオペレーターの声が流れてくる。彼女は社内に残って2人に指示を出す役割だ。」


ナカノ

「アサギリさん、これ以降は勝手な行動しないでくださいね。せめて第2ボタンまでは閉めてください」


アサギリ

「ふふふ、それは出来ないね。第4まで開けちゃう。」


ハルノ

「やめてください!!」


アサギリ

「あはは、冗談だよ。さあ行こう。案内はお嬢、任せたよ。」


N

「 アサギリは第3ボタンまでひらけたワイシャツを堂々と見せびらかせて勝手に道を歩き始める。ナカノとハルノ、ナカハルコンビは大きくため息をついた。きっと、さっきみたいにそこかしこで男どもの視線を集めることになるだろう。」


ナカノ

「あ!アサギリさん!反対です!今すぐ戻ってきて!」


アサギリ

「いいだろ〜ちょっとお茶するだけだから!

お昼休みキミと遊びすぎてご飯食べれなかったんだよ〜!ね、先っちょだけ!先っちょだけ休憩させて!」


N

「めちゃくちゃセクハラ発言しながら勝手に会社近くの喫茶店に入っていくアサギリ。店員に2人と言って通してもらっている。」


ハルノ

「……オペレーターさん。勝手にひとりで行くのはダメなのかな」


ナカノ

「……原則として必ず3人揃ってないと行けないので……今回だけアサギリさんについて行っていただけないでしょうか……」


N

「ハルノはさっき野菜ジュースを飲んでお腹いっぱいにしてしまったことを後悔した。」

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