第3話 ある任務(後編)


N…ナレータ

キナミ…新米。双眼鏡

カタオカ…ベテラン。スナイパー

ナカノ…オペレーター。お嬢

???…???



───────


N「スナイパーの放った弾丸が標的の頭をぶち抜いた。銃弾は左のこめかみから頭蓋骨を貫き頬骨を通り顎の付け根をぶち壊してその下のアスファルトまでえぐる。

交差点のど真ん中にぶっ倒れる標的を見て3人は歓喜の叫び声を上げた。」


キナミ「よっしゃぁい!終わった〜!!」


カタオカ「ふぅ…始末書書かされるだろうな…こりゃあ」


ナカノ「よ、良かった…」


キナミ「え!なに泣いてんですか〜」


カタオカ「ははっ、ナカノ嬢ちゃんは涙脆いんだよ」


ナカノ「言うなぁ!ほんとにどうなっちゃうのかと心配したんだから…!」


N「ほぼ泣きそうなオペレーターをからかい、談笑する2人。ちょっと涙脆いの可愛いな。」


キナミ「あ〜でも気になることがあるぜ」


カタオカ「どうした?」


キナミ「あんたが撃った瞬間、銃声が2つ鳴っただろ」


N「言われてみればそうだ。しかしスナイパーはこの自分が撃ったんだ、手応えも十分あった、これで帰れるんだとでもいいたげに怪訝な表情を浮かべている。」


カタオカ「何言ってんだ。ドタマぶち抜いてぶっ倒れただろう。たまたま力が入ってトリガー握ったとかそんなんじゃ…」


N「そう言いながら下を確認する2人。


だが、


その視線の先には、、、標的が何も無かったかのように立っていた。そこだったか〜やられた〜という佇まいで服についた土を払っていた。」


キナミ「……幻覚?」


カタオカ「いや…違う……もう1発だ。ヤツの拳銃ではここまで届かない。今しかない!」


N「スナイパーはもう一度狙撃するが今度は銃弾を撃ち落とされる。キナミは今更ながら驚きをみせた。」


キナミ「ありえねえだろ…あいつマガジンの補填してねえよ…なんで弾が残ってるんだよ!」


ナカノ「改造でもしてるんじゃないの!」


キナミ「しっかり見てたんだよ!改造はまったく見当たらない…やつが今したことは拳銃を握りつぶしただけだ!」


カタオカ「はぁ?何言ってるんだ!?くそ!らちが明かない!」


キナミ「まったく面白いもん見れましたわ!……こうなったら…下に降りて直接やるしかねえかな…」


N「現場の2人は覚悟を決めたもよう。準備に取り掛かる2人にオペレーターが口をはさんだ。」


ナカノ「……なぁ、何か策はあるのか、、?ワタシは!これ以上は何をやっても成功する気がしない。任務失敗だと思うんだ。1度戻って作戦を─」


キナミ「いやいや、ダメでしょ。こいつ野放しにしたらまじでヤバいって」


カタオカ「安心しろ。俺もキナミも腕っぷしだけでここまできてんだ。お前が心配なのは仲間を失いたくないことだろ、ナカノ嬢ちゃん」


キナミ「えぇお前!、、この仕事でそれはどうなんだよ…」


ナカノ「…ワタシは別に、、日本がどうなろうがとか興味無いもん…冷静に状況を判断して情報を伝える、仲間を守ることがワタシの仕事。ワタシは仲間を守りたい!だから従って!」


キナミ「それはできないねぇ。俺は日本を護りたい」


ナカノ「覗き魔が何言ってんのよ!」


カタオカ「いいさ、こいつはここで始末するしかねぇ。下に降りるぞ…」



N「急いで壁伝いで降りるために垂直降下装置を着用し始める。もうナカノ嬢ちゃんの声は聞こえていないようだ。次の瞬間─


べちゃん!!!


2人の前に、両方の太ももから先を無くした黒い塊が飛び出してきた。ソイツは2人を殺すため、36m下の道路からほぼ垂直に跳んできたのだ。先程は男か女か分からない黒い塊に見えたが今はハッキリと女性だと分かる。」


キナミ「は????」


N「突然のことに驚いて動きを止める2人。上空の衛星から常に標的を監視していたオペレーターは叫び、上司に応援を要請する。

彼女が先程の銃撃戦で弾切れになったはずの拳銃のグリップをぐちゃりと握りつぶすと拳銃は元通りになった。いや…元の形に戻っていくと同時に下で撃ち尽くした銃弾が猛スピードでマグナム部分に戻ってきた。一直線に。屋上の床をぶち抜いて。

そして自分自身の腹をも撃ち抜く。うつ伏せに寝転んだ状態から重力に逆らったようにグルングルンとバク宙をはじめ、飛んできた足の肉の破片たちが元通りに足の形をつくり、スタッと綺麗に着地した。服も靴も同時に飛んできたようで全て元通りになった。」


カタオカ「クッソォオオオオオ!!バケモノめ!!!」



N「スナイパーの最後の言葉はそれだった。彼は急いでスナイパーライフルの銃口を彼女に向けたが先に頭に穴が開いてしまった。ちなみにキナミは「は????」と驚いた瞬間に脳みそを床にぶち撒けられた。絶叫するオペレーターの声。」


???「ふう…やられたね。」


N「倒れた彼らのヘルメットに備え付けられたカメラに彼女が写りこんだところで映像は停止した。」


──────




アサギリ「なるほど?確かに私と同じ声、同じような見た目じゃないか。」


ハルノ「おい、これはどういうことですか」


アサギリ「まあまあ落ち着きたまえよハルノ君。これは私ではないよ。なぜなら私はこの日に生まれたばかりなんだから。」


N「会議室のプロジェクターで映像を見終わった若い男性と女性。並んで座る2人の前にはあのオペレーター、ナカノ嬢ちゃんがいる。」


ナカノ「正直…このビデオを新入社員である2人に見せようか迷いました…でも…」


アサギリ「ふぅむ。いや、見せてくれてありがとうだよ、ナカノお嬢。彼女が私なのかどうか…確認したかったという感じかな。キミも、同期の最後を見て復讐とかする気になったんじゃないのかい?」


ハルノ「同期ったって交流があったわけじゃありません。まだ信用してないですからね。あなたもその子も、この会社も」


N「ナカノお嬢と呼ばれたその子は、『その子』と呼ばれたのを不服そうに頬を膨らませる。見た目は子というのにふさわしい可愛らしい低身長だが、丸いメガネとぴったしの黒スーツ、丁寧に後ろで結ばれた艶やかな髪はお嬢と呼ぶのにふさわしいのかもしれない。」


アサギリ「やはりポニーテールが似合うねぇ。そう思うだろ?」


ハルノ「自分はよく分かりません」


アサギリ「ダメだねぇ。そういう時はお世辞でもなんでも似合ってます、可愛いですと言うもんなんだよ。」


ハルノ「はぁ…もういいです。午後から司令が出てますから、メシ行きます」


アサギリ「つれないなぁ…ナカノお嬢、次はサイドテールにしてみないか?」


N「アサギリとハルノはこれからが初仕事だ。しかし緊張感などは全くない。これから映像の彼らと同じような任務に向かうというのに。アサギリはお嬢を膝の上に乗せるとまた髪で遊びはじめた。」


アサギリ「そうだ、ナカノお嬢。」


ナカノ「…?なに?」


アサギリ「お勤めご苦労様、だね♪」



ある任務 終

カタオカ ■■■■

キナミ ■■■■

両名殉職

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