第2話

 翌日、いつものように学校へと向かう玲華たち。教室に入ると、クラスメイトたちから挨拶の声がかけられる。それに返しながら席に着くと、担任教師が入ってきたため、朝のホームルームが始まった。内容はごくごく普通のものだったが、一つだけ気になることがあった。それは、昨日の事件についてだ。玲華たちの通う高校では、毎年この時期に文化祭が行われることになっている。そのため、昨日起こった事件についてはニュースでも取り上げられており、生徒たちの間でも話題になっていたのだ。だが幸いなことに、今のところはまだ詳しい情報は出回っていないようだった。ひとまず安心といったところだろう。

 やがて午前の授業が終わり昼休みになったところで、再び事件が起きた。なんと今度は、隣のクラスの生徒数名による集団暴行事件が発生したというのだ。しかも被害者の中には女子生徒もいたらしく、かなりの騒ぎになっているらしかった。それを聞いた途端、玲華たちは居ても立っても居られなくなり、急いで現場へと向かった。現場にたどり着くと、そこは既に大勢の人で溢れかえっていた。人混みをかき分けるようにして前の方へと進んでいくと、ようやく最前列までたどり着いた。そしてそこで目にしたものとは……


(こ……これは……!?)


 あまりの光景に言葉を失う三人。無理もないことだろう。なぜなら彼女たちの前に広がっていたのは地獄絵図のような光景だったのだから……その光景を目にした瞬間、彼女たちは絶句することしかできなかった……そして同時に理解する……この学校で何が起こっているのかを……


(まさか……こんなことになっていようとは……)


 想像を遥かに超える事態に、動揺を隠しきれない玲華。するとここで、隣にいた琴音が声をかけてきた。


「ねえ、玲華ちゃん……」

「どうしたの?」

「実はね……今朝のニュースでやってたんだけど……もしかしたら、私たち以外にも被害を受けてる人がいるかもしれないの……」

「えっ!?」

「だからお願い!今すぐ助けに行ってあげて!」

「分かった!行ってくるね!」


 そう言うと、一目散に駆け出していく玲華。残された琴音は、一人その場に立ち尽くしていたのだった……




 一方その頃、生徒会室で仕事をしていた生徒会長の西園寺静香のもとに一通のメールが届いた。その内容を見た彼女は驚きのあまり思わず声を上げてしまった。というのも、それは今までで一番衝撃的な内容だったからだ。

 その差出人は『佐藤さくら』となっていたのだが、その名前を見てすぐにピンときた。というのも、彼女には心当たりがあったからである。

 それは以前、自分が所属していた部活動の後輩にあたる生徒の名前だった。ちなみに彼女は現在テニス部に所属しており、その実力はなかなかのものらしいのだが、そんなことはどうでもいい。問題はなぜ彼女がこのようなメッセージを送ってきたのかということだが、それについて思い当たる節がないわけではなかった。

 というのも数日前に、生徒会宛にある人物からの届け物があったのだ。それを受け取った後、念のため中身を確認してみたところ、中には大量の手紙が入っていたのだ。その中にはびっしりと文字が書かれており、全て読むだけでも大変だったほどだ。だがその中で特に目を引いたものが二つあった。

 一つは新聞の記事を切り取ったものと思しき紙切れであり、もう一つは一枚の写真であった。どちらも同じ封筒に入っていたことから考えるとおそらく同一人物から送られてきたものなのだろうが、どちらにも共通して書かれていた言葉が気になり調べてみることにしたのである。その結果、一つの結論へと辿り着いた。


(これは間違いなく脅迫文だわ……)


 そう確信した私は、さっそく警察に連絡することにしたのだった……




(やっぱりそうだったんだ……)


 自分の推測が正しかったことを確信し、複雑な心境になる桜木。そんな彼女の元に一人の女子生徒がやってきた。彼女は桜木の隣に立つと言った。


「それで? 話って何かな?」

「……はい、実は私と一緒に来てほしい場所があるんです」

「それってどこ?」

「それは着いてからのお楽しみということで……」

「……分かったわ」


 そうして二人は歩き出した。目的地へと向かって……


 しばらくして到着したのはとある一軒家だった。どうやらここが彼女の言う目的地らしい。一体こんなところに何の用があるのだろうか……?

 そんなことを考えながら中へ入ると、そこには信じられない光景が広がっていた。なんとそこには多くの少女たちがいたのである。それも皆自分と同じ制服を着ていることから察するに、どうやらここの学生のようだ。そんなことを考えているうちに、いつの間にか奥へと案内されていたようだ。

 そこで見たものは驚くべきものだった。何故ならそこには巨大なモニターがあり、そこに映っていた映像を見た瞬間、心臓が止まりそうになったからだ。何とそこには二人の少女が映っており、そのうちの一人は見覚えのない少女だったが、もう一人の方はよく知っていた。いや、正確に言えば知っているどころの話ではない……彼女は桜木と同じ生徒会に所属する後輩なのだ……名前は確か……西園寺静香といったはずだ……つまり今目の前で起こっていることは、まさに現実の出来事ということになるわけで……それを理解した瞬間、全身から血の気が引いていくのが分かった……と同時に激しい怒りが込み上げてくるのを感じた……どうして私がこんな目に遭わなければならないのか?……納得がいかなかった……だが今はそんなことよりも目の前の状況を理解することの方が先決だ……そう思い気持ちを落ち着かせるために深呼吸を繰り返すと、改めて画面に目を向けた。

 どうやら撮影者はカメラマンのようで、どうやら動画を撮っているようだ。一体何のためにこんなことをしているのか分からないが、とにかく続きを見ることにする。

 画面に映っているのは二人の姿のみで、他には何も映っていなかった。恐らく第三者の姿はないのだろう……そう思った矢先のことだった……突然二人が服を脱ぎ始めたかと思うと、下着姿になったところで動きを止めてしまったのだ。これにはさすがに驚いたものの、気を取り直して再び観察を始めた。すると次の瞬間、さらに驚くような出来事が起こったのだ。

 何と二人がキスを始めたのである! 最初は軽い口づけだけだったのだが、徐々にエスカレートしていき舌を絡め合う濃厚なディープキスになっていったのだ!

 突然のことに呆然としていると、今度は別の人物が姿を現した。その人物は静香の友人である西園寺玲華という子なのだが、彼女もまた制服を脱いで下着姿になると、そのままカメラの方に向かって歩いてきたのだ。どうやら録画しているのはこちらの方らしく、こちらに向かって歩いてくる彼女の姿がしっかりと記録されていた。やがて目の前までやってきた彼女は言った。


「こんにちは」

「こ……こんにちは……」


 戸惑いながらも挨拶を返す桜木に対し、続けて彼女は言った。


「初めましてですよね?」

「……ええ、そうね」

「そうですか……それなら良かったです!」


 笑顔で答える彼女の様子に違和感を覚えつつも返事をすると、続いて質問された。


「あのー、もしかしてですけど先輩って処女ですか?」

「……えっ!?」


 いきなりの質問に面食らってしまう桜木だったが、何とか平静を装って答えた。


「そ、そうだけど……?」

「本当ですか! やったぁ!!」


 大喜びする彼女に困惑する桜木だったが、ここで更なる疑問が浮かんだため思い切って尋ねてみることにした。


「あ、あのさ……さっきから気になってたんだけど、これって何の意味があるの?」


 すると彼女はこう答えた。


「意味ならありますよ。だって先輩が私のものになるんですから♪」


 その瞬間、背筋に悪寒が走った。この子は何を言っているのだろうか?

 訳が分からないまま固まっていると、再び話しかけてきた。


「ねえ、先輩。私とエッチしましょうよ!」


 そう言いながら迫ってくる彼女に対して恐怖を感じた桜木は、咄嗟にその場から逃げ出した。そして近くにあった窓を開けると、そこから外へ飛び出したのだ。幸いなことにここは二階だったので怪我をすることはなかったのだが、着地の際に足を挫いてしまったらしく激痛が走る。それでも我慢して立ち上がると、痛む足を引き摺りながら必死で逃げ続けた。だが、どこまで行っても終わりは見えなかった。


(誰か助けて……!)


 そんな願いが通じたのか、前方に人影のようなものが見えた気がした。目を凝らしてみると、確かに誰かが立っているのが見えたので、慌ててそちらに向かうことにした。近くまで行くとそれが誰なのかはっきりと分かった。それは同じクラスのクラスメイトで友人でもある高坂琴音だったのだ。彼女はこちらに気づくと声をかけてきた。


「あれっ!? こんなところでどうしたんですか?」


 不思議そうに首を傾げる琴音に事情を話すと、すぐに病院へ連れて行ってくれたのだった。そこで手当てを受けた後、ようやく落ち着きを取り戻したところで、琴音が聞いてきた。


「そういえば桜木さん、さっき何か言いかけてませんでしたか?」


 その言葉にハッとする桜木。危うく忘れるところだったが、先程起こった出来事について伝えなければならないことを思い出し、意を決して話し始めた。

 話を聞き終えた琴音は驚いていたようだったが、同時に納得したような表情をしていた。それは玲華も同じようで、しきりに頷いている。そんな中で一人だけ浮かない顔をしている者がいた……もちろんそれは桜木である。というのも彼女はまだ完全には信じていなかったからだ。あんな作り話をされて信じる方がどうかしてるというものだ。それに仮に本当だとしても、何故自分なのか全く理解できないというのが本音だった。何しろ自分は普通の女子高生に過ぎないのだから当然である。そんな彼女の考えを見透かしたように玲華が言った。


「安心してちょうだい。私たちが必ず犯人を突き止めてみせるから!」


 自信満々に宣言する玲華だったが、その自信がどこから湧いてくるのか不思議でならなかった。だが今は彼女たちに任せるしかないだろう。こうしてこの日は解散となったのだった。

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