森の中
「あったぬき」
「いやあれはハクビシンっすね、害獣です」
夜中の田んぼ道、そこに高橋と不知火はいた。
家々が並ぶ街の外、田んぼの通りを二人は歩く。
人影というモノは一切ない、夜中だというのもあるが、聞こえるのは害獣と虫の音だけだ。
"心当たりがある"という高橋の元、二人は郊外まで出歩いていた。
ビジターが出現するのは比較的街に近く、かつ人気の無いところという盛大に矛盾した場所だ。
であるならば、人気が無く、かつ普段からでも人が出ないような場所ならば?という高橋の推測の元、彼らはやってきた。
「それで……例の異形——異能力者を見つけたら、どうすれば?」
特に何も考えず、歩き続けた高橋が不知火に問う。
「これを使うわ」
差し出されたのは、スタンガンだった。
バトンタイプの、結構なリーチがあるタイプの奴だ。
「……電気で失神させると?」
「いや違うわよ、これには異能が込められててね、当てた人間を気絶させれるのよ」
だからまずは、それで対話に持っていく、と。
「なるほど、これも、吉田さんが?」
「えぇ、彼便利ね」
こういった異能が込められた物体は全て吉田作成の特殊なアイテムだ。
ただ、異能力者がこういった物を使うのは非常に珍しい。
そもそも異能力者にとってはこんなものはただの代用品に過ぎない。
一々道具を取り出し使う手間を考えれば自身の異能を使った方が手っ取り早いからだ。
だかラこういった物は基本無能力者向けである。
「ほら、あなたにも」
「ありがとう」
はい、差し渡されるスタンガンを受け取り、ポケットに突っ込む。
若干歩きにくくなったが、気にせず歩く。
(刀とスタンガンの二刀流……かっこいいか?)
身近な二刀流として霧生を思い浮かべるが、なんか似合わないな、と高橋は頭を振った。
そうして歩くこと数分。
「この先に、森があるの?」
「いやまあ、森というには規模は小さいんだけども……」
町はずれの田んぼ道には、稀にだが木が密集した場所がある。
高橋が言っているのはそこになる。
何故そんな場所があるのか、理由としては幾つかある。
単純な土地代や近隣住民との問題、あるいは"信仰"等による宗教的理由や土地の所有者が不明なため手だしできなくなった、等々。
高橋たちが向かっているのも、そういった理由で手出しできなくなった場所の一つだ。
「……ここ?」
「の、はず」
高橋と不知火が止まり、森を見上げる。
規模としては普通の田んぼ四つ程、そこそこの面積だが、かといって大きいわけでもない。
しかし、何かが隠れるのには適しているだろう。
誰も手入れせず――あるいはできず、何年も何十年も放置された場所だ。
木々が好き勝手成長し、草も伸び切っている上虫がぶんぶんと飛び回っている。
少なくとも常人ならば入りたいと思わないだろう場所。
更には異能も使えば、隠れるのにこれほど適した場所はない。
「…………ここに、入るの?」
あからさまに嫌な声色、横目に見れば顔は引き攣っている。
「……いやまぁ、あくまで可能性の一つとしてあげただけなんで……」
無論高橋とてこんなところに好き好んで入りたいわけではない、むしろ入りたくない。
伸びきった草に木の枝、入るだけでただの服ならばズタズタに裂かれ怪我をするだろう。
更には夜ということで若干の恐怖と、何よりも虫が恐ろしい。
「………………よし、入るわよ」
たっぷり数分悩んだ後、二人は覚悟を決めて中に入る。
入り口らしき場所はないため、草木に覆われた場所を無理やりに押し入る。
「——」
保護メガネでも持ってくればよかった、と二人は同時に後悔する。
圧倒的な虫の群、口を開けば虫が口に入りそれはもう大変なことになるであろう。
予想していた草木による傷は異能に目覚めた影響か、体が強靭になっていた為傷一つ負ってはいない。
衣服の部分はヴァリアント支給の対ビジター用の服だ、軽く破けるものではなかった。
森、とは言うが規模は非常に小さい。
約十五分ほどで二人は中心にたどり着く。
ここまで時間が掛かったのは虫を避けたり草を避けたりしたからだ。
更には夜という月明りしかない中ではただ歩くのすら苦労する。
「……何かしら、あれ」
最初に、不知火が気づいた。
すぅっと、不知火が炎を生み出し操作する。
草も虫も木も酸素も燃やさない炎という物体は灯りとして機能し、暗闇を照らす。
「……神社?」
小さい神社だった。
鳥居すらない、小さな神社。
何年も人の手が入っておらず、植物が神社を侵食している。
――はぁ、はぁ、はぁ
声が、聞こえた。
動物などではない、明らか人間の声。
二人は顔を見合わせ、神社に近づく。
――ガシャン、と神社が吹っ飛んだ。
高橋は「は?」間抜けな声を出し、木片となった神社を見上げる。
降り注ぐ寸前、不知火の炎が木片を消し炭にし、防御する。
「GE、GA、GAA」
現れたのは、昨日見たのと同じ異形。
ただし口が裂け、涎をだらだらと垂れ流し、目は正気を失いぐるぐると回転している。
「——やるわよ」
「おう!」
今ここに、高橋にとっては初めての、
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