遭遇

「暇ですね」

「そうだな」


 夜の街を霧生さんと歩く。

 人目に付きそうにない所を歩くからか、人には全然合わない。



「しっかし、こんな町中に湧くモノなんですかね?」

「予言は絶対だ」


 本日の俺の任務は街に出てのビジター退治。

 ちなみに相方はもう言うまでも無いが霧生さんだ。

 仮面を着けて剣を二つも背負った大男とまだ若いジャージの男二人組という職質待ったなしだが問題はない。


「ここだな――構えろ」


 すっと、霧生さんが剣を構えるのに合わせて俺も刀を生成する。

 ちなみに霧生さんの剣は異能とか関係ない、現代技術の詰め合わせ剣に過ぎないらしい。


 異能『剣術』

 剣を持つことで機能する異能。

 その効果は名前のとおりであり、剣の異能。

 単なる剣道等の剣術に収まらず、鋼鉄だろうが持っているのが『剣』に分類されるのならば木刀でだって斬れるというイカレ性能の異能。

 真価は剣が持つ最大にして唯一の能力である『斬る』という力。

 何でも最近鍛えすぎて空間も斬れるようになったらしい。


 どぼり、と無から闇が噴き出す。

 地面から這い上がるようにドロドロに溶けたかろうじて腕とわかる何かがはい出てくる。

 腕が地面につき、力を込めて這い上がる。

 力を入れすぎたのか地面が陥没し、その全貌が明らかになる。


 全長お凡そ三メートル程の巨体。

 左右合わせて四つ、右腕左腕が交互に存在している。

 黒い肌の人型の異形。顔は人間のモノだが突き出た牙と頭部から生える角が異形の者——ビジターであることを証明している。


「ウォォォ!」


 人の様に大声を上げ、その手を振り上げ――


 ――おろす前に、第三者によってその手は


 は、という俺と霧生さんの声が重なる。

 何が起こったのか、判断が付かない。

 呆然とする俺を掴み、霧生さんが後ろに飛ぶ。


 そのまま片手で後ろに放り投げだされ、尻もちをついてしまう。


 何があったんだ――そう思ってビジターを見れば、そこにはもういったいの化物が。

 造形は人間に近い。

 例えるならワニだろうか、それを直立させ人の手足を生やしたような異形の姿。

 背中からは蝙蝠のような翼が二対生えている。

 頭部は無理やり爬虫類を人型に歪めたようであり、また眼球が複数――左右合わせて六つという複眼。

 全身は黒い鱗に覆われた異形。

 フィックションによくいる竜人、或いは蜥蜴人間——それが新しい異形の正体。


「下がってろ」


 霧生さんがもう一つの剣を抜きながら俺に言い聞かせる。

 単なる戦闘の筈がどうしてこうなったと嘆きながら刀を生成、杖代わりにして立ち上がる。

 しかし異形はこちらを視認することなく、ビジターにかかりきりだ。


「GOGAGOGEKGAO!」

「ヌギョオオオオ」


 ビジターが叫び、腕をぶんぶんと子供の様に振るったり、複数の腕で殴るが異形は少しも動かない。

 その強靭な顎で腕を喰らい、手足の爪でビジターの体に引っ付き捕食している。

 殴られようが地面にぶつけられようが気にせずただひたすらビジターを食い続けている。


「狂ってやがる……!」


 見れば鱗が剥がれたり血がでていたりするが……異形はそれを気にせずひたすらビジターを食い進める。

 そのまま数分、存在の維持ができなくなる程食われたビジターは灰となる。


「GOGO」


 ずずず、地面を舐めて灰もを喰らう。


 かはぁ、という人のようなため息とともにこちらを向いてくる。

 ……あっこれ死んだ?

 なんか手をあげてるし、腰を低く構えてきたしあっこれ死んだわ。


 ぎりぎりで刀を構え迎撃しようとするが――


「GOGGBE」


 異形は俺の真横——本の数センチ横を進み、空へと飛んで行った。


 ……なんだったんだあれ。


「おい、胸」


 霧生さんが剣を収めながら胸を刺してくる。

 何かあったのか、と視線を下げれば胸が光っている。

 思い当たる節があるので刀を消し、胸に手を突っ込み光っている物を取り出す。

 そして光るネックレスを見つめること数秒。


「……マジ?」


 不知火さんから『学校で光るかもだから持っておいて』と渡された異能力者探知用のネックレス――それが強く、強く光っていた。

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