日常回帰
あれから一ヵ月。
施設内でたまにパトロールに赴いたり剣道やったり異能について調べたりした後、俺は無事に元の生活に戻ることができた。
ガラり、と少し懐かしい扉を開ける。
何人かが注目し、「あ」という少々間抜けな声を漏らす。
それを聞いた者がまたこちらを向き、同じように声を漏らし、凝視してくる。
その視線を頑張って無視し、懐かしい自分の席につく
「よぉ、久しぶりだな」
「おっひさー」
その軽い言葉で、会話が始まる。
まぁ内容はよくある、「入院どうだった」だの「エロい看護師はいたか」などの男子高校生らしい内容だ。
うーん、ヴァリアントでの会話と比べてギャップが酷い。
しかし学校に来るのも随分と……と言っても一月ぶりだ。
約一ヵ月、訓練したり異能の研究をした結果。
『特に危険性ないから元の生活戻っていいよ』というウォードさんの一声で、俺は元の生活に戻った。
まぁ元が学生だからな、勉強しないといけない。
実質内定決まっている状態だが勉強は大事だからな。
そして俺は事故にあっていた、ということになっていた。
下手に病気にするよりも楽だろうし。
ちなみに面会断絶、友人は勿論親でさえも会うことはできない状態だった。
そこら辺はどうしたのかわからないが、久しぶりに家に戻ったら親には心配されなかったとだけ。
いや母には心配されたが父には「おうおかえりー」と軽く返された、心配しろや親父。
そんでもってヴァリアントの仕事だが……これは『アルバイト』ということになった。
うちの学校がバイト禁止じゃなくてよかった。
まぁバイト、という体で給料とか振り込まれるが、普通に深夜勤務だ。
通常未成年の深夜勤務は法律違反だが、そもそもやってるのが国家運営の組織だから法律もクソもないというね、少し前に話題になったブラック企業ならぬブラック国家?
時給は千五百円。
一日大体四時間ほどらしいから日給約六千円で~週三だから……雑に考えて六、七万?
「高橋ーー、この問題解いてみろー」
…………えっ六万?
好きなゲームとか買いたい放題……ていう訳だけど。
別に買いたいゲームねぇんだよな。
「おい高橋——?聞いてるか――?」
漫画もないし、菓子類もそう買わない。
じゃあ何を買うかと言えば……まぁ参考書とか?
まぁ、将来の貯金と考えれば……
「おいこら高橋!聞いてるのか!」
突如叫び声をあげられ、びくっと体が震える。
「すんません!聞いてませんでした!」
下手に言い訳する余暇マシなので素直に謝罪する。
「まったく、久しぶりの学校生活だからって気を抜くなよー……じゃあ不知火、答えてみろ」
「はい」
……普通に不知火さんが学校に馴染んでいらっしゃる。
そりゃそうだ、俺が一ヵ月引きこもりしてる間不知火さんは普通に学校に通っていたんだから。
■
「ちょっといい?」
放課後、帰る支度をしていた俺に不知火さんが話しかけてくる。
見れば何人かが不知火さんに軽く挨拶をして先に帰って行っている。
……たった一月で馴染みすぎじゃないですかね。
「話したいことがあるのだけど」
そう言われ、カバンに教科書等を詰めて立ち上がる。
教室から出ると同時に、不知火さんから話しかけられる。
「私がここに転校してきた理由なんだけどね」
話ながら、廊下にでて歩き始める。
……不自然に人がいない、不知火さんが狙って人がいないところを歩いているのか、何かしら異能を使っているのだろうか。
「この学校に異能力者が私たち除いて五人程いるの」
「……マジ?」
「マジの大マジ、だから私が来たの」
目的は二つ、『異能力者の保護』ともしもあるのならば『異能を目覚めさせるようなモノ』の発見。
前者は言わずもがな、まぁ俺も発見されたし。
後者はあるかどうかもわからない。
単にたまたま運がいいのか悪いのか異能に目覚めたのがこの学校に集まっただけか、第三者の介入で意図的に異能に目覚めたのか。
ただこれほどの異能力者がいるというのは前例のないことらしく、上層部は『異能を目覚めさせる何かがあるのでは』と疑心暗鬼になっているとかなんとか。
余談だが、この異能力者数は例の予言者によって分かったらしい、便利だな予言。
そうして話ながら歩けば、体育館裏に着く。
しかしこんなところに何の用があるのだろうか。
「ちょっと、異能を使ってみてもらえる?」
「ん、了解」
人の気配もないため手に刀を生成する。
そのまま何も起きず数分。
「……何も起きないわね」
「なんもないっすね」
流石にそろそろ人目に付きそうなので刀を消す。
これ何処に消えてるんだろうか。
「で、不知火さんこの行動の意味は?」
「そうね――数日前、とある男子生徒が『消えた』のよ」
「……消えた?」
「そ、突如として、ね……最後に目撃されたのがここだったのよ」
「刀を作った意味は?」
「……所長曰く『ワンちゃん探知系の能力あるかもだから連れてけ』とのこと」
「ヴァリアント側に探知系いないの?」
「ん-、こういうことができる探知系の異能力者はいないわね……千里眼持ちならいるんだけど」
千里眼はいるんだ。
「異能で消えたかビジターに消されたか……詳細はわからないけど、まぁ覚えておいて」
「了解……ていうか、異能力者はどうやって見分けるの?」
「ああ、それはこれで」
胸からペンダントを取り出し、見せてくる。
青い雫……だろうか。
形的に童話の涙にも思える。
「それは?」
「異能力者探知のネックレス、といっても正確には
「あー、なるほど……それで探索と」
便利な物もあったモノだ、そう呟く。
――しかし知らぬ間に学校は随分と物騒になったモノだ。
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