第10話 施設を歩くぞ

「……そろそろ気分転換でもしましょうか」


 今は部屋でお勉強中。

『一ヵ月もの間、学生が勉強しないのは駄目』ということで、俺は只今不知火さんと勉強中だ。

 ちなみに自習、手取り足取り教えてはもらえない。

 ガッデム。

 だが、意外とこの自習が楽しい。

 前ならわからない問題が、すらすらと解ける。

 英語も社会も数学も、これまでは予習復習としなければ覚えられないようなことをススっと覚えられる。

 これも異能に目覚めた影響なのだろうか。


 朝、適度な運動——と言っても数回刀を振るっただけだが、それが聞いたのかもしれない。


 そんなことをボーと考えていると、ビービーという機械音に意識を戻される。

 見れば不知火さんの携帯電話のアラームが鳴り響いている。


 ぴっと、携帯電話を弄り停止させる。


 直ぐに教科書を片付け、不知火さんが立ち上がる。


「あれ、もう終わるの?」


 チラリと壁につけられた時計を見れば時刻はまだ昼の二時過ぎ。

 おやつの時間にもまだちょっと遠い時間だ。


「ずっと勉強ばかりじゃ、疲れるでしょ?……ちょっと、施設を散歩でもしたら?」




 ■


 何も考えず、施設内を歩く。

 するとまぁ、当然の様に休憩室に付く。

 そこにいるのは……


「……なんだ?」

「あー、いえ……」


 仮面を着けた人だった。

 何だろう、この人。


 仮面付けてて顔がわからないし、身長俺より高い――俺が百七十四だから、それ以上か。

 ていうか剣を二つも持ってるし、休憩室でなんで持ってるんだ?


「俺は高橋って言います……あなたは?」

「……霧生だ」


 話は終わりだ、と視線をスマホに戻される。

 コミュ障か、おい。


「ちょっとちょっと!もっとお話ししないと駄目でしょ!」


 ブーン、という虫の羽音にも似た音を鳴らしながら、ドローンが喋りだす。

 ……えっ、ドローン?


「む……だが」

「だがも案山子もないでしょ! あ、ごめんね!この人ったら不器用なもんで」


 ドローン。

 直径25センチほどの、バスケットボールより大きい程度のサイズ。

 そこから四つのプロペラが生え、高速回転し浮遊している。

 下部には六本足の蜘蛛のような足が付いており、悪路でも難なく踏破できそうだ。

 前方にはカメラとマイク、スピーカーが各種一つずつついている。

 ただ……カメラの横に蟹みたいなハサミが二つ付いている。

 ロボットアームという奴だろうか、ただ箸みたいに細いのでパワーはなさそうだが。

 というか物理法則何処行った、上に下に斜めにと慣性の法則に喧嘩売ってるぞこいつい。


「あ、あなたは?」

「あ、私ったらごめんなさい!自己紹介がまだだった!

 え~と……私は理恵りえ!よろしく高橋潤君!」

「よろしく……て、フルネーム?」


 下の名前は言っていないはずだが。


「んふっふー、そこは理恵ちゃんのお力!私の異能でなんとこの『ヴァリアント』のシステムは成り立ってるのだ!

 だから潤君の名前も力もあ~んなこともわかるってわけ!」

「……へー、そりゃすごい」


 なんだろう、凄く子供っぽい。

 言動があれだ、親戚の子供そのものだ。

 ゲームとかでボスについて話す子供というか……幼すぎる。

 話し半分に聞いた方がいいかもしれん。


「……一応言っておくが、こいつの言ってることは本当だぞ」


 はぁ、とため息を尽きながら霧生さんが言う。

 えっマジ?


「ヴァリアントのシステムは前から出来上がってたらしいが、それを完成——まぁ正確には六割ぐらいらしいが、そこまでもっていったのはこいつの異能というわけだ」


 六割?!

 六割ってやべぇな、この理恵ちゃんの力が凄いかヴァリアントが凄くなかったのどっちだ?


「てことは、このドローンもその異能で?」

「ああ……こいつの異能は『機械操作』機械なら何でも操れるって力だ」

「そう!このドローンちゃんも私が操ってるのだ!」


 ああ、だから物理法則無視してるのかこのドローン。

 異能性ならこんな挙動しても可笑しくないしな。

 しかしはて。

「あれ、じゃあ理恵ちゃん本人は?」


「…ひ み つ!あ、そろそろお兄ちゃんに会いに行く時間だから!じゃぁねー!」


 ぶーん、とドローンは飛び去っていった。

 霧生さんが兄というわけではないのか、というか兄がいるのか。

 だが、最後一瞬返答に遅れたのは何だろうか?


「おい」


 頭を悩ませようとすると、霧生さんから声がかかる。


「あまりあいつに……理恵に関わるな」


 それだけ言い残し、霧生さんは休憩室から出て行ってしまった。

 ……過保護な保護者かな?






 ■


「夜だな」

「……言われなくてもわかるんだけど」


 夜。

 俺と不知火さんは廃墟に転移してきた。

 目的は言うまでもなく、ビジター退治だ。

 といっても前回のように最初からいるわけではなく、半分パトロールのようなものだ。


 ビジターが現れるのは決まって深夜。

 そして出現するのはこういった都市かつ人気の無いところ。

 路地裏とか地下、下水道や廃ビル等々……そういった場所に出現する。

 そして現れては人里に向かい人を襲う。

 道中異能力者が存在すればそっち優先で襲う、とのこと。

 昨日のはヴァリアントの予言系能力者の予言でいつ何時出現するかわかっていたという。

 ただその予言も本人も制御不可能らしく、何時予言できるかわからない。

 ……まぁ的中率100%の予言として考えれば凄まじいが。


 しかしまぁ。


「暇だな」

「……暇ねぇ」


 夜の見回り。

 ただただ歩き、ビジターが現れないか歩き回るだけ。

 ビジターが現れれば戦いもするが……現れなければ暇なだけである。


「うーん……こういうので戦うのって、どれくらいの頻度なの?」

「そうね……だいたい三回に一回ぐらいかしら、そこまで高頻度で出現するわけでもないし」

「意外と多い……いやすくない……?」


 警備で戦闘が発生する、と考えればまぁ多いが、ファンタジーに考えれば少ない。

 これが現実という奴か……!


「——待って」


 ぴたり、と不知火さんが足を止める。

 何かあったのか、その手から炎の塊を出し前方に動かす。


 炎に照らされ、映るのは。


「……死体?」

「ビジターの、ね」


 灰となったビジターの死体。

 正体はそれであった。

 元は人型だったのだろうビジターは灰となり、風か何かに煽られ飛んで消えていく。


「この灰どうするの?」

「放置ね、回収しても勝手に消えるから」


 なんと便利な、そして不可思議な。


「けど妙ね……今日、ここの見回りは私たちだけのはず」

「他の人が倒したって言うことは?」

「あるかもだけど……その場合は私たちにも連絡が来るわ」


 そう言ってスマホを開き、連絡アプリを開く。

 今日出発前に入れられたアプリを念のため俺も開くが、内容は不知火さんと変わらない。

 余談だがこのアプリほんとに今日入れられて昨日は無かった。

 何かあったらどうするつもりだったんじゃボケ。


「まぁ、勝手に倒されるなら……」

「——よくないわよ……これをやったのが異能に目覚めた犯罪者の可能性もあるから……要警戒ね」


 なにそれ怖い。


 こうして初のパトロールは謎の存在が発覚するだけに終わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る