第6話 歴史
「いろいろあったなぁ……」
ぽすん、とベッドに身をゆだねながら呟く。
思ったより疲れていたのか――異能を使って疲労したのかわからないが、体はぼとぼとだ。
気を抜けばすぐに眠ってしまいそうな頭を動かし、考える。
明日からどうすればいいのか、とか家族になんて言えばいいのか――とか。
色々考えて、考えて。
足りない頭を使い続けていたら――眠ってしまった。
朝、玄関を開けたら美少女が待っててくれる――全男子高校生の夢だ。
夢と言えば今朝変な夢を見た気がしたが特に着せず準備を進め、チャイムと共に玄関へダッシュすれば不知火さんがいる。
「おはよう、高橋君」
「おはよう、不知火さん」
「じゃあ、行きましょうか」
おう、と軽く返事をしついて行く。
歩いて向かう先は食堂だ。
朝、起きたばっかだが体に不調はない。
一昨日、めちゃくちゃに走り回ったはずだが筋肉痛もなく、普段通りに動ける。
数分、特に話すこともなく食堂にたどり着く。
「おぉ……」
食堂には何人か先客が居た。
昨日会った吉田さん、見たことない女の人、仮面を着けて背中に剣っぽいのを二つも背負った人……銃刀法何処行った。
そして眼鏡をかけた男性に、それに付きまとうドローン。
うーん、情報量が多い。
「……どうしたの?」
先に座っていた不知火さんがせかし、慌てて座る。
「そういや、注文どうするの?」
見る限りカウンターも食券機もないが、どう注文するのか。
「ああ、タブレットでできるわ」
そういって。席からタブレットを取り出す。
備え付きの置くだけで充電できる奴だ。
「ほら、こうやって」
横のボタンを押せば、注文できるメニューが表示される。
基本的な洋食に和食だ。
「これ以外にも……ほら、ここで検索すればできるわ」
すっと、指を動かして注文画面を開く。
なにこれすげぇ!
「すげぇ、流石異能を操る施設……!」
「……言っとくけど、このシステム異能関係ないからね」
「えっマジ」
異能無しでもこんなのできるんだなぁ、とちょっと感動しながら注文を完了する。
不知火さんは和食、俺は洋食だ。
「しかし、こんだけ広いけど……利用者少ないんだな」
「ま、朝早いからね……規則正しい生活してる人の方が少ないのよ」
「oh……健康に悪そうな……」
「ところが、そうじゃないのよ――異能に目覚めた者は体が変質してね、多少の無茶ができるようになるの」
「ふむ、というと?」
「三日三晩飲まず食わず睡眠しなくてもよかったり、骨折が一ヵ月ぐらいで治ったり……てところね」
「そりゃすげぇ、俺もそうなるのか?!」
「うーん、それはわからないわ……そこら辺、個人で差があるから」
「そっか……」
そんな話をしていると、料理が運ばれてくる。
はこんで来たのは昨日見たロボットだ。
何故か胸のタブレット部分が左右に割れてアームが伸び、料理を運んできている。
腕の部分は変わらず銃のままだ。
だから銃刀法何処行った?
「オマタセシマシタ」
と、機械が喋る。
お前喋るんか。
しかもアームが動いて自動的に配膳してくれる、あら便利。
トレーに乗せられた料理は出来立てなのか、湯気立っている。
配膳された料理を前に、手を合わせる。
「——いただきます」
「いただきます」
味は――美味い。
ファミレスよりは美味いが、高級料理店には劣る……ぐらいだろうか。
ただ、どんな料理も頼めばできるのはすごいな。
「んで、俺は今日何をすればいいの?」
能力の検証でもすればいいのだろうか。
「そうね、今日は歴史の勉強かしら」
「……歴史?」
「そう、私たちがやってきたことや、これからやることとかね」
「ほうほう」
「後はこの施設とか……その他もろもろ、昨日教えれなかったことね」
「了解!」
元気よく返事をし、朝食を食べ終わる。
トレーを持って立ち上がろうとするが、不知火さんに止められる。
「ああ、トレーは放置でいいわ……勝手に機械が回収してくれるから」
……ほんとに便利だなここ?!
■
朝食を取った後、それぞれいったん部屋に戻ることになった。
まぁ、飯食っただけだしな……
そして不知火さんが部屋に来て、直々に教えてくれるとのこと、やっほい!
変じゃないだろかとせめてものお洒落で私服から制服に着替え、歯磨きをし念入りに顔を洗う。
やることもなく、リビングの椅子に座ると間もなく音が鳴る。
ピンポーン、とチャイムの音だ。
座っていた椅子から飛び上がり、扉までダッシュで駆け抜ける。
ドアを開ければ、そこにはバッグを持った不知火さんが。
格好は朝と変わらないジャージだ。
「ど、どうぞ……」
昨日寝ただけの部屋だが、一応は俺の部屋として割り当てられているので少し緊張する。
まるで自分の家のように迷いなく不知火さんは進んでいく。
昨日ここに来ただけで覚えたのか、不知火さんもこの施設の部屋に住んでるのか。
ちょっと気になるが聞くに聞けない。
「さて――じゃあ、教えるわね」
――ヴァリアント
その結成は、世界大戦後だという。
世界大戦が発生し、各国家が戦争を始めた。
そして異能力者もまた、戦争に駆り出された。
なにしろ異能力者は強い、何よりも。
千の兵士に勝る一の兵士だ、戦争に駆り出されるだろう。
戦車の一撃に耐え、その足は列車よりも早い。
その力は鋼鉄をバターの様に裂き、破壊する。
そんなほぼ化け物を、戦争に利用しない訳がない。
ただ、その影響でビジターが暴れだしたという。
ビジターは異能なき人々には脅威そのもの。
なにしろビジターに通常攻撃——異能以外の攻撃は通りにくい。
戦車の一撃に耐え、鋼鉄を裂く怪物が、世界各国に勃発したのだ。
当然、国は軍を動かすが――まぁ、対処できるわけもなく。
何処からともなくやってくる化け物だから、来る前にどうにかするとかはできない。
対処療法——やってきてからどうにかするしかない。
しかもたちが悪いことにビジターの防御能力は、当時の科学でもどうにもできない。
あれだ、ゲームで言う属性相性だ。
ダメージが通らない訳じゃないが、通りにくい。
それはビジターと異能力者の関係だ。
そう、異能力者も同じ異能やビジター以外の攻撃は非常に通りずらい。
異能無しの攻撃なら、拳銃どころかロケランすら無効化するという。
そのくせ異能力者の攻撃もビジターの攻撃もこっちには100%通る、理不尽。
そんなビジターに対応しながら、流石に各国が『これはやばい』と世界大戦をやめた。
まぁなんか。一部の国は『第二次世界大戦だ!』と騒いでたらしいが、無視したり異能力者の軍結成して叩き潰したりしたらしい、ナムサン。
そういった国もあったため、国連の結成と同時に『ヴァリアント』を結成。
国連の傘下として、ヴァリアントは生まれた。
そしてヴァリアントは今日まで、世界各国をビジターから守り続けている――
と。
「なるほどねぇ……」
世界大戦以来、大きな事件やら戦争やら無いのも、ヴァリアントが動いてきたからなのだろうか。
「そのビジターっていうのは?」
「それは――」
一言で言うと。
『わからない』と。
何時からか――人が文明を手にした時から、あるいはそれ以前からビジターは存在した。
ある国では悪魔と、さる国では妖怪と。
吸血鬼だったりミュータントだったりと――様々な呼ばれ方をする。
ただ造形が違うだけで本質的には同じだそうだが。
ただわかるのは、死体が残らないのと、人類の敵であるということだけ。
死ねば灰となり消え、人を殺す怪物たち。
いわば害獣、害にしかならない者達。
来訪者という意味のビジターはどっかの国のお偉いさんがそう呼んだのが定着しただけだそうだ。
出現するのは何故か人口が多い都市の人気のない所。
そこに現れ、人を探し歩き回る。
今のところはヴァリアントが出現を探知し、異能力者を送ることで即座に退治できていると。
だからネットにも何も乗っていないという。
このビジターとかいう怪物は国家機密らしい。
ネットとかに挙げられても直ぐ削除できるようになってるし、目撃できないように結界や、目撃者が万が一出た場合は記憶を消すなりすると……あれ?
「へい不知火さん、俺記憶とか残ってるけど」
「……あなたは、まぁ同じ異能力者だとわかったし、写真とか撮られてなかったからいいかなって」
言いふらされても、狂言と相手にされないだろうし、と。
まぁ確かに。
「と、こんなところかしら――他にも細かいところは、都度聞いてね」
「わかった」
大まかな概要はわかった。
しかしまぁ、意外と浅い歴史だ。
「んじゃあ、このヴァリアントってのは?」
「ん、それは――」
先ほど言ったように、設立は世界大戦後。
世界大戦後もビジターへの対処の為に国連が作った組織だ。
ヴァリアントは各国からの資金援助を元に成り立っている。
また、一部技術等は異能をベースになっている。
自動で料理するロボットや、移動時間がほぼないエレベーター等。
それらは異能があって成り立つ代物らしい。
ロボットの方は技術を突き詰めれば、何時かたどり着く極致に過ぎないらしいが、エレベーターの方はそうもいかないらしい。
空間を操作する異能をベースになっているから、だと。
とある異能力者の異能によって別の異能を保存できるらしく、それを利用した移動方法らしい。
これを使ってヴァリアントは日本各地に瞬時に移動できるとか。
こういった異能が無くては成り立たない物を使った技術は秘匿されているらしい。
まぁ、個人に依存する力とか科学に全力で喧嘩売ってるしな。
「なるほど……」
若干混乱しながらも、分かってきた。
しかし世界の裏でこんなことになってるとは……
「んで、俺はこれからどうすればいいの?」
やっぱりビジターと戦えばいいのかと、そう問いかければ答えは違う。
「まぁ、知ったからってどうということはないわ……夜中とかに外出を控えるとか、人気の無いところに行かないようにってぐらいね」
秘匿義務はあるけどそれ以上はない――とのこと。
「戦わなくていいの?」
こういう、漫画とかアニメだと『知ったからには』ていう展開が多いが、そういうのはないらしい。
なんか悲しいような嬉しような……
そんなことを考えてたら、不知火さんの眼が鋭くなる。
「あなた――戦う気が、あるの?」
戦う、ビジターと。
そりゃある、だって夢にまで見たファンタジーだ。
「もちろんあ――
る」
のどもとに ほのおが
「な、なに!」
おもわず、椅子から転げ落ちてテーブルから離れる。
けれど、炎は離れずに俺の喉にある。
熱い、熱い、熱い。
炎が俺の喉を焦がし、服を燃やす。
小さな火種だけど、確実に俺の命を削ってくる。
「な、なんだよ!」
叫ぶ、けれど不知火さんは冷静に言う。
「死ぬ覚悟はあるの?」
ふぅっと、炎が消える。
幻のように消えたが、喉の火傷と焦げた服が現実だったことを表す。
何とか立ち上がるも、足はまだふらつく。
恐怖で足がすくみ、動かなくなる。
「な、なにを!」
「死ぬ気はあるの、て聞いてるの」
なんだよそれ、と聞き返す前に不知火さんは口を開く。
「ビジターとの闘いは常に命がけ……死ぬ覚悟もないのに、戦うと言わないで」
今日はこれまで、と言い残し……不知火さんは出て行ってしまった。
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