第5話 施設案内

「……危険性はなさそうだから、私は戻ろう」


ウォードさんがそういい、すたすたと戻っていく。

その顔は少々申し訳なさそうというか気まずそうだった。

ちくしょう、ちくしょう……!

こういう時は、「なんだこの力は……!」って驚愕するのがセオリーだろうが……!

なんだよ、直ぐ折れる刀を作る力って!

こんなものに、何の価値があるというのだ……!


「えーと、どうする?」


ちょっと申し訳なさそうに、不知火さんが言う。

優しい、ありがとう……だけど慰めにはならない、ちくせう。


「いやまて、まだだ……!まだ何か、隠された力が!」


再度、刀を作り出す。

振るう、折れる。

クソが!

「いくらでも作れても直ぐ折れたら意味ねぇだろ……!」

しかも新しく作ったら前作った刀消えたし。

何の意味があるんだこの能力。


「ま、まぁそう気負わずに……外れの能力とか、珍しくないから」

「うぐ……!これより外れの能力、あるのか……!」

「まぁ……あるわ」


じゃあ何か、問うてみるとそれはそれは酷い者だった。

「毛を飛ばす能力なんだけど……毛根ごと飛ばすから髪の毛は消えるし、一度使うと全部同時に飛んでいくって能力

飛距離も威力もそんなにないし、練習で使ってそれっきり」

「えぇ……」


ギャグマンガかなにか?

まぁ、それを考えればこの能力はマシだろう……うん。


「そういえば、不知火さんの能力ってなに?」

「ん、私の力は……」


そういいながら、手の平から炎を出す。

綺麗な球体上という物理法則に喧嘩を売った炎だ。


「おおー!すげぇ!」


まるで子供のようにはしゃいでしまう。

だってそうだろう、超常を目にして興奮しないやつはいない!

この場合俺の能力は考えないモノとする!!!


「私の能力は炎の生成と操作……こうやって炎を作って――」


手の平から急に、何もしてないのに炎が勝手に動き藁人形にぶつかり、炸裂する。

ちょっとした熱気と共に炎に包まれ、藁人形が灰となる。


「すげぇ……!」


これが異能——これが超常!

それに対し俺の方はゴミ!うんち!





「はぁ……」

「そう落ち込まなくていいわよ……戦えないからって問題があるわけじゃないし……」


ぐぬぬ、と唸りながら歩く。

一度更衣室に戻って着替え、バッグを回収した後、案内されたのは居住区。

今日からここで暮らすということで案内してもらっている。

美少女の案内だやっほい、と喜びたいが……

……こんな戦えない能力じゃなぁ……

まぁ、不知火さん曰く戦う必要はないとのことだが、ねぇ?


「ん、新人か?」


途中、休憩所から人が出てきて話しかけてくる。

真っ直ぐと、永遠に続くように見える通路に扉が付いていた。

丁度俺から見て右手にある扉には堂々と『休憩所』と書かれている。

俯いて歩いていたせいか、全然気づけなかった。

土木工事の人間が着るような作業服だ。

ただし汚れていることはなく、新品の様に見える。

胸ポケットからは覗いているタバコは、俺も知らない奴だ。

有名どころではないマイナーな奴なのだろうか。


「新人……というか」

「新しく異能が発現した者です、今は施設案内の途中です」


俺の発言を遮るように不知火さんが言う、ぴえん。


「おぉー、そうかそうか、俺と同じ『発現型』か」


よろしくな、と肩を叩いてくる。

しかしそれよりも気になることがあるが――まぁ後で聞くか。


「俺は吉田、よろしく」

「あっと、俺は高橋です」


がっしりと握手をする。

大きい手だが、タコができていたりすることもない、綺麗な手の平。

はて、結構体を使う仕事の人かと思ったんだが違ったか。


「おっと、そろそろ仕事に戻らんといかんな、じゃあな」


元気にしろよ――と、吉田さんは俺たちが来た方に向かって歩いて行く。

うん、よし。

「不知火さん、発現型ってなに?」

「ん-、能力の種類よ」


能力の種類……種類?

種類とかあるのかこの力。


「能力は大きく分けて三つ……吉田さんや高橋君のような『発型現』私のような『血統型』、所長の『継承型』ね」

「ほうほう」

「『発型現』はあなたみたいにある日突然異能に目覚めた者

『血統型』は親や祖先が異能力者で代々異能を受け継いできた者

『継承型』は異能を誰かに与えられた者ね」

「ほー、そんなに種類あるんか」

そこに、前からカツカツと靴の音を鳴らしながら歩いてくる。

「——まぁ、そういう分類ができたのはここ最近のことだかな」


突如、声が聞こえる。

不知火さんの方を見ていた顔を真っ直ぐ、声の方に戻せばそこに居たのはいつの間にか消えていたウォードさんだ。


「所長」

「……分類ができたって、どういうことです?」


そのままの意味だよ、とウォードさんが軽く笑う。


「前はそんなの無かったのさ……全部『異能』の一括りだった」

「ほぉー」

「ここ最近、突如異能を発現する者が増えてな……それで名称がつけられた」

「ほー、そんなわけが……」

「まぁ、だからと言ってどうということはないんだがな」


ふふ、とウォードさんが笑う。


「——と、忘れてた、これを渡しておこう」


ウォードさんがポケットから鍵を取り出す。

鍵にはキーホルダーが付いており。それには206と。


「これが君の部屋の鍵だ、無くさないように」

「ありがとうございます」


鍵、鍵かぁ……

今日からここで暮らすんだな、と少し実感……うん?


「あれ、俺着替えとか全部家にあるんですけど」

「大丈夫だ、問題ない」

「いや、着替えとかどうすれば……?」

「あれ、最初に言わなかったか?衣食住完備と」

「あ、提供してくれるんですね……けどそのお金は――」

「なぁに気にするな、国の金だ!」

「……え?」


国の金――国の金?

てことは税金?

というか俺、この施設――ヴァリアントとやらについて何も聞いてないな?


「国の金って、どういうことですか?」

「ん――、まぁそこら辺は明日だな、一気に教えられてもわからんだろう?」

「あ、説明はしてくれるんですね……わかりました」

「ま、今日は詳しいこと考えずここを見て回るといい

――それと、君もここに登録しておいたから、もうそのカードは外しても大丈夫だ」


では、私は仕事があるので失礼する――と、きびすを返す。

流石に所長ともなれば大忙しなのだろう。

「ありがとうございました」

「なに、気にするな――市民の安全を守るのが、私たちの仕事だ」


と、所長さんは帰ってしまった。

……おおぅ、結構立派。

なんだろう、第一印象が大雑把な人っぽかったけど、人は見かけによらないんだな。

「じゃあ、案内するわよ――」




まずは食堂。


「ここで食事ができるわ、基本ここの住人なら無料だけど、酒類は有料よ」

「ほうほう」

「メニューはよっぽどのマイナー料理じゃない限り機械が作ってくれるから好きなのを頼めるわ」

「へー……今なんて?」

「次行くわよ」


次に大浴場。


「ここが大浴場ね、男女で分かれてるけど奥に進めば混浴があるわ……まぁ、男女、混浴で内容は変わらないけどね

朝の八時から夜八時までやってるけど……自室にも風呂があるから、まぁ使いたいならって感じね」

「でっかい風呂好きなんで利用しまくります」

「そ、そう?」

や、やましい気持ちなんて……な、無いんだからね!


次に休憩所——吉田さんと会った場所だ。


「一応喫煙所も兼ねてるけど、吸う人はあまりいないし、気にする必要はないわ

異能力者は体が変化して、タバコとかの悪影響無効化できるし……

まぁ、精神的に嫌ならどうしようもないけど」

「あ、タバコに対して悪いイメージないんで大丈夫です……てか更っと怖いこと言わなかった?」

「そこら辺の説明も後よー」

「はーい」


だんだん雑になって来たな?


そして最後に、俺の部屋。

横並びに201、202、203——と続いている。

しかし201とか書いてあるってことはここは二階なのだろうか。


「さ、開けて」

「はい」


ガチャガチャと、扉を開ける。

開けばそこは、一般的――にはちょっと遠い部屋だ。

少し感動しながら、靴を脱ぎ進んでいく。

遅れて不知火さんも付いてくる……やだ、はずかち。


「部屋にあるのは好きに使っていいわ」

「え、マジすか」



与えられた部屋は――ワンルームだ。

いや、ワンルームというには少々大きすぎるが。

扉の先にはちょっとした、五秒ぐらいで渡り切れる廊下。

廊下には扉が二つあり、左右に一つずつだ。

風呂、トイレと書いてあるのが風呂トイレ別だとわかる。

最初に付くのはキッチンだ。

左手に広がるキッチンにはガスコンロにIH、冷蔵庫に電子レンジに炊飯器に食洗器と……おおよそ考えられるだけの家電が置いてある。


キッチンを抜ければ大きな机と、四つの椅子が置かれたリビング。

家族団らんできそうな部屋だ。


「寝室はこっちね」


不知火さんがリビングの横手の扉を開ける。

開けた先はまぁ、よくある寝室だ。

何故かキングサイズのベッドにクローゼット等々……正直、至れり尽くせりでちょっと怖い。


「今日はもう遅いから、私は帰るわ……何かあったら、スマホに連絡……て、連絡先交換してなかったわね」


はい、と気軽にスマホを差し出し、連絡アプリを開いてくる。

女子との連絡先交換――といっても、実体は事務作業のようなモノだろう。

特に気にせずスマホを開けば……もう五時。

えっ五時?学校終わってる時間じゃん。

「……?どうしたの?」

「あ、なんでもないです」


と、こちらも同じアプリを開き交換する。

しかしそっかぁ……もうそんなに時間たってたのか。

つうか昼飯食ってねぇ。


「じゃあ、また明日迎えに来るわ」「よろしくお願いします」


――また脊髄で反応してしまった!

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