第4話 異能解明

「では所長、私はこれで」

「うむ!ご苦労」


 不知火さんはエレベーターから出ることもなく、俺を押し出すと扉を閉めてしまう。

 偉い人と二人っきりになってしまった。


「まぁ、かけてくれ」


 パチン、と所長さんが指を鳴らす。

 軽快に響いた音は、何故か床から家具を出す。

 ソファーが二つ、机が一つだ。

 机を挟むようにソファーが床から生えてきた。


 ……どういうこと?


「ん?どうした」


 ぽすん、と軽く所長さんが座り、座れと手を動かす。

 失礼します、と少し頭を下げ、ソファーに座る。

 めっちゃやわらけぇ。

 家にもソファーはあるにはあるが、これほど柔らかくない。


「まずは自己紹介と行こう――私はヘレン・ウィア・ウォード、この『ヴァリアント』の日本支部所長だ」

「え~と、俺は高橋潤たかはしじゅんです……駒沢高校の二年生です」


「ふむ、不知火から聞いたと思うが……まぁ、大人しく聞いてくれ、義務のようなモノだからな」


 そういって、所長——ウォードさんが話し出す。


「さて、結論から言うと君には暫くここで暮らしてもらう

 拒否権はない」

「……は?それ、どういう――」

「質問は後で聞こう、今は私の言うことを黙って聞いててくれ」

「……わかりました」


「では――


 我々がビジターと呼ぶ者達は、何者か分かっていない

 現状わかっていることは人類と共に存在し、人類に牙を向き続けてきたこと

 生物ではないこと

 謎の情報共有能力を持つこと

 そして、我々『異能力者』を最優先で襲うこと

 日本では妖怪、アメリカではミュータント、西洋などでは悪魔などと呼ばれてきた者達だ

 異能力者は多種多様、同一の能力は少なく、何があるかわからない

 以上だ、質問は?」


 質問と言われても何一つわからないのだが。


「えーと、俺がここで暮らすって、どういうことですか?」

「そのままの意味だ、これからはしばらくここで暮らしてもらう、衣食住完備、娯楽も提供しよう」

「拒否することは?」

「それはできない」

「なんで?」

「うむ、異能力は多種多様でな、何が起こるかわからない

 ぶっちゃけて言うと今この瞬間君の能力が暴走してこの施設がぶっ飛ぶ可能性がある」

「え」

 暴走——暴走?

 心躍る言葉だが、施設がぶっ飛ぶってどういうことだ。

「過去にあった事例だ……君の様に異能に目覚め、ある程度説明だけをして元の生活に戻った者がいるんだが、そのものが普通に暮らしてたらある日突然ドカン、だ――君も、家族や友人を失いたくないだろう?」

「な、なるほど……だからここで暮らす、と」

「まぁ、そういう能力は稀も稀だ、宝くじが当たるよりも低い、そう気負わずともいい……ま、自爆するような能力だったらすまんがずっとここで暮らしてもらうがな!」

「えぇ……」


 まぁ、仕方がないのだろう。

 自爆能力なんて、対処もクソもない。

 普通に暮らしてたら自爆で家族を殺してしまうなんて……考えたくもない。


「と、いう訳で君の能力の解明及び制御ができるようになるまでは君にはここで暮らしてもらう、ご両親には適当に病気とか怪我とかこっちで連絡するから気にしないでくれ」

「わかりました……」

 ずぅーん、と気分が沈む。

 まぁ、永遠にここで暮らすとかでないからマシと思うしかないのだろうか。

「精々一ヵ月から半年程度だからな!気にするな!」

 ワッハッハ、と笑うがこっちは笑えん。

 もしかすると家族を殺してたというと、笑える気分じゃない。


 ウィーン、と機械の音に顔を上げる。

 見れば、エレベーターが開き、そこから不知火さんが出てきている。

 制服ではなく、最初にあった時のようなジャージ姿だ。

 ……ジャージ、好きなのだろうか。


「所長、準備が終わりました」

「ご苦労——では早速、能力の検証と行こうか!」



 ■


 所長室に行った時と同じように不知火さんがカチカチと入力し、移動する。

 またも移動時間などなく移動が終わる。

 これもどういう原理なのだろうか。

 異能とやらだと思うが、どういう能力なのか。

 不知火さんにウォードさんに俺という三人が入っても結構余裕があるので狭苦しさなどは感じない。

 まぁ、感じる暇もなく移動が終わるわけだが。


「じゃあ、ここで着替えて」

「お――」


 連れられた先は更衣室。


「そこ、適当なロッカー使って、着替えて」

「なるほど、着替えることで能力が上昇すると……!」

「いや、能力の暴発で衣服消し飛ばないようにするためだけど……その制服なくしたくないでしょう」

「確かに」


 エレベーターの扉が閉まったのを確認し、パパっとロッカーから服を取り出し着替える。

 中身は不知火さんが着ているのと同じジャージだった。

 どうやら不知火さんの趣味ではなかったらしい。

 制服を脱いで着替えるだけなのですぐに終わる。

 ついでにずっと持っていたカバンも入れておく。

 鍵はリストバントにできるので、右腕につける。

 エレベーターのボタンを押し、中に入る。

 中では二人が談笑していたが、直ぐにやめ更に移動する。

 ……いつかこのエレベーターの原理も教えてもらえないだろうか。



「ついたぞ!」


 再びドアが開いた先は――体育館。

 ……うん、なんで?

 木製の床。

 壁には何に使うのかよくわからなかった肋木。

 壇上の類はなく、ただただ広いだけの空間だ。

 肋木が無い方の壁には等間隔で置かれた藁人形。

 ……なんでやねん。


「さて、というわけで君の能力の検証と行こうか!」


「は、はい……と言ってもどう使うかわからないんですけど……」

「勘だ!」

「勘」

「勘だ」


 えぇ……

 そんなんでいいのか。


「よーし、なら……!」


 藁人形に狙いを定め、腰を下げる。

 腕を腰の横に落とし、何かを溜めるようイメージする。

 そして――放つ!


「かめ〇め波——!」


 ファンブル!なにも出なかった!


「……まぁ、出るわけないわね」


 不知火さんが呆れたように言うのに対し、抵抗する。


「だってだって!誰しもこれができるかなって期待するじゃん!やってみたくなるのは少年の運命さだめなんだよ!」

「いやあなた少年って言う年齢じゃないでしょ」

「うぐぐぐ……!」

「とりあえずそれは後にして練習しさない」

「はーい」


 不満たらたらで始める。

 しかしどうすればいいのだろうか。

 聞いても勘としか教えてくれなかったし……


 今度は真面目に、手を突き出して集中する。

 気だが魔力だが霊力だが、まるでわからないが、何かが現れるようイメージする。

 ――体の奥から、力が湧き出る。

 ……いや、体じゃ、ない?

 よくわからない力を掴み、引っ張り出す。

 畑から雑草を抜くような、プールの底に落ちた物を拾い上げるような――そんな感覚。


 あ、と全員の声が重なる。


「……日本刀?」


 気づかぬうちに握っていたのは日本刀だ。

 いつか、どこかの博物館か何かで見た気がする日本刀。


「これが……俺の力!」


 心が躍り、藁人形を斬る。

 折れた。


「「「は?」」」


 全員の声が重なる。

 パキン、と小気味いい音が響き、刀が折れる。

 ちょうど半分ぐらいで折れ、折れた刃が地面に突き刺さらず、パキンと砕ける。


「ふぅ――」


 折れた刃を見る。

 もう一度震えば、今度は折れることなく刃が欠ける。

 藁人形には傷一つ付いていない。

 うん。


「クソ能力じゃねぇか!」


 叫び、刀を地面に放り投げた。


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