第2話
……あれから、どれほど時が経ったのか。
目が覚めたら、見覚えのない森の中にいた。空を覆うように茂る木の葉の間から、眩しい太陽光が差し込んでくる。その眩しさから逃げるように身体を起こそうとして、今まで自分が仰向けで寝ていたという事実に気付いた。
ここはいったいどこなのだろう。
先程まで、確かに自分の部屋に居た。あの眩しい光を浴びてからここに至るまでが全く記憶にない。寝ている間に、連れ去られたのか?そう考えると少し怖くなった。
改めて自分を姿を観察すると、見覚えのない洋服を身に着けていることに気づいた。両手には黒いグローブをはめており、全体的に非現実的な装いだ。腰のベルトには鞘をはめ込む金具がついており、もしかしてと周りを見渡すとすぐ手の届く場所に大きな剣が置いてあった。
かなり使い込まれている剣なのだろうか。持ち手の部分等がかなりボロボロだ。それに比べて刃の部分は綺麗に輝いていて、大切に手入れされているのだと想像がついた。
……少し遅れて、そこに剣があるということに疑問を抱いた。
いつもゲームやアニメの中で見ていたものだからすんなりと受け入れそうになったがそうはいかない。ここは現実だ。ファンタジーの世界なんかじゃない。こんなものを持ち歩いていたら、いくら森の中とはいえ銃刀法違反で捕まってしまう。
よく辺りを見渡せば、植物も見たことない不思議なものばかりだ。まさか、これは…………
「……起きたか」
隣から、聞き覚えの無い声が聞こえて顔を上げる。
そこには一人の女性が座っていた。綺麗な金色の髪を二つに束ね、首元には青色のスカーフを巻いている。真っ白な肌と整った顔立ちの中で、ターコイズ色の瞳がきらりと輝いていた。
女性の目の前には消えた焚火の跡があり、おそらく昨晩に暖を取るため使っていたのだろう。周りには、果物の皮や何かの骨が落ちていた。
「随分と深く寝ていたな。もう朝だ、すぐに出かけるぞ」
女性はそう言うと、身支度を始める。近くの木にロープが吊るしてあり、そこにかかっていたローブを取って着る。その後黙って私の方を指さす。何かと思って足元を見ると、同じようなローブが地面に落ちていた。これを着ろということだろうか……布団代わりに掛けていたのだろう、土や砂が付着して汚れてしまっている。
どうやって身につけるのかわからずモタモタしていると、女性はさっさと自分の身支度を終わらせこちらをじっと睨んでいた。
「おい、何をしている。こんな森に長居したら危険だぞ。さっさと出発しないと……」
「えっと…………どちら様でしょうか?」
「はあ?」
とりあえず、1つずつ整理していこう。まずは女性が一体誰なのか知る必要がある。行動を見たところ、私の知り合いである事は確かだ。
「寝ぼけているのか?しっかりしてくれ」
「いや、あの……目は覚めてるんですけど……」
「なんだその話し方、気色悪いぞ」
「え、えっと……ちょっと、忘れちゃって……」
突然のこと過ぎて上手い言い方が思い付かない。今の私は相当怪しいだろう。
女性は眉を顰めながら、私の事をじーっと見ている。深く考え込んだ後、ひとつの結論に辿り着いたかのように顔を上げた。
「…………今日の日付は?」
「え?えっと……確か、7月31日?」
「ここがどこだかわかるか」
「森の中、ってことしか……」
「お前の名前は?」
「わ、若菜……です……」
一通り答えを聞いて、また考え込む。
「……昨日食った果物がまずかったか……?いや、私に異常は見られないから、違うか……?」
女性はぶつぶつと呟きながら、今のおかしな状況に納得しようとしている。しかしそれが不可能だと気付いたのか、大きなため息をつく。
「とりあえず、これを食うのだ。済んだらすぐ出かけるぞ」
手渡されたのは、カロリーバーのような見た目のスティック。ほのかに甘い香りがして、食欲をそそる。しかし、変な世界の食べ物なんて食べて大丈夫だろうか。昔、何かの都市伝説でその場の食べ物や飲み物を食べると戻って来れなくなる、だとかいう話を聞いたことがある。
しかし、大きな音が腹から聞こえる。そういえば、朝から何も食べていなかったなあ。このままま餓死するか、よく分かんないコレを食べて戻れなくなるか……どっちにしても不幸だが、今これを食べる方が苦しまない分マシに感じた。
勇気を出して1口齧ると、味はよく食べるあのカロリーバーに酷似していて少し安心した。相変わらずパサパサしていて、水分が欲しくなるが。
「ね、ねえ……あなたの名前は?」
水分を奪うパサパサと戦いながら、女性の名を聞いた。並んで立つと、彼女の方が少し背が高かった。茶色いローブで隠しているが身なりもかなり良さげだった。綺麗な金髪が風に揺れる。
「ああ、そうだったな。私はリアスだ」
「リアス……えっと、ついでに私の名前も……」
「は?いや、お前がさっき言っただろう」
「え?」
「お前の名前はワカナ。ワカナ・サリュートだ」
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