第12話 暗殺者の指輪
「むにゃむにゃ……テリヤキマッキュ……むぅ、朝ぁ?」
既に季節は秋に移っているからだろうか、布団から出るのが辛くなって来た。今日は土曜日なので学校はお休みだけど、いつもの習慣なのか目が覚めてしまった。時計を見てもまだ7時だ。
昨日もダンジョン攻略失敗だったなぁ。まさか空腹に負けるなんて思ってもみなかった。マッキュ食べたい……。
二度寝しようかと思ったけど大事なことを思い出した。
「おお? やっぱり金庫あったー」
枕元に鎮座する黒い金庫、前回と見た目は一緒である。どうやら中身に関係なくサイズは同じっぽい。とりあえずテーブルの上に移動させて開封の儀を執り行う。
あれ、ほんの少しだけ軽くなったような気がする。もしかして力が1増えたからだろうか。つまり力を上げまくればムキムキマッチョになれるのか……? マッチョはギルマスだけで間に合ってます。
「やっぱりパスワードがあるのか。とりあえず前回と一緒でいいや」
欠伸をしながらポチポチと8桁の暗証番号を入力していく。誰があんな暗証番号を設定したのか知らないけど、今回も無事に開きました。
金庫が霧のように散って無くなり、テーブルの上には銀色に光る指輪が残された。
「おおー! 夢で見たのと一緒だ」
装飾も刻印も何もないツルツルな指輪、まるで婚約指輪のようなデザインだった。独身なボクが装備するにはちょっと抵抗があるな。
とりあえず効果を確かめるべく指に嵌めて見た。どこに嵌めていいのか分からなかったから左手の薬指です。だってボクは一生独身かもしれないからね、一度くらい装備してみたかったのだ。
「サイズピッタリだ。もしかしてフリーサイズだったり?」
ラノベで良くある勝手にサイズが変更されるアレです。試しに小指に嵌めて見たけどキュッと縮まってフィットしました。こりゃ凄い。これを動画に撮影して投稿するだけで有名になれそうだけど、問題にしかならないと思うのでやりません。
確か装備した効果は『足音と気配が消える』だったはず。試してみよう。
「っ!? 足音が消えた……」
試しにベッドの上を歩いてみた。掛け布団が擦れる音すら聞こえないのである。
これはボクの耳がおかしくなっただけかもしれないと思ったのでスマホで録音をしてみた。でも結果は同じで全く音がしなかったのである。
「もしかしてこれ、ボクの声も聞こえてないとか……?」
金の剣と違ってワクワクドキドキなアイテムに気を良くしたボクは色々な実験をしてみた。声を録音したり服を脱いでみたり……。
そしてその結果、凄い事が分かったのだ。
「声以外全部音が消える!」
服を脱ぐ音も、指パッチンしても音が録音されませんでした。朝から元気になったボクの愛棒を試しに擦ってみても無音なのだ。でも声だけは出ちゃうのだった。
面白かったのはシャワーを浴びた後、濡れたまま歩いても足音がしませんでした。どんなファンタジーが働いているのか知らないけど、とても良いアイテムをゲットした気がする!
「夢の中では足音だけだったけど、現実だと効果が少し違うのかな?」
まあ答えなんて誰も知らないのだ。掲示板で質問したところで金庫がボクにしか手に入らないのならば言うだけ無駄である。っていうか、この夢の世界の事が偉い人とかに知れ渡ったら掲示板で質問した人とか大変だよね……。今時は情報開示とかで住所とか全部バレちゃうんでしょ? 裁判沙汰になったニュースとか良くあるもんね。ボク知ってるんだから!
朝からキュピーンと冴え渡るボクの頭脳、もしかしたら隠れステータスで賢さが上がっているのかもしれない。
◇
朝からマッキュに行ってソーセージと卵が挟まったマフィンを頂きます。もちろんハッシュドポテトも忘れていません。
土曜日の朝ならガラガラだろうと思ったけど、席は半分近く埋まっていた。持って帰っても良かったけど、たまにはお店で食べるのも良いよね。
窓際の席は全部埋まっていたので真ん中のテーブル席を確保しました。席に着くとボクのスマホがブルンブルンと震えた。なんだろね?
「……ホッシーからメッセージだ。でもまずはご飯」
ごめんよホッシー、ボクは昨晩の飢餓感からマッキュが恋しくて堪らなくなっているのだ。
マフィンを大きなお口でガブリと頬張ると、ジュワっと溢れる肉汁と卵のプリプリな食感が口の中で合わさり、朝から幸せな気持ちになってしまった。
出来立てのハッシュドポテトもサクサクで香ばしく、少し油が切れてないけどこれがまたジャンクな感じで美味しいのだ。
砂糖とミルクをたっぷりと入れた珈琲で口の中をサッパリとさせるとホッと人心地が付いた。嬉しさに、つい笑顔を浮かべてしまった。
「…………んん?」
視線を感じて周囲を見渡したところ、数人の女性と目が合った。目が合った女性はみんな驚いたように視線を逸らしたのだ。
これはもしかして、魅力アップの効果か!? 良い気になったボクは髪を手櫛で整えた。少し長くなったボブカット、そろそろ切ろうかなーと襟足に手が当たった瞬間気付いた。あかん、ジャケットのクリーニングタグが付いたままだったー!
きっと女性達はこれを見て笑っていたのだ。恥ずかしい……。
恥ずかしいから急いでマッキュをモグモグして外に出た。もう少ししたらバイトの時間だけどまだ余裕がある。ホッシーのメッセージを見たら暇だったら連絡欲しいという感じの内容でした。
家に帰るまで暇だし、電話してみよう。ホッシーに電話を掛けたらすぐに繋がった。
『おっ、悪いな。もしかして寝てた?』
「全然だいじょぶー。朝マッキュを堪能してました」
『随分と豪勢じゃないか』
ホッシーの声は今日もなかなかのイケメン具合だった。でも休日に連絡が来るのは珍しいかもしれない。
『早速なんだけどさ…………今晩空いてる?』
イケメンの声でこんなセリフを聞くんだったら電話なんてしなければ良かった。ボクは女性同士のエチエチは大好物だけど、いくら相手がホッシーだからって絶対に無理です。
「えっとぉ、ボクは女の子が好きなのでごめんなさいー!」
『ちげーよ!! 合コンがあるからユウもどうだって誘ってやってんだよ!!』
「ひーん」
ホッシーにしては珍しいガチな声だった。大丈夫だ、ボクの
それにしても合コンか……。
「合コン!? 合コンってアレでしょ、男女のお見合い的なやつ。気の合った男女が『二人だけで二次会しちゃう?』って言ってラブなホテルに入って朝まで二次会しちゃうやつ!」
合コンと言えば大学生の醍醐味と言っても過言ではない一大イベントである。異性との出会いを求めてウェーイしてパリピになると彼女をゲットできるのだ。
だがしかし、ボクはサークルにも参加せず『きっとそのうち彼女とか出来るだろう』と甘い考えを持っていた。
単位取得のために受けたどうでも良い授業で偶然隣に座った黒髪ロングで清楚な文学少女と出会う。授業で一緒になる度に意識してチラチラと顔を見てしまい、彼女もボクのチラ見に気付いてニコっと笑ってくれるのだ。……そんな感じの恋愛が出来ると思っていました。
そんなボクが遂に合コンデビューか。こりゃ遂に童貞卒業も有り得るな!
『まあ間違ってはいないけど、ガツガツしてると相手にされないからな。そんでな、オカルトサークルの連中から声が掛かってさ、良かったら一緒に行かないか? 相手は白梅女子らしいぜ』
「ご、ゴクリ……」
白梅女子と言えばこの辺りで有名なお嬢様大学である。偏差値がかなり高くて頭が良い女性が多いのだ。もちろん美人さんや可愛い子が多い事でも有名なのです。
賢さが5しかないボクがインテリ美女に相手にされるだろうか……。いや、物好きなお姉さんだっているかもしれない。宝くじだって買わなきゃ当たらないのだ、参加しない限り待っていても始まらない。
今攻略中のダンジョンだって同じだ。回数を重ねて行く度に発見がある。ボクもあと何回かチャレンジすればクリア出来そうな予感がするのだ。サキュバスの館には行きたいけど、彼女が欲しいです!
「連れてって下さい!」
『分かった。じゃあ集合場所とか後で連絡するから遅刻するなよ!』
「らじゃー!」
ボクは良い友達を持った。さて、まずはバイトでお金を稼いでこよう。
今日は姫ちゃんいるかな?
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