第11話 賢さ5だから賢い選択が出来ない


 さて、遂にやってきました第3回ダンジョンアタックのお時間です。今回のミッションは10階にあると言われている初級冒険者カードをゲットして持ち帰る事だ。


 第2回の時も同じ事を言ったかもしれないけど今日は大丈夫だ。前回は夏子さんから『ラブリーポーションを使ってね♡』っていう緊急クエストが割り込んだから任務失敗しただけで、本気でやれば余裕なはず。


 夏子さんのおっぱ……じゃなくてモンスターのスライムちゃんも余裕で倒せるし、出現するモンスターだって完全に把握しているのだ。そして何より、今回はギルマスからの的確なアドバイスを得ている。



『いいかひよっこ、お前に必要なのは慎重に進む事だ。全てのフロアを確認してアイテムを拾うんだ。地下へ続く階段を見つけたからってすぐに降りるな。雑魚モンスターを倒してレベルを上げるんだ。いいか分かったな?』


『いえっさー!』



 ボクの好きなゲーム、メタルギアなソリッドに出て来るスネークさんの声優と似た声のギルマスの言葉は、賢さ5のボクでもスーッと理解出来た。つまり急がば回れってやつです。一日一回しか挑戦出来ないダンジョンなのだ、ラブリーポーションで遊ぶのも良いけど死んじゃ勿体ないという事だ。


 そんな感じでボクは2階までの攻略を完了したのである。



【マジックバッグ】

・ビッグマッキュセット

・棍棒+2(装備中)

・扉の盾(装備中)

・鍋の蓋

・暗殺者の指輪(装備中)

・大粒ダイヤモンドの指輪

・回復薬

・回復薬

・回復薬

・倍速薬



【ひよっこユウタ】

最深階:3

満腹度:15%

剣の強さ:3

盾の強さ:2

ちから:8/8

経験値:32



「順調じゃないか! よし、そろそろ3階に行ってみようかな」


 今のボクは木の棒を右手に持って、左手にドアを持っている怪しい恰好である。扉の盾っていう意味不明なアイテムを拾ってこうなった。


 ドアノブの付いた一枚の板であり、親切設計なのか腕に固定するベルトが付いていた。全然重くないから良いけど視界が最悪だった。でも鍋の蓋よりも1だけ防御力が有るのでこっちを使ってます。


 そして遂に来ました、3階です。ボクの視界に映る情報が更新された。『3階 LV3 HP22/22 256G』と表示され、ボクの最深部記録に並んだのだ。


 どうやらダンジョンの地図は入る度に代わるけど、岩肌がゴツゴツとしたダンジョンというのは変わらないようだ。


「ふふっ、やっぱりこの指輪チートアイテムだ」


 ボクは左手の薬指に嵌められた指輪を見た。これは2階でワンコをサーチアンドモフモフしていたら落とした指輪なのだ。



【暗殺者の指輪】

足音と気配が消える。



 この指輪の名前からして攻撃力が上がるのかと思ったら全然違っていた。この指輪の凄いところは寝ているモンスターを無視できる事だ。真横で敵と戦っていても寝ているモンスターが起きないのである。


「寝てるおじいちゃんの真横を通っても全然起きない」


 なので寝ているモンスターには必ず先制攻撃が出来るという事だ。えいっ!


『んほー!』


「……」


 ボクは3階から出現する杖を持ったおじいちゃんにしか見えないモンスターを棍棒で殴ってしまった。罪悪感で胸が締め付けられる中、おじいちゃんが杖でボクを殴って来た。


『イヤァハァァァ!!』


「痛っ……くはないけど、ダメージ大きいな」


 おじいちゃんらしくない叫び声を上げながら杖で殴り掛かって来た。5ポイントのダメージです。まだまだHPも余裕だしこのまま倒してしまおう。


 棍棒と杖での壮絶な殴り合いが始まり、ついにボクは老人を棍棒で撲殺する事に成功したのだった。何だこの罪悪感は……おじいちゃんから襲われない限り戦うのを止めようと心に誓ったのだった。





 それからボクの冒険は順調に進んだ。寝ているおじいちゃんは無視して他のモンスターを倒して進みます。起きてるおじいちゃんは居ないのかな? どうやらこのフロアはスライムとコウモリ、ワンコとおじいちゃん、そしてモフモフなモモンガが出て来たのだった。


「モモンガ? でもこれ、絶対に飛べないよね……」


『キュキュキュー!』


 丸々と太ったモモンガがボクを見て威嚇している。両手を広げて頑張っているけど飛ぶ事は無理だろう。本人は必死に手をバタバタしているけど、諦めて転がって攻撃して来た。


 ボクはドアを構えて攻撃を受け止め、棍棒で撲殺しちゃいました。


「棍棒ってイメージが悪いよね。攻撃力も弱いし動物虐待な感じがして心が痛い」


 キューンという可愛い声で霧となって消えたモモンガちゃんが可哀想だった。




 ボクは心を鬼にして突き進んだ。動物愛護団体がボクを見たら殺されそうだけど頑張って進みました。途中でビッグマッキュを食べて満腹度を回復させたりしながら進みました。リアルで食べる味と全く一緒だけどコーラがなかったら喉詰まらせて死にそうな予感。


 ギルマスの言葉を信じてしっかりとフロアを制覇し、おじいちゃん以外の敵を撲殺してレベルも余分に上げたので次のフロアへ行きましょう。


 4階はスライムが出なくなった代わりに弓を持った機械、ボクの立派な愛棒のような傘の開いたキノコ、そして分裂するエイリアンっぽいモンスターが出て来たのです。


 ボクは必死に倒した。弓を持った機械の遠距離攻撃は斜めに移動して敵に近付き撲殺、エロいキノコも撲殺、エイリアンは分裂するから通路を使って撲殺という、本当に賢さ5なのか疑っちゃうくらい頭を使って戦いました。


 ちなみに、エロいキノコは時々白い液体を噴射して来ました。その液体を触れると『ちから』が1下がります。そしてボクのやる気も下がります。マジでクソゲー。


 あと、あの弓を持った機械の形容しがたいフォルムと胸の辺りに刻まれた刻印『先行者』というのはどういう意味なのだろうか……?





「も、もうダメだ……」


 頑張って5階に下りたは良いけど死にそうだった。別に5階から新登場した全身を包帯で巻いたエッチなお姉さんが出て来たからじゃないです。空腹で死にそうだったのだ。


 4階の途中からヤバい雰囲気はあったのだ。マッキュが足りないのである。もしかしてボクはレベル上げに時間を使い過ぎてしまったのだろうか……。


「マッキュ食べたい……」


 丸一日何も食べなかったかのような空腹具合に体の力が抜けて行く。そして歩く度にHPが減って行くのだ。


 残りHPが10を下回った現状では通路を歩いているだけで死亡するだろう。モンスターに遭遇したらもっと早いかもしれない。


「今回もダメだったか~。まあいいや、アイテム選ぼっと」


 既に回復薬も飲み干し有力なアイテムも無かった。こうなったら終活を始めようと思う。



【マジックバッグ】

・棍棒+4(装備中)

・青銅の盾+3(装備中)

・暗殺者の指輪(装備中)

・大粒ダイヤモンドの指輪

・持ち帰り金庫



 そうです、例の謎アイテムである持ち帰り金庫をゲットしたのです。ギルマスがそんなアイテムは存在しないと言っていたし、掲示板でもそんな情報は無かった。もしかしたらボクだけのスペシャルアイテムなのかもしれない。


 家の押し入れに眠っている金の剣が無くなる事は無かった。今も押し入れでキラキラと輝いているのだ。つまり持ち帰り金庫に入れたアイテムは夢の世界から現実世界に持って帰れるというチートアイテム……。


「暗殺者の指輪か大粒ダイヤモンドの指輪かな……どうしよう」


 ダイヤモンドの指輪の説明文も凄かった。色んな意味で。



【大粒ダイヤモンドの指輪】

超綺麗です。

めっちゃ高く売れます。



 リング中央に巨大なピンク色のダイヤが嵌め込まれ、その周りをダイヤがこれでもかと散りばめられている。写真とか撮れたら伝わるんだけど賢さ5のボクにはこれが限界だった。


 きっと宝石店に売りに行ったら高値で売れるのだろう。ボクにはそれくらいしか分かりません。


「売ると厄介事に巻き込まれそうだし、暗殺者の指輪かなー」


 暗殺者の指輪の見た目は単なる銀色のリングだった。表面や内側を見ても装飾や刻印といったオシャレポイントが皆無な味気ない指輪だった。婚約指輪みたいなやつ。


 これなら普通の指輪とも同じだし、現実に持ち帰っても問題ないだろう。


「現実でこれを装備したら足音が出ないのかな? ちょっと面白そうかもー」


 金の剣では遊べなかったけど、指輪なら面白そうだ。でも、明日の朝はマッキュを食べに行こう。


 そうしてボクの3回目の冒険は空腹という敵にやられたのだった。




   ◇




「おう、ダメだったか」


「お腹減って死にましたー」


 どうやら死亡してギルドに戻った事はバレバレなようだ。クリアすると違う演出とかあるのかな。


「空腹だけは運だな。お前の運の良さもダンジョンの中じゃ何の役にも立たない。気にするな」


「ギルマスぅー!」


 強面な男に優しい言葉を掛けられても嬉しくないけど、今回は頑張ったから少し嬉しかったのだ。


 水晶玉に手を当ててリザルトを更新です。



【ハイスコア】

1:428G 冒険者のダンジョン地下5階で、ハロウィンコスプレJDに倒される。

2:200G 冒険者のダンジョン地下3階で、フェンリルベビーに倒される。

3:0G 冒険者のダンジョン地下1階で、夏子さんに倒される。

4:

5:

6:

7:

8:

9:

10:



「5階まで行ったのか……んっ? さっき空腹で死んだとか言ってなかったか?」


「えへへ、力尽きるギリギリで包帯グルグル巻きのモンスターにやられちゃいましたー」


 餓死するよりモンスターの胸の中で眠った方が良いよね?


 最後の最後であのお姉様と遭遇したボクは、無駄な抵抗を止めてお姉様に身を委ねた。お姉様はボクを見てウットリと笑みを浮かべ、包帯を使って優しくボクを抱き締めた。モンスターなのに甘い香りと豊満なボディに驚いたけど、あれはコスプレしたJDだったのか……。


 今度遭遇したら素手で戦ってみようと思います。勘違いしちゃダメですよ? 棍棒でお姉様を殴るのはダメだからです。あれは姫ちゃんと同じくらいの大きさだった気がする……。


「……まあ良い。5階に上がった記念にモンスターの注意点を教えてやる。まずフェンリルベビーは素早く動き2回攻撃だ。そして――」


 ふむふむ、ギルマスがちゃんと仕事してる。ギルマスってここでレシート出すのが仕事かと思ってたけどアドバイスしてくれるのね。


 ワンコ2回攻撃、おじいちゃんは基本的に寝ていて眠りの魔法を使って来るから放置推奨、矢は壁に当たると拾える、キノコは毒を吐く、エイリアンは分裂する、エチエチJDはエチエチという事が分かりました。うん、賢さ5のボクに覚えきれるか分からないけど頑張ります。


 ボクの微妙な顔を見たギルマスがジト目攻撃をして来た。いくらスネークさんと同じ声だからといって男にジト目攻撃をされても嬉しくないです。


「…………スコア更新して帰っていいぞ。あとゴールドは預かっておく」


「ううぅ……ボクのお金。そう言えばあのガチャマシーンは使えないんですか?」


 ギルドにはガチャマシーンが鎮座していた。大きくて丸いガチャガチャです。掲示板ではスキルが出るって言ってたような?


「あれは初級冒険者カードが無いと反応しない。ほら、さっさとスコア更新して来い」


「はーい、お疲れ様です~」


 やっぱり攻略を頑張るしかないのか。ボクの運なら良いものがゲット出来そうな予感。


 パチ屋にあるような精算機にレシートを入れてステータス更新です。前回はお金をゲット出来なかったから更新していません。



【累計スコア:628G】

おめでとうございます。レベルアップしました。

好きなステータスにボーナスポイントを割り振って下さい。


レベル:3

HP:20(+2)

MP:1

ちから:12(+1)

みのまもり:10(+1)

すばやさ:14

かしこさ:5

きようさ:13

みりょく:44(+1)(BP+1)

うんのよさ:95



「順調に魅力は育ってるけど、賢さが上がらないのはバグだな……」


 ボーナスポイントを賢さに振った方が良いかと思ったけど、5が6になったところで変わらないと思うし、ボクは初心を忘れず魅力極振りにしたいと思います。そう言えば掲示板の情報だとHPMP、ボーナスポイントが貰えるだけで基本ステータスは上がらないとか言っていたような……? まあいっか!


 目指せキムタコを超えた魅力80オーバー!

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