第10話 労働と対価


 緊縛スライムという強敵にフルボッコされた翌日の事である。


 季節の変わり目で少し肌寒くなって来たけど、今日は週末の金曜日という事もあり、行き交う人々の顔が少しだけ嬉しそうに見えた。でもボクも数年後にはスーツを着て社会の一部に溶け込まれるのかと思うと憂鬱になってしまう。


 花の金曜日と言えば聞こえは良いかもしれないけど、彼女も居ないボクには単なる平日と何ら変わりはないのだった。


「おはようございますー!」


 つまりボクは未来の彼女とキャッキャウフフを楽しむため、地道なアルバイトでお金を稼ぐしかないのである。あわよくばお客さんとか店員さんと仲良くなれるかもしれない。


 賢さが5しかないポンコツなボクを雇ってくれるのは、閑静な住宅地にある小さな喫茶店『珈琲とプリン』である。最低時給をギリギリ下回らないくらいの低賃金なバイト先だけど、決め手は女の子の制服が可愛かったからです。ちなみに、低賃金なのは男性だけっぽいです。ここはボクしか男性いないけどね!


「あー、先輩やっと来た~。もう、遅いですよぉ~。あれ、先輩少し雰囲気変わりました?」


 やはり魅力2アップの効果が出ているのかもしれない。


「そうかな? 姫ちゃん、今日もよろしくねー」


 エチエチなメイド喫茶を思わせるアダルティな制服を装備した小柄な女の子がボクに挨拶をしてくれた。姫ちゃんと呼ばれるこのお店の愛らしい店員さんである。


 ビックリするくらいに開いた胸元に目が行くかもしれないけど、バイト歴1年を超えるボクくらいの熟練者になると、メイドさんのフリフリスカートとニーソックスという至高の絶対領域も同時に楽しめちゃいます。


 ボクよりも少し背が低く、艶やかな黒髪の姫カット、そして零れ落ちそうな大きなお胸が堪らなく可愛い女の子です。夏子さんのスライムと比べてみたいですね。


「あー、またあたしのおっぱい見たでしょ~? このEカップは安くないんですからね? それじゃ先輩、あたしの分までシャカシャカ働いて下さいねー」


「ううぅ……頑張りますぅ」


 どうやら彼女のトラップに引っ掛かってしまった。わざとらしく前屈みになって胸元を見せつけて来たのにボクが悪いと言う。小悪魔なメスガキを思わせるロリ巨乳ちゃんにボクはいつも勝てないのだ。


 彼女はボクの一つ年下で、とても可愛いのに毒を吐く事がある。最初はイラっとする事もあったけど、胸元が大きく開いたメイド服を装備した彼女に言われてもご褒美にしか思えなくなってしまったのだ。つまり何が言いたいかといえば、可愛い年下の女の子に揶揄からかわれるのも良いよね♪ って事です。






 金曜日の夕方というのは意外とお客さんが集まるのだ。昼間は主婦やサラリーマンが多いけど、この時間はJKパラダイスだったのだ。お店の近くに女子校があるらしく、姫ちゃんはそこの卒業生って聞きました。


 いくら店内の9割を占めるJKパラダイスとは言っても普通のお客さんも居ます。あの隅っこでノートPCを忙しそうにカチャカチャしているインテリぶったサラリーマン、彼はうちの常連である。ああやって仕事をしてるフリをしながらコッソリと店員メイドやJKを愛でるスケベなやつである。


 ボクがインテリサラリーマンにオーダーを運ぶと凄く怨念の籠った目を向けて来るのは仕様ですか? 今も何故か視線を感じるけど、ボクは男に興味ないので止めて欲しいです。


「ねぇーねぇー先輩、あのオッサンまた来てるね? あいつあたしのおっぱいガン見するしマジキモイんだけど~」


「あ、うん……そうだね。男の風上にも置けないヤツだね」


 ボクは肯定する事しか出来なかった。何故ならボクも姫ちゃんのおっぱいをガン見するからである。逆にこの制服を着た可愛い女の子を見ない奴は男じゃないと思います。夜な夜な思い浮かべてあんな事やこんな事をするのは普通です。なあ、愛棒?


 店長の趣味だというこのエチエチなメイド服だけど、何気に女性達からの評判は良いのである。何やら『可愛い』と『エロス』が両立した神のバランスで出来上がった至高の制服と言われているらしい。


 そんなエチエチな制服だけど、近所の奥様方からのクレームは皆無なのである。むしろ昼間のバイトに入るとナイスバディな人妻さんがメイドになっているのである。今度紹介するね?


 JK達も制服に憧れて通っているらしく、バイトの募集が入るとかなりの応募数が来るようで競争倍率も高いのだ。


 つまりボクの隣にいる姫ちゃんも恐ろしい程の競争倍率を勝ち抜いたエリートという訳である。確かに下手なアイドルより可愛いです。


「でもでもぉ、先輩は可愛い顔だから少しくらいなら見ても良いよ~? ほら、サービスだぞっ」


「ひゃっ!?」


 トレーを抱き抱えるように持った姫ちゃんの胸は凄かった。昨日の緊縛スライムとの死闘を思い出すくらいにプルンプルンなのである。


 だがこれは姫ちゃんの罠だ。この後の展開はボクが良く知っているのです……。どうせご飯を奢らされたりするのだ。でもボクにはご褒美かも?


 そんな事を考えていたところ急に声が掛かった。はぁ、面倒くさい。


「おいそこの店員ちょっとこっち来いっ!!」


「ひーん」


「あらら、先輩がんばって~♪」


 インテリサラリーマンの前でイチャイチャしたらどうなるか、考えるまでも無いですね。姫ちゃんもわざとコイツの前でボクを揶揄からかって遊ぶのだ。ボクは姫ちゃんと関わってから女の子に弄ばれる快感に目覚めてしまったのかもしれない。


「あんまりこういう事は言いたくないんだけどね――」


 メガネをクイッと上げて格好つけた彼は、常日頃からボクの事を目の敵にしている酷い奴なのである。


 きっとこのインテリサラリーマンは会社で嫌な事があったのだろう。クレームと言いながら正論でボクをイジメて楽しんでいるのである。確かにバイト同士が私語を交わしながらおっぱい鑑賞会をしていたら不快だろう。もう何度も同じ事を言われているからこのお店の名物になってきた感じです。


 彼は決して罵倒する言い方はせず、社会常識という正論でボクに社会の厳しさを教えてくれる。きっと社会人の先輩として、彼なりの教育をしてくれているのだろう。内心では『俺カッコイイだろ?』とか思っているに違いない。


 だけど彼を責めないで欲しい。ボクと同じで彼も女性を求めてこの『珈琲とプリン』に足蹴無く通うエロを求めるアホなやつなのだ。きっと賢さが10くらいだね。メガネ外したら5だと思う。なかーま。


「やっぱりあんまり女性とベタベタするのは良くないよ。うん。それにね――」


 でも彼は気付いていない、ボクにクレームを言っても自分の価値が上がる事は無いという事を! むしろ下がってるけどね? ふふふ、JK達が騒ぎ出したぞ。



『あはっ、見てあれ。また始まった~』


『あのオッサン邪魔だけど、しょんぼりするユウタの顔がそそるよね~』


『わかるわかる~。何て言うか、ユウタってイジメたくなるよね』


『姫ちゃんの気持ち分かるかもー』



 この喫茶店はヤクザまがいの店長が切り盛りする繫盛店だけど、今まで男性のバイトを雇った事は無かった。


 たまたま、本当に偶然というか、女性募集・・・・という項目を全く見ないで応募したボクを何故か気に入ってくれた店長が雇ってくれたのです。運が良かったっぽい? 最低時給だし昇給も無いけど不満はありません。この空間に居られるだけでプライスレスです。


 ボク以外が全員女性というハーレムな喫茶店でマスコットキャラの如く可愛がられている訳だけど、何故か彼女が出来ないのです。



『ユウタは可愛いけど彼氏には無理かなー』


『私も最初良いかなって思ったけどアホだもんね』


『アホな子も可愛いけど、彼氏には無理かも?』



 遠くでボクの名前が聞こえたような気がする。きっと『あの店員さん可哀想』とか『オッサンまじで邪魔』とか言ってくれているのだろう。


 ほら、姫ちゃんが助けに来てくれました。


「すみませんお客様ぁ~、私がしっかりと躾けておきますのでご容赦下さい~。先輩、ちょっとこっち来て手伝ってくださ~い」


「あ、はーい」


 インテリサラリーマンもEカップ姫ちゃんには敵わなかったようだ。むしろボクをイジメてEカップ姫ちゃんを召喚するまでがいつものパターンな気がする。


 でもおかしい、何でボクが姫ちゃんに躾られるのだろうか……?




   ◇




 可愛いJKに揶揄かわかわれたり姫ちゃんに誘惑されたり、いつにも増して忙しいお仕事が終了しました。


 もしかしたらレベルアップしたボクの魅力でモテモテ男にクラスチェンジしたのかもしれない。でも何故だろう、お付き合いしたいとか連絡先教えてとか、そういうラブでイチャイチャな展開にならないのである。解せぬ……。


 やはりダンジョンでレベルを上げてもっと魅力を増やす必要があるな……と、今後のユウタ育成計画をマネジメントしていた帰り道の事である。何やら男女の話し声が聞こえて来た。


「七海っ、待ってくれ! 頼む、話を聞いてくれっ」


「あの、ごめんなさい。私そういうの困るんです……」


 闇夜を切り裂くような黄金色に輝く金髪が美しい女性とどこかで見たことのあるイケメンさんが居ました。あの金髪は忘れもしないボクの天敵、清楚系色白ビッチギャルなお姉さんですね。


 確かモデルさんって言ってたけどこんなところで見かけるなんて思ってもみなかった。でも喋り方とかボクを振った時と少し違うような……猫かぶりか。ニャーン!


 困ったように逃げる七海さんを必死になって追い掛けるイケメンさん。まるで姫ちゃんのEカップをガン見するインテリサラリーマンの如く不快感を与える彼はどこかで見たような……?



『あれってモデルの七海? ……綺麗』


『俳優のキムタコじゃね? めっちゃウケル』


『ちょ、待てよー! って言った。ドラマの撮影かな?』


『キムタコが必死な件』



「なるほど、あれがキムタコか」


 どこかで見たことのあるイケメンだと思ったけど、あれは芸能人のキムタコさんです。木村……なんだっけ? ホッシーなら直ぐにフルネームを教えてくれそうだけど、残念ながらボクは男の名前になんて興味がないのでどうでも良いのです。


 偶然通り掛かったタクシーに逃げ込んだ七海さん、キムタコさんの魔の手から危機一髪で逃げられたっぽい。


「くそっ、絶対に許さないからな七海……!」


 夜の街に消えていくタクシーを見てそう言ったキムタコさん、見た目だけはカッコイイけど言動がヤバい人でした。その捨て台詞は近くに居たボクにしか聞こえてないと思うけど、スキャンダルになったらどうするのだろう。でもあの芸能事務所はマスコミとかと深い繋がりがあるから問題にならないのかも。


 その時ボクは思った。芸能人のキムタコはイケメンだし『魅力』が高いのだろう。きっと80くらいあるに違いない。そんなキムタコを袖にした清楚系色白ビッチギャルなお姉さんを攻略するにはどれ程の魅力が必要なのかと……。別に攻略しませんからね?


 まあキムタコはストーカーっぽいし魅力が高くてもダメなのだろう。ボクのように紳士な男性じゃないとね。


 さて、ボクはボクで魅力を上げるためにレベルを上げを頑張ろうかな!

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