第9話 強敵


 遂にやって来ました第2回ダンジョンアタックのお時間です。今回のミッションは10階にあると言われている初級冒険者カードをゲットして持ち帰る事だ。


 賢さが5しかないボクだけど、前回の攻略で何となくイメージ出来たからいけそうな気がする。っていうか掲示板で他の人のステータス見たけど高すぎじゃないかな? ステータスが5とか誰も居なかったですよ?


「ふむ、敵影なし。アイテムはカードが1個か」


 入場したフロアは安全だった。ここからはダンジョンだ、気を抜かずに頑張ろうと思う。さっさとアイテム回収しちゃおう。



【緊縛カード】

周囲に接している敵を縄で縛って動けなくする。

攻撃を受けるまで有効です。



「……緊縛カード?」


 えっと、これってR18なカードじゃないですよね? ボクはもう運営かみさまから警告を受けてお引越しとかしたくないですよ? あれ、ボクは何を言っているのだろうか……う゛っ、頭が。


 まあ大丈夫だろう。緊縛とはつまりモンスターを縄で縛って拘束する事だ。所謂金縛りです。立派な攻略アイテムです。緊縛っていう言葉にエロさを感じるのは止めてもらって良いですか? ごめんなさい、やばそうならギルマスに相談しますので許して下さい。



【マジックバッグ】

・ビッグマッキュセット

・ラブリーポーション♡

・緊縛カード



「そう言えば夏子さんに貰ったラブリーポーション♡を忘れてた。どんな効果なんだろ」


 安全なうちに確認してしまおう。



【ラブリーポーション♡】

魅了効果を与える薬。

飲むと敵が味方に見え、敵に当てると一定時間味方になる。



「普通のアイテムだった件。これってつまりテイムアイテムみたいな感じとみた」


 夏子さんはどうしてこんなアイテムをボクに渡したのだろうか。何かお詫びのような雰囲気だったけど……。


 気になるけど冒険を優先させようと思う。通路を通って大部屋に到着しました。


「敵影4だと!?」


 マップを見ると通路へと続く道はボクの後ろとモンスターを倒して進んだ先にあるようだ。通路におびき寄せて一匹づつ倒せば行けるかな? ちょっとだけ近づいてモンスターを見てみよう。ウロウロ……。


 遠くから4匹の敵が近づいて来た。ふむ、この感じはスライムちゃんです。通路に戻ろうとしたところ、通路からもモンスターが来ている事に気が付いた。まさかの挟み撃ち……クソゲーか?


 ここでボクはキュピーンと閃いた。きっと緊縛カードを使えという神の意志だろう。ダンジョンが定めたアイテムをダンジョンモンスターに使うだけだ。何もおかしなことは無い!


 緊縛カードは周囲に効果があると言っていたからわざと囲まれる作戦が良いだろう。


『ピギィィィ!』


「くっ、痛くないけどビビっちゃうな。でもこれで包囲完了だ。ボクがされる方だけど」


 ボクは5匹のスライムに囲まれてしまった。だがこれは作戦通りなのだ。ここで緊縛カード先生の出番です。もう一度言っておきますけどスライムを金縛りにするだけだからね?


 使い方は分からなかったけど、カードを手に持って念じたら使えた。


 手に持ったカードがキラキラと輝きサラサラと消えていった。そしてスライムの下から突如荒縄が現れて拘束してしまったのだ。


『ピギー!?』


「おお、緊縛スライムだ」


 荒縄で縛られたスライムが5匹完成していた。ふぅ、危ない危ない。セーフです。一時はどうなるかと思ったけどこれなら大丈夫だ。ちょっと荒縄が食い込んでるけどスライムだし……。


 カードの説明にあったように、どうやらスライム達は金縛り状態になっているらしい。この状態でボクが攻撃を仕掛けたら縄が解けて襲い掛かってくるという事だろう。


 このカードは囲まれても1匹づつ対処が可能という素晴らしい効果なのだ。緊縛っていう名前がいかがわしいだけです。ギルマスに要望すれば名前変えてくれるかな?


 ボクはまたまたキュピーンと閃いた。


「……これならポーションを試してみようかな」


 もしかしてレベルアップした事で頭が冴えているのかもしれない。でもレベルアップしてもダンジョンの中でステータスは意味ないって言っていたような……? まあいっか!


 マジックバッグからラブリーポーションを取り出すと、ふと夏子さんの話を思い出した。確か『1階のモンスターと遭遇したら飲んでみて』と言っていた。テイムアイテムだから敵に投げるのかと思ったら飲むらしい。ちょっと怖いけど夏子さんの言葉を信じようと思う。ゴクゴク……。


「なん……だと……!? 荒縄に縛られた夏子さんが5人も!?」


 ピーチ味の液体を飲み干したらスライムちゃんが夏子さんに変身した。ラブリーポーションの効果にあった『飲むと敵が味方に見える』というのはこういう事だったのか!


『んっ……ユウタ君だめっ、早くこれ解いて~』


「ご、ゴクリ……」


 セーターにエプロン姿の夏子さんが荒縄で縛られている。どんな感じか詳しく言えないけど胸が強調された感じなのである。スマホがあれば写真集が出来るくらい連写していたところだ。


 っていうかこの状態だとスライムの声が夏子さんの声になるんだね。


 さすがにこのままの状態はマズイと思うので夏子さんを倒そうと思う。夏子さんじゃなくてスライムだった。


「ごめんなさいー!」


『あんっ!』


 ボクの右手がムニュっとスライムに埋まった。今まで倒して来たスライムとは違う柔らかさが右手に感じたのだ。スライムなのにスライムじゃない、でもこれはスライムであって……う゛っ、頭が。


 かつてない程の柔らかな感触に驚いていたところ、一撃で倒せなかったスライムからの反撃があった。そうだ、攻撃すると縄が解けるんだった。


『うふふ、今度は私の番よ~。えいっ!』


「っ!?」


 スライムの攻撃がボクにクリティカルヒットした。ポヨンポヨンと揺れる大きなスライムがボクの顔にムニュっと当たったのだ。


 まさにドラゴンなクエストのゲームに出て来るパフパフのような攻撃をされたボクは大ダメージを受けてしまった。魅了状態にあるからだろうか、夏子さんの甘い香りも感じるのだった。


 今まで生きて来た中でこれ程の攻撃を受けた事があっただろうか……いや、無い!


『どうしたの、次はユウタ君の番よ~』


『ユウタ君、これキツイわ~』


『胸に食い込んで……んっ、痛いかも』


『解いてくれたら~良い事してあげる~』


『一緒に楽しみましょう?』


 ボクは考えた。このまま夏子さんを殴りつけて良いのかと……。


 昨今、世界中で女性への暴力が問題視されている。DV被害に遭う女性達を見ると心が痛むのだ。女性を大事にしないクズは死んでしまえとか、たまに過激な事を考えたりするのです。


 例え魅了状態でスライムが夏子さんに見えるからと言って女性を殴っても良いのか? 夏子さんのような女性を縄で縛るなんて非道は許されるのか? 否! 断じて許されるはずが無いのであるっ!


「ごめんなさい夏子さん、今解きますからねー!」


 ボクは残り4人の夏子さんの縄を解いた。触る時に夏子さんのスライムに攻撃しちゃうのは許して欲しい。不可抗力ですから。


 ムニュっと右手が幸せになった次の瞬間、ボクの顔にムニュムニュっとスライムが飛び掛かって来る。5人姉妹の夏子さんがボクを囲んで順番待ちしているのである。何て素敵な連鎖反応だろう。


 これも夏子さんを救う為だと励んでいたら、急に視界が真っ暗になった……。




   ◇




「おう、戻ったか。随分と早いお帰りだなぁ」


「…………ただいまです」


 つい数分前に見た景色に戻って来てしまった。今日はクリア目指して頑張る予定だったのにどうしてこうなった……。どうやらボクは夏子さんにやられてしまったようだ。色んな意味で。


 あとギルマス、うざいからニヤニヤするの止めて下さい。


 ニヤケ面のギルマスのところへ行き水晶玉に手を当てて記録を更新する。



【ハイスコア】

1:200G 冒険者のダンジョン地下3階で、フェンリルベビーに倒される。

2:0G 冒険者のダンジョン地下1階で、夏子さんに倒される。

3:

4:

5:

6:

7:

8:

9:

10:



「こりゃ凄い敵と戦ったんだなぁ。強敵だったか?」


「はい、めっちゃ気持ち良かったです」


 ハイスコアに不名誉な記録が更新された。っていうかスライムじゃなくて夏子さんなのね。


 『俺は全て理解しているぞ』というギルマスの下品な笑顔がキモイです。でも女性のギルマスにこれを知られたら軽蔑されちゃうかもしれない。


「俺も男だから理解出来るけど程々にな。スライムか?」


「ギルマスは分かってくれるんですねっ! もちろんですよー」


 強面なスケベ親父だった。


 だがボクはギルマスの事を侮っていたようだ。強面がニヤリと笑い恐ろしい事を言って来た。


「良い事を教えてやる。1階にいる吸血蝙蝠の攻撃は吸血だろ? だが実際に血を吸われる訳じゃない」


「えっと、確かにそうですね」


 コウモリはフラフラ飛んでいるだけで接近すると牙でチューチューされちゃうのだ。


「魅了状態だとな……唇を吸われるんだぜ。まあ程々にな!」


「なんだってー!?」


 つまりコウモリが夏子さんになったら、夏子さんがボクに抱き着いてチューチューしてくれるって事ですか!?


 まさかギルマスがこんな情報をくれるなんて思ってもみなかった。もしかしたらギルマスを女性に設定していたらこういう情報は得られないのかもしれない。結果オーライってやつか!




 さて、ギルマスに報告したし今日の冒険は終了だ。夏子さんに挨拶して帰ろうと思う。ちょっと気まずいけど挨拶は大事だからね。


「おかえりなさいユウタ君。ポーション使ってみたの?」


「え、えへへ。間違って飲んじゃいましたー!」


「あらあら~、間違っちゃったならしょうがないわね」


 ボクの結果を全部理解しているであろう夏子さん、まあ夏子さんが飲むように言って来たくらいだからエチエチな事に寛容なのだろう。エッチなお姉さんとか漫画の世界にしか居ないと思ったけどいるんだね! いや、ここは夢の世界だから現実じゃないのか?


「それでそれで、ユウタ君にはどんな女性が見えたのかな~?」


「むむっ? そりゃもちろん夏子さんですよー!」


「あらあらっ、嬉しいわ~」


 何故か凄く喜んでいた。もしかしてコレ、ランダムで女性が見えるとか?


「このラブリーポーションはね、飲むときに強く想像した異性が出て来るのよ~」


「そうなんですか!?」


 確かにボクは飲む時に夏子さんを思い浮かべた。つまり他の女性を思い浮かべて飲んだら……ゴクリ。


「ラブリーポーションは2000Gで販売してるから是非買ってね~」


「わ、分かりましたー!」


 ボクの新しい目標が決まりました。お金を貯めてラブリーポーションを買います!

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